第15話 暗殺
「貴様!貴様が悪い!奴を捕えろ!!」
意識を取り戻したちょび髭の隊長が、俺を指さして怒鳴る。
どうやら全ての責任を、俺に押し付ける腹積もりの様だった。
「やれやれ」
山の崩落で瓦礫に埋もれていたこの男を助けてやったのは俺だと言うのに、恩を仇で返すとは正にこの事だ。
因みに26人中、助かったのはちょび髭を入れて6人程しかいない。
「あんたなぁ、こんな状態で捕らえるも何も無いだろう?」
生存した兵士は、全て結構な怪我をしている。
その内の1人が魔法を使えたので、応急処置程度の回復を全員に施してはあるが、骨折などの重症は本格的に治療しなければどうにもならない。
つまり、兵士は全員とても戦えるような状態ではないと言う事だ。
「五月蠅い!貴様ら何をしている!早くとらえんか!!」
どうやら頭に血が上ってか、人の話を聞く気はない様だ。
まあ例え落ち着かせたとしても、ちょび髭が責任逃れのための主張を曲げるとは思えない。
俺にとって、この男は厄介この上ない存在だ。
殺人……そんな言葉が俺の頭を過る。
訳の分からない異世界で生き抜くんだ、綺麗ごとだけで済ませる事は出来ないだろう。
そもそもアイリーンと事を構えるのなら、いずれ誰かを手に掛ける事になるのは目に見えていた。
結局は、早いか遅いかの違いしかない。
「俺はあんた達の命の恩人なんだぜ?そんな人間に責任を押し付けようってのか?」
だが、誰彼構わず殺す様な真似はしたくなかった。
止むを得ない状況か、徹底的に俺に敵対する奴だけに限定する。
だからちょび髭に尋ねた。
こいつがどうあっても、俺の障害になるかどうかを。
「ふざけるな!貴様のせいでこうなったのだ!全部貴様のせいだ!」
まあ聞く前から答えは分かってはいたが……俺も覚悟を決めるとしよう。
「やれやれ……まあその話は置いておいて、まずはカンソン村まで戻ろう」
俺は苦笑いしながら、さり気無くちょび髭の肩に手を置く。
ソフトタッチではあるが、勿論これは攻撃だ。
「ぐ……うぅ……なんだ……」
兵士達に背を向けた俺は、見えない様にムカつくちょび髭の顔面にエアパンチ。
あっけなく気を失い、ちょび髭はその場で伸びてしまう。
「ん?やれやれ。怪我してるのに暴れるからそうなるんだよ」
いきなり気を失ったちょび髭を見て、兵士達が慌てふためく。
俺はもっともらしい理屈をつけて、兵士の1人に抱えて村まで運ぶ様に頼んだ。
直ぐに殺すより、弱った状態を周りに見せつけてから殺した方がバレにくいと思ったからだ。
勿論村へと運んでいる間もエアデコピンは忘れない。
「きっと打ち所が悪かったんだろう」
村に残ってた馬番達に気絶したちょび髭を見せて、そう説明する。
まあこれぐらいで良いだろう。
そう判断した俺は、強く手を握った。
攻撃対象は――奴の腐った脳みそだ。
「ぎゅ……あぁぁ……」
次の瞬間ちょび髭の体が跳ねて、泡を吹いて動かなくなる。
スキルが切れた事から、奴が死んだことがハッキリと伝わって来た。
この状態で俺の暗殺を疑う奴は少ないだろう。
酷い状態だったので村まで運んだが、手遅れで死んでしまった。
きっとそう考える筈だ。
しかし――
「はぁ……」
慌てふためく兵士達を横目に、俺はその場に腰を下ろした。
凄く気分が悪い。
ムカつく敵を始末しただけだと言うのに、まさかこんなにメンタルに来るとは思わなかった。
俺に人殺しは向いていない。
それを痛感させられる。
これからは出来るだけ人を殺さずに済ませたい物だ。
毎回こんな思いをしていたんじゃ、心が持たん。
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