第31話 使役
「うまうま……うまうまうま……」
バンシーがモグモグと、メイドの持ってきた肉に齧り付く。
その際の声が無駄に可愛らしいから困る。
「師匠!やばいっす!シーちゃん超かわいいっす!」
それを見てリーンが燥ぐ。
まあまだ子供だし、しかも一応女の子だ。
小さな生き物をみて喜ぶのも分からなくはないが……師匠の胸に寄生してる生き物をみて喜ぶのは流石にどうかと思うぞ?
「ねむ……ふわぁ……」
腹いっぱい飯を食って満足したのか、両手で目元をこする様な仕草をする。
そして大きく欠伸を一つすると、最初にバンシーを包んでいた花弁部分が閉じて蕾の様な形に戻ってしまった。
「ふあぁぁ……はぁ……なんか俺まで眠くなってきた」
「バンシーの影響かもしれないわね」
「えぇ……怖い事言わないでくれよ。テア」
状態異常耐性のお陰で操られてはいないが、体が繋がってる以上多少のリンクは有ってもおかしくはない。
俺の感覚がバンシーに引きづられるのは十分あり得る事だった。
「まあでも、悪い事ばかりじゃないわよ」
「何がだ?」
「Sクラスモンスターを使役できれば、役に立つって事よ」
「使役ってお前……」
「折角胸に居ついてるんだから、利用しない手はないんじゃないの?」
テアの言う事は尤もな話ではある。
今の所取り外す術がないのだから、利用する方向で検討するのが前向きなのは確かだ。
実際、戦った俺はこいつの強さを良く知っている――蟻の体にいたのと同等と見なす前提ではあるが。
その能力――周囲を無力化する呪い――を上手く利用できれば、アイリーンへの報復もかなりやり易くなるだろう。
「この際、本格的に飼いならされては如何でしょうか?勿論万一の時の為に、対処法も探しつつの話ではありますが」
「そうですね。対処方がないのは論外ですけど、それを見つけた上で利用するってのは確かにありかもしれません」
目的達成に利用し、その後体から切り離して元の世界へと帰る。
悪くはない案だ。
寧ろ名案と言ってもいい。
利用するだけ利用してポイするのは心情的にあれだが、所詮相手は魔物。
しかも勝手に俺の体に寄生した様な奴だからな、心を痛める必要は無いだろう。
「でもアイシャさん。こいつ、そんな簡単にコントロール出来ますかね?」
今は俺の事をパパなんて呼んではいるが、仮にも相手はSランクに指定される強力な魔物だ。
いつ牙をむいて来てもおかしくはない。
「知り合いに優秀なテイマーの方が居ますので、その方にお話を伺ってみましょう」
アイシャさんは貴族かつ傭兵ギルドのマスターだけあって、顔が広い様だ。
しかしテイマーなんてクラスも有るのか。
一般のクラスで魔物が使役できるとは考え辛いので、多分特殊クラスなのだろう。
「お願いします」
俺は改めて彼女に頭を下げる。
なんか借りを作りっぱなしだが、それはギルド員としてち働いて返すとしよう。
「む、シーは?」
「え、ああ。何か腹いっぱい食って蕾みたいなのに戻りました」
いつの間にかいなくなっていたリーチェさんが戻って来て、シーの事を訪ねて来た。
その手には、小さな緑の布が握られている。
「服を用意したのだが……」
「あら可愛らしい服ですわね」
「急いで作った」
どうやら、いなくなったのはバンシー用の服を作るためだった様だ。
ひょっとして気に入っているのだろうか?
「お前の服も作ってやる」
「え?俺のもですか?」
「胸元に小さな穴の開いた服だ」
どうやら其方もバンシーの為の様だ。
そんなもん丸出しで生活したくはないんだが……断るのもあれか。
「はぁ……ありがとうございます」
俺は心の中で苦笑いしつつも、彼女に軽く会釈した
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