act.13 無能だった彼のささやかな矜持
2人は魔石店に入り品物を物色する。
「うーんスライム討伐のことを考えるとやっぱり炎の魔石が欲しいかなぁ」
「デボラさんみたいに風魔法じゃダメなのか?」
モニカは大きく頭と手を振り、無理無理と連呼する。
「デボラさんレベルの風魔法なんてどんな高価な魔石使っても私じゃ無理よ。イグナールも魔法の方は実戦で使うのは恐いし、剣の
「あぁ、そうだな」
モニカは魔石を手に取り品定めをしているイグナールの横顔を見つめる。彼の行動に違和感があるのかだんだんと眉根を下げつつ観察する。
「どうしたのよ。いつもなら『俺は魔石なんかに頼らねーぜ』って言って出てっちゃうくせに」
「んん? あぁ、確かに今までの俺なら言ってたな。実際俺は魔石に頼って魔法を使うのはなんて言うか……自分に負けたような気がしてたんだよ」
イグナールは過去の自分を思い出してシニカルに笑った。
「でも自分で魔法が使えるようになって気にならなくなった?」
「まぁそれもあるが……1番はディルクに置いて行かれたことだな。だから俺はそんなちっぽけなプライドを捨てて強くなると決めた。勇者と肩を並べて戦えるくらいに、ディルクに背中を預けてもらえるくらいにな。それに、今は俺がモニカを守ってやらないとだしな」
イグナールの真剣な眼差しに笑みを零しながらモニカは言う。
「イグナールは強いよ。そうやって前に進んでるんだから」
そして彼に聞こえない声でモニカは自分の決心を零した。
「私だって前に進んで見せるんだから……」
「なんか言ったか?」
「決めちゃったんだから覚悟しなさいよ! ってこと」
「ん? あぁ、もちろん!」
モニカの言葉はイグナールと自分自身に向けられた言葉だろう。モーニカ・フォン・ハイデンライヒ、16歳。彼女の戦いはこれからだ。
2人はスライム討伐に向けて、いくつか安価な魔石を見繕い魔石店を後にした。
「ねぇ、イグナール。剣は新調しないの?」
「新しくしたいのは山々だが、今日中に依頼の達成が出来るとは限らないし、金には少し余裕を持たせておきたいな」
魔石店を出て向かいの武具店と金の入った袋を交互に見ながら悩むイグナール。
「ま、見るだけでもいいか」
そう言って2人は武具店に入り、すぐさま出てきた。
「さすがバージス……1番安いのでも出が届かないぜ」
「しょうがないわね、諦めましょう」
今まで行き過ぎた贅沢はしてこなかったにしろ、装備や準備には妥協していなかった。金がないとはこんなにも不自由なのかと痛感する2人であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます