第122話 素材を集めよう5
王様に勧められた通りに王城を出る。入れ違いに他のプレイヤー達が王城に流れ込んで行くのを見ると王様の助言通りに行動して正解だったと心底思った。
魔石に因る強化はソロ(ボッチ)スタイルのプレイヤーには鬼門だ。特に不本意ながら有名プレイヤー扱いされている俺などは、フレンドとトレードするのなら兎も角。非公式の魔石交換イベントになど参加できない。もし参加しようものなら、掲示板にて「おい、死神さんが交換会場でボッチしてらっしゃるぞwww」などと笑われかねない。
とは言え魔石が公開されて初日に交換会など誰もやらない。初日に作った魔石は自分のグリモワールを強化するのに消費してしまうだろうから。
少し考えれば、魔石で強化する場合の問題点が見えて来る。
一つは作り出せるのが、一人に付き一日一個という希少性。それでもプレイヤーの数はリンクスの生産台数10万台 (第二生産を含む)を考えると凄まじい人数だ。全員がプレイしないにしても一日に作り出される魔石の量は少なく見積もっても万を超えるだろう。
二つ目は魔石のランクだ。まだ作り出される魔石が、プレイヤーの何に影響を受けてランクが上下するのかは不明だが、プレイヤーが成長する事で作り出す魔石のランクが上昇する可能性が高い。ならば最低でも自分の魔石でグリモワールを強化する時は、最高品質の物を使うべきだ。魔石だけランクの表式がアルファベットなのは、魔石のランクに上限が設けられていると考えるべきだ。
三つ目は魔石の強化以外の使い道だ。
考えてみれば最高品質の魔石を強化に使用する事は、誰でも思い付く単純で当たり前な結論だ。では使用されない最低品質のクズ石に利用方法が無いのだろうか。それもあり得る話だが、この魔石はグリモワールを強化する為の物だ。つまりは強化素材だ。
もし強化素材なら、装備品に使うのはオンラインゲームの常識である。そしてゲームタイトルによっては武具の製造にも使うのが強化素材だ。
「せっかく新しい装備を作る所だからな…試さない手は無い」
ニヤリっと顔を歪ませて、レシピ回収クエストに戻る。何とかしてあのカブトムシを攻略せねば。
「…やっぱりデカイなぁ…」
今回の獲物であるトライデントエアービートルの情報を素早く頭の中で思い出す。このカブトムシ実は、出現自体がレアなフィールドボスなのである。
ボスは現在四種に分類されている。
『フリーボス』
ボスNPC。能力性格性別など個体ごとに変わっているボスで、街の中に入ることが出来る。
(例、地竜)
『フィールドボス』
各エリアに存在する固定ボス。出現は稀だが、確定で宝箱をドロップする。
(例、トライデントエアービートル)
『イベントボス』
公式イベントに登場するボス。出現するかはイベント次第。
(例、ゴブリンキング、ゴブリンデストラクター)
『ユニークボス』
世界で唯一のボスモンスター、出現は極々稀。討伐者に多大な名誉を与える。
(例、隠滅のアリア)
フィールドボスであるトライデントエアービートルが出現したのは、俺が受けたクエストの影響もあるのかもしれない。
仮にもボスを名乗るだけあって、遠近攻撃に隙がない。近づけば三又の角と巨体からの突進。離れれば風魔法による遠距離攻撃だ。
虫な上に風属性だから火魔法で焼けば手っ取り早く勝てそうだが、火魔法は使いこなせるイメージが湧かない。結局、装備もステータスも前回と同じだ。
まぁ、せめてもの抵抗に夜に来たけど。
「弱点の目星は付いてるが…ミスしたら確実に負けるのがなぁ」
それも相手がボスだとするならば、弱点を狙った所で少し有利になる程度で倒すには至らないだろう。
「『
カード召喚は有限だが、絶対的に手数が足りない時に重宝する。今回の様に属性魔法を覚えた
「一斉攻撃、かかれ!」
有難い事にファイヤーゼブラは群れで暮らし行動する。レアドロップの為に乱獲したのが、こんな所で役に立つとは思いもしなかった。
「ギギギ!?」
トライデントエアービートルは自分に向かって、全力疾走するモンスターの群れを見て驚き困惑する。フィールドボスとは、現実視点で言う処の其処に住まうヌシである。そのヌシに取って代わろうと襲い掛かる生物は、これまでにもいた事だろう。
しかし、今襲いかかって来ているのは一つの種族の群れではない。自らの生きる地域に根差した生物の連合軍である。
トライデントエアービートルは、まるでお前がこの地に住むのを認めないと近隣から猛抗議を受けている気分になった事だろう。
「前衛…と言うか召喚したモンスターが多すぎて近距離戦は無理だな」
いくら味方とは言え、モンスターの群れの中に紛れて得物を振り回すのは、無謀と言わざる負えない。
「『ダークピッド』『ダークランス』『ウインドカッター』」
手持ちの遠距離攻撃は魔法しか手段がない。必然、攻撃になってMPドンドン消耗する。それを補うダークピッドも機能こそすれ消費分を回復させるには物足りない。
「あ、同じ属性の攻撃って効くのか?」
風属性の魔法を操るトライデントエアービートルに果たして同じ風属性の攻撃でダメージを与えることが出来るのか、出来たとして威力が減退するのではないか、MPの消費を考えると知って於きたい情報である。
「ギィ!」
群れとなったファイヤーゼブラの撒き散らす火魔法を嫌って、トライデントエアービートルの前羽が音を立てて開く。
「今だ!」
戦いを始める前から考えていた弱点。カブトムシが空中を飛行する場合、
トライデントエアービートルにとって、上翅は柔肌を覆う装甲であり鎧なのだ。
「狙うべき部位は、鎧の下ァアアァァ!!」
クリムゾンサイスを発動させ、
「ギィ――――!?」
深々と突き刺さった刃に、掠れた悲鳴を響かせる。
「追撃!」
この戦いに油断や慢心など挟む余裕は無い。今持てる有りっ丈をぶつける。
「『ダークランス』『ダークランス』『ダークランス』『ダークランス』『ダークランス』『ダークランス』『ダークランス』『ダークランス』」
背中に差し込んだグロノスを支柱に飛び乗ると、ガラ空きの背中に魔法を放つ。その度に下からか細い悲鳴が発せられる。
召喚したモンスター達は、暴れ狂うトライデントエアービートルからの攻撃によってその殆どが消滅してしまっている。
背中に陣取る厄介な敵を振り払おうと、トライデントエアービートルが激しく体を揺らす。魔法を放ちながらグロノスに掴まっている中、ふと外れた視界に草に燃え移る炎が映る。
「アレだっ『エクスペンドウインドウ』!」
ゴブリン奇襲部隊で使った切り出番がなかったが、使い方を忘れた訳じゃない。エクスペンドウインドウは、風の力で効力の届く範囲を広げる事を目的とした魔法。時に病原菌を広範囲に散布したり、時に風で毒霧を運んだり、時に炎に
「燃えろォ!」
瞬時に魔装化を解除して、巨大甲虫の背中から距離を取る様に飛び降りる。
魔法に因って風が動き、炎はみるみる内に大きく燃え広がる。
「ギィイィィ!?」
トライデントエアービートルには、自分の足元に一瞬で火の海が作られた様に感じている事だろう。そして、今や自分の身をを守るべく体に纏っていた風は、火をくべる薪となって炎を強化してしまう。
「風で出来た壁を知っているか?」
夏場、常に扉を開いている店などに見られる空気の層が作られた状態。入り口上部にクーラーが設置され、そこから排出される風によって中の気温を外に逃がさない仕組み。
エクスペンドウインドウを使用する事で風を操る事が出来る今の状態ならば、意図的に発生させる可能性がある。
火災現場で最も注意しなければならない自然現象―――。
「バックドラフト!」
その瞬間、巨大甲虫の巨体が爆ぜた。
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