act.10 ギルド登録とライセンス
「それでは紹介状の方は処分致しますね」
そう言うと受付の女性は羊皮紙に乗せた紅い宝石を持ち上げた。すると羊皮紙は自ら燃えだし一瞬にして灰と化し、彼女の持つ紅い宝石に吸い込まれなくなる。紅く輝いていた宝石はその輝きと色をなくし黒ずんだ石へと変貌していた。
「それではイグナール・フォン・バッハシュタイン様、モーニカ・フォン・ハイデンライヒ様、こちらのライセンスにご登録をお願い致します」
2人は受付の女性からライセンスと呼ばれた透明の宝石を受け取る。
「登録?」
宝石を摘まみ上げ頭を捻り見つめるイグナール。
「これは1種の記憶結晶ね。属性判別の時みたいに魔力を込めるのよ」
「はい、魔力情報を保存し身分証の代わりとさせて頂きます」
モニカの説明を受付の女性が補足してくれる。モニカは宝石を手に握る。目を閉じ精神を統一して魔力を流し込む。手の中から青白い光が漏れ出て消える。
モニカがゆっくりと手を開くと無色だった宝石が蒼色に染まっていた。彼女の水の属性魔力を吸い込み変化したのだ。それは澄んだ海を思わせるようで、中心には底知れぬ深さを思わせる黒が見える。イグナールはその美しさに目を奪われた。
「綺麗だ」
「え、ちょっとイグナールそんないきなり……恥ずかしいじゃない」
「モニカのライセンスすげぇ綺麗だな」
「あ、ああ……そっちね。不思議なことに例え同じ属性でも全く同じ色合いはないってくらい、個人差が出るものなのよ」
それってつまり間接的に私が綺麗って言われたのと同じじゃない?とモニカは考え至り顏を紅潮させる。
「どうしたモニカ、顏が赤いぞ? 結構魔力を使うものなのか?」
「うるさい! なんでもないから早くイグナールも試してみてよ!」
イグナールに背を向け顏を隠すモニカ。受付の女性はなんと年相応の反応だろうと微笑していた。
「よし、それじゃぁ……待てよ。受付のお姉さん、もし無属性だったらこのライセンスはどうなるんだ?」
イグナールは浮かんだ素朴な疑問を投げかけた。つい昨日まで無属性だった彼としては気になる事柄であろう。
「無属性の方が討伐ギルド登録をした事例がありませんので……別ギルドからの噂程度ではございますが、ライセンスのご登録には問題ないはずです。ただ、色に変化はなく無色のままではないでしょうか」
「そうか……」
その他の鍛冶ギルドや商人ギルドに所属するような戦闘から遠い者達ならまだしも、討伐ギルドのような戦闘を主になるならば無属性の人間は圧倒的不利である。素の身体能力など魔物どころか、温厚な動物たちにも劣る人間が、魔法の力なくして対抗するのは難しい。
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