act.95 窮鼠猫を噛む
黒いローブの男達に背後から静かに近づく物体は、彼らに気取られないように慎重にその距離を詰めていた。次の瞬間、スライムのように蠢いていた球体から生まれるように拳大の球が二つ排出され、弾けたように短刀を持つ男に襲い掛かる。
背中への直撃を免れないと思ったが、男はすんでのところで回避した。気配を放たず、物音すらせず、不意に襲い掛かった球を避ける身のこなしと瞬発力は特筆すべき程だ。しかし、唐突なことで華麗に避けたとは言えない。
体勢を崩された所に第二の球体が男に襲い掛かる。男は咄嗟に短刀を突き出し応戦しようとするが、それこそが謎の球体の、彼女の目的である。
いつどこで仕込んだかは不明だが、それは紛れもなく彼女、モニカの魔力で生み出された水弾だろう。
水弾は男の手に命中し、もっていた短刀を弾き飛ばした。
「クルト!」
モニカを拘束し、今まで全く声を発しなかった影が口を開く。低めの声でどうやら今まで交渉をしていた男の名前らしい。
クルトと呼ばれた黒ローブの男の短剣を弾き飛ばした水弾はそのままの勢いで低い声の男へと迫る。
「クソッ!」
モニカを拘束している男は右手だけを離し、水弾を弾き飛ばそうと払った。しかし、その手は
「大丈夫か! ラウレンツ!」
クルトが相方の影を呼ぶ。だが、ラウレンツは口元を水で覆われ、呼吸が出来ない状態になり、パニックを起こしていた。予期せず生命活動に不可欠な空気を遮断されるのだ。どれだけ
訓練や経験を積んだ人間であっても、落ち着けと言う方が難しい。
その隙をついてラウレンツの手から逃れたモニカ。しかし、その背後にクルトが迫る。
「危ないモニカ!」
叫ぶイグナール。だが、この距離では彼女を助けることが出来ない。頭は今の状況を把握するので精いっぱいであり、体は硬直したままだ。だから警告を発することくらいしか出来なかった。
だがその警告も意味はなく、クルトの身体全体を使った恐ろしい程の回し蹴りが、逃げ行くモニカの背中を襲った。鈍い音と共にモニカの身体が真横に吹き飛ぶ。このままでは堅い木に激突す――
「モニカ!」
木に激突する直前のモニカをヴィクトリアが抱き留める。しかし勢いは殺しきれず、一本の木を激しく揺さぶった。
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