第63話 ブラットニーは襲来する①

「……どういたしますか、アルベルト様」


 ローズが硬い表情、硬い声で俺に聞く。


「……やるしかないよなぁ」


 俺は一度深呼吸し、Aクラスモンスターたちを視認する。


 どう考えてもみんなが相手できるようなレベルじゃない。

 海の中で、何も手にせずサメと戦うようなものだ。


 普通の人間が戦うには強大過ぎるモンスター……


 俺だってできることならやりたくはないけど。

 だけど、こいつらと戦えるのは俺ぐらいしかいない。

 

 俺はティアとデイジーに 【通信テレパシー】で声をかける。


(ティア、デイジー。問題が発生した。悪いけどこっちに呼ぶぞ)

(にゃはっ! にゃははっ! ……かしこまりました)


 ティアの奴、また元気いっぱいに暴れ回っていたようだな。

 俺は呆れ気味に笑いながら【呼び出しコール】を使用する。


 目の前がキラキラと輝き、ティアとデイジーが顕在するかのようにその場に現れた。


「いきなりで悪かったな」

「ううん。お兄ちゃんが一番大事だから……悪い事なんてないよ」


 ピタリと俺の体に身を寄せて来て、デイジーはそう言う。

 俺はあまりの愛らしさにガシッと彼女の体を抱きしめる。

 するとカトレアもなぜか、デイジーの体を抱きしめた。


「可愛いっ! 私のデイジー可愛いよぉ!」


 俺とカトレアから熱い抱擁を受けるデイジーは、「えへへっ」と嬉しそうに笑う。

 

 なんという可愛らしさ。

 なんという天使力。

 なんという破壊力。


「ご主人様、ご指示を」


 このままずっと彼女を抱いていたかったが、どうやらそうもいかないらしい。

 俺はデイジーを離し、ティアとデイジーに命令を出す。


「二人はみんなを避難させてくれ。俺はローズとカトレアとでまずはドラゴンエティンを叩く」

「かしこまりました」


 ティアとデイジーは空間を開き、レイナークへと仲間たちの避難を開始した。


「行くぞ、ローズ、カトレア」

「はっ!」

「了解っ☆」


 二人は神剣の姿になり、俺の左右の手にそれぞれ収まる。

 左手にはブラックローズ。

 右手にはホワイトカトレア。


 二振りの神剣を目の前で交差させ、俺は駆け出した。


「アニキ! 俺らも手伝います!」

「分かった。だけど無茶はするな」

「「「おう!!」」」


 仲間たちが後退して行く中、俺たちは敵に向かって全力で走る。


「ゴオオオオアアアアアア!!」

「アダマンティンドレイク……すまないが、みんなであいつを引き付けてくれないか?」

「了解っ!」


 ジオ以外の、アルベルトファミリーの面々がアダマンティンドレイクを挑発しながら左右に分かれて行く。


 物凄い風を巻き起こしながらアダマンティンドレイクは挑発に乗るように左右に分断する。


 左手に2匹、右手に1匹。

 二手に分かれる風が暴風となり俺たちを襲う。


「うおわっ!」


 ジオはその場に立ち止まり、踏ん張って風に耐えていた。

 破裂するような音が俺の鼓膜を叩いているが、それを無視し風を切り裂きながら突き進む。


 正面の巨大なドラゴンエティンが駆ける俺を認識し、ドシンドシン音を立てて走り出し後ろにいたドラゴンエティンも、それに続く。

 尋常ではないほどの揺れを感じてはいたが、俺は平常心で距離を詰めて行く。


『アル様、余裕みたいですね』

「気持ちだけは、な。どれぐらい強いのかはやってみないと分からないけれど、気持ちで負けていたら本当に負けてしまう」

『気持ちで勝っているのならば、もう既に勝ったようなものでしょう』

「だといいけどな」


 ドラゴンエティンと最接近すると、相手は俺の頭上へと素早く右手の棍棒を振り下ろして来る。


「よっと」


 棍棒は俺の体よりもはるかにでかい。

 しかし俺はそれを二刀の剣で受け止めた。

 が、あまりの衝撃に地面にヒビが入る。

 

『さすがに凄いパワーだ』

『だけど……私たちだって負けてねえし!』


 普段聞かないような少々ドスの利いた声で叫ぶカトレア。


「そうだ。俺たちは負けていないし、負けるわけがない」


 相手の棍棒を押しのけ、二刀を上段に構える。

 ドラゴンエティンは俺たちの凄まじい威力に押され、棍棒を手放してしまう。

 そのまま斬りかかろうと足を動かそうとするが――


 もう一匹のドラゴンエティンがその巨体で飛び上がり、左手の棍棒を振りかざす。


「くそっ。邪魔だな」


 ゴンッ! と武器同士がぶつかり合い、とてつもない音が鳴り響く。

 さきほどよりもさらに、大地に割れ目ができる。

 腕も少し痺れたが……問題ない。


 二匹同時となると、少々面倒だな。

 よし、一旦切り離すか。


「ジオ! 時間を稼いでくれ!」

「了解っす!」

 

 ジオが体勢を立て直し、近くまで駆けつけて来ていた。

 たじろいでいたドラゴンエティンの足元を素早く短剣で斬り付けるジオ。

 あまりダメージは与えられていないようだが、相手は俺からジオに視線を移す。


「へへへ。こっち来いよ、デカブツ!」

「いや。俺が離れるから大丈夫だ」

「へ?」


 俺は棍棒を受け止めたまま、駆ける・・・


「え……えええっ!?」


 ブラックローズとホワイトカトレアで相手の体を支えたまま走る俺を見て、ジオが驚愕していた。

 遠くから見たら、変な体制のままドラゴンエティンが飛んでいるように見えるだろう。


 そのまま投げ飛ばすように剣で弾いてやると、相手の体はふわっと浮いて地面に倒れ込む。

 激しい揺れが起こるが俺はそれをものともせずに飛び上がり、ドラゴンエティンの腹部へ二本の神剣を深々と突き刺した。


「ガアアアアアアアッ!!」


 右手の棍棒を振り回して俺を振り払おうとするドラゴンエティン。

 だがそれをホワイトカトレアではじき返し、ブラックローズを体から引き抜き、再度飛翔する。


「【ツインストライク】!」


 剣を振るい、十文字の剣風を生み出す。

 ドラゴンエティンは棍棒を投げ出し左腕でそれを防ごうとした。


 が、その行為に意味は無く、相手の腕ごと身体が十字に切り裂かれる。


 頭の先から股まで。

 両腕ごと、胸の辺りを。

 素振りをするかのように、抵抗なく切り刻まれる肉体。


 ふっと短く息を吐き、ジオの方へと視線を移す。

 

 ジオはドラゴンエティンを瞬殺してしまったことに顔を引きつらせ、ほんのり高揚しているようだった。


「や、やっぱアニキ凄すぎっすよ」

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