第89話 ユーリはクリフレッドに挑む

 俺は暴力を振るって奪って、それだけで良かった。

 何も難しいことを考えることはない。

 ただ自分のためだけにこの拳を振るえば、それだけで良かったんだ。

 なんて楽な人生。


 だけど。


 今は違う。

 何かを守るために力を振るい。

 人に与えるために働いている。

 面倒な人生になっちまったもんだ。

 

 でも……以前とは格段に充実した日々を送れている。

 楽しくて嬉しくて、もう昔には戻れねえ。

 俺は……人は、誰かのために生きているんだ。

 自分だけのための力じゃない。

 今俺が持っている力は、みんなを守るための力だ。

 

 ジオはツヴァイクの周囲を駆けながら思案する。

 絶対に負けられない。

 仲間のためにも。

 町のみんなのためにも。

 世界のためにも。


 だからこいつがどれだけ強かろうが関係ねえ。

 俺は持てる力を出し切るだけだ。

 それで無理なら――意地でも勝つ!


 駆け抜けろ、風よりも速く!


「うおおお! 【エアリアルドライブ】!」


 分身を含む6体のジオが、縦横無尽に暴れまわる。

 風を超える速度でツヴァイクを切り刻んでいく。


 ツヴァイクは瞬く間に傷だらけになっていき、ガクンと膝をつく。


「やったか!?」


 それを見た瞬間、ジオは胸に喜びに満たす。

 が、ツヴァイクから流れ出た新たなる血は刃と化し、ジオを襲う。

 

「なっ!?」


 一瞬で5体の分身はこま切れにされ、本体にもその刃が襲い掛かろうとしていた。

 目を閉じ、死を覚悟するジオ。


 しかし滑り込むようにローズがジオの目の前に現れ、血の刃ごとツヴァイクを鞭の餌食にする。


「血を出すほど強いというのなら……再起不能になるまで血を吐き出させてやろう! 【ブラッディローズ】!」


 ローズが鞭でツヴァイクを乱舞する。

 ツヴァイクは鞭の嵐に飲み込まれ、体がゆっくりと上昇していく。

 さらに体中から血が噴き出していき、血の薔薇が咲いている。


「これで死んじまえ! 【シューティングスター】!」


 血の薔薇の中央にいるツヴァイク目掛けてカトレアが流星の尾を引く矢を放ち、奴の胸を穿つ。


「こんな……バカな……」


 ゴフッと血を吐き出し、意識を失うツヴァイク。 

 鞭から解放され大地に落ちたツヴァイクは、そのまま起き上がることなくピクピクと痙攣を起こしていた。


「あー疲れた~。四害王とかもうやりたくない~」


 カトレアはドッと疲れたようで、その場に座り込んで大きくため息をつく。

 ジオも緊張から解放され、意識を失いその場に倒れる。


「おい、ジオ! よくやったなコラッ!」


 倒れたジオの胸を叩くボラン。


 満身創痍だが、なんとかツヴァイクを倒すことができた四人。

 ローズもホッとし、安堵のため息をついた。


 しかし。


 安堵したのも束の間、ローズは新たなる敵の姿を見てズンと内臓が重くなる感覚を得る。


「ブ……ブラットニー……」


 彼女らの目の前に現れたのは四害王の一人、滅殺のブラットニーであった。

 体力を使い果たし息も切れ切れでローズらは、絶望にも近い焦りを感じながらブラットニーと対峙する。


「お前ら殺、す」


 ◇◇◇◇◇◇◇


 ブルーティアで大半のモンスターを倒した俺は、ソードモードになったティアと共に大地に降り立つ。

 

 唖然とするレイナークの兵士たちを背に、俺は一人残るモンスターへと突撃を仕掛ける。

 残りは数千。

 俺一人でも問題ない数だ。


 最初の敵を切り伏せると、ブルーティアからは【爆炎】の魔術を放出する。

 【火術】の上位魔術である【爆炎】は、周囲の敵を飲み込み、爆ぜていく。

 悲鳴を上げる間もなく、次々と蒸発していくモンスターたち。


 焦げる匂いが充満し、赤く染まっていく戦場。

 

 その爆発を見た兵士たちはようやく我に返り、モンスターに向かって走り出した。

 

「味方を巻き込むのはマズいな」

『そうでございますね。できる限り周囲に影響を与えない魔術でフォローいたします』

「話が早くて助かるよ」


 【爆炎】から【火術】に切り替えて、周囲の敵を燃やしていくブルーティア。

 間に【水術】挟んで、着実に敵の数を減らしていく。


 仲間たちも奮闘し、俺たちの力もあって、圧倒的な勢いで敵を蹴散らしていた。


「アルベルト、敵の大将を確認した! あいつは俺に任せてくれ!」

「あ、ちょっと……」


 そう言うや否や、仲間の中でも一番の戦果をあげていたユーリは、敵の中央を突破するかのように、全力で走り出した。

 敵の大将を相手にするなんて、と俺はユーリに対して不安を感じながらも、彼の顔を立てるためにフォローを開始する。

  

 ユーリの進む道を開くように、【火術】と【水術】を連続で放っていく。

 モンスターは燃え上がり、または水に貫かれ絶命する。


「おおおおおっ!」


 襲い来るモンスターをユーリは炎の剣で切り払い、そしてモンスターの大群を切り抜け、その背後にいる魔族と対峙する。


 その魔族はハッとするほど美しい男性で、凶悪なモンスターたちを率いているとは思えないほどに穏やかな表情を浮かべていた。


「俺はレイナーク騎士団長、ユーリ! この大地を人間の手に取り戻すため、お前たちを倒させてらもう」

「俺はクリフレッド。できることならやり合いたくはない。降参してくれないか?」

「降参? この状況を見てよくそんなことが言えるな! 勝利は……我ら人間の物だ!」


 ユーリは激情に満ちた瞳でクリフレッドに向かって突撃する。

 しかしクリフレッドって……四害王最強と呼ばれている魔族のはずだよな。

 そんなの相手に、ユーリは勝てるのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る