第84話 地竜の咆哮

 地竜とはその名の通り、大地の竜である。


 地と言えば土の上位属性である。姉さんの氷属性魔法と同じように、最初から地属性魔法を持っていた人物がいたそうだ。他にも火の上位属性に炎、風の上位属性に嵐とキャラメイク終了時から、上位魔法のスキルを手に入れているプレイヤーが各属性に一人ずつ存在していて掲示板では、それぞれ二つ名で呼ばれている。


 何が言いたいのかというと地竜のブレスは、地属性の攻撃である可能性が高い。


 あのステゴザウルス型の地竜が吐き出したブレスには、強いエネルギーだけでなく岩や鉱石果ては金属を含んだまるで災害のような攻撃だ。このエネルギーの部分を水にして例えるならば『土石流』完全に災害である。


 俺がそんな危機的状況の中、冷静にブレスの性質を観察できているのはアリマとクロエのお陰だ。アリマは、俺たちが地竜の注意を引いている間に【魔造召喚】で次々とモンスターを呼び出しては、少しずつ数を増やし、いつの間にか一個中隊規模のモンスターが集まっていた。


 アリマはブレスが放たれると同時に召喚したモンスターを前に出し、俺達と地竜との間にモンスターの壁を作ったのだ。しかし、モンスター達の耐久力では地竜のブレスを受け止め切る事が出来なかった。だがそのわずかな時間を使って、クロエが聖騎士スキルの何かをを発動させた。そのスキルのお陰で全員が、何とか生き残る事が出来た。


「とんでもない威力ですわね…」


「流石は竜種と言ったところですか…クロエが聖騎士で助かりました」


「ボクのモンスターもみんな吹き飛ばされちゃった…」


「ですが、その間に何とか【イージス】を展開出来ました。消耗程度で済んだのが、奇跡と言った所ですね。ご主人様、お怪我は在りませんか?」


「…大丈夫だ。直撃でもないのに食らったダメージが100超えてるけどな…」


 パーティを組んでいる間は、パーティメンバーのHPとMPが簡易表示される。この簡易表示の事を俗にHPバーとかMPバーとか言われる。このHPバーが無ければ、HPを回復させるタイミングや戦闘を維持するのが難しくなってしまう。


 現在、俺のHPは二割を大きく下回る程度。


 表示されているHPバーも赤色で埋まっていたのだが、今ではその大部分を黒が支配している。


「…地竜はどうした?」


「それが…その」


「ん?」


 クロエの視線を追って、地竜の方に視線を向ける。


「…随分、面白い顔をしているな…」


 地竜の顔は何というか、随分とコメディっぽい顔をしていた。目を大きく見開き、口からは長い舌が飛び出したままに硬直している。その姿はまるで赤い人気者が跨るヨッ〇ーが、獲物めがけて舌を伸ばした姿を連想させる。


「何だか初めてブレスを出して、余りの威力に驚いている…って感じだね」


「アレですわね。アホの子…可愛いです」


 これは俺の堪だが、あの地竜がブレスをけしかけて来たのはアリマの召喚した、このモンスター達が原因なのではないだろうか。地竜は殆どダメージを負っていなかったし、苛ついていたとしても自力が違うのだからブレスは必要ない。多分、増え続けるモンスターに危機感を覚えたのだと思う。


「何だか戦い難くなってしまいましたな、ジン殿」


「…そうだな」


 ロックスの言葉は俺の意を多分なく含んだものだった。


「『やっぱり、ブレス初めてだったんだー。あはは。えー?』」


「可愛いですわ…自宅に欲しいくらいです」


 助っ人として連れて来たアリマが仇となったのか、会話が出来るだけに打ち解けるのも早かった。地竜の『アホの子』が定着してからは、戦闘にならなかった。


「しかし、このままでは土地開発も出来ない。うっかり放ったブレスで家が全壊しかねないし、放置していたら資源も無くなる」


「このまま地竜を飼うのも不可能ですな」


「餌として鉱石を食わせるのが惜しい。貴重な鉱石でもあれば、将来的に島の収入元になるだろうし、売却以外にも使い道がある」


 島での安全を確保する為に警備隊のような防衛手段が必要になる。自分の土地から鉱石が取れるなら、それを加工して武器や防具の製造を行いたい。


 取れる鉱石が希少な物なら、一つでも多く確保して於きたい。


「どうしたものか…」


 気が抜けて戦えない、当の本人はアホの子でここから離れたがらない。住まわせると鉱石がドンドン無くなっていくので論外、同じ理由で地竜をペットにすることもできない。


 その上、竜人のアリマ以外では意思の疎通は困難だろう。だから、アリマがいる今の内に地竜をどうするか決定する必要がある。


「ここは心を鬼にしてでも…」


「ちょっと待って!」


「アリマ?」


「ボクがこの子を飼うよ!」


 アリマがとんでもない事を言い出した。


「飼うのか?」


 地竜に視線を向けると状況が、良く分かっていない様で首を傾げている。


「『テイム』」


 アリマがスキルを発動させる。煙の様に蠢く光が、地竜の体を覆うと大人のステゴザウルス程の大きな体が、覆っている光が縮むのと同じように体も小さくなる。


「やったーテイム初めて成功したよー!!」


「おめでとうございます。アリマ」


≪所有敷地内の敵勢モンスターが、討伐されました。これより土地の操作が可能になります≫


≪所有敷地内に存在していた強力な敵性モンスターの討伐に成功しました。報酬として『ハウスオーブ(ランク1)』を入手しました≫


≪所有敷地内にて、フリーボスの討伐に成功しました。ボーナスとして、スキルポイント5が贈呈されます≫


≪フリーボス『地竜』の討伐おめでとうございます。記載されている討伐報酬よりお好きな報酬を一つお選びください≫


≪フリーボス撃破ボーナスとして、スキルポイント10を入手しました≫


「…おい」


「えーっと……ごめんなさい」


 今回の事がバレたら、さぞや掲示板が賑わう事だろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る