脱がし屋さん
工藤千尋(一八九三~一九六二 仏)
第1話 また一人、破滅。
山下宏。38歳。既婚者。子供二人。長男中学一年生。長女小学五年生。東京都文京区にマイホームを持つ。勤め先は東証一部上場企業。エリートの道を歩んできた。高学歴、同じ年齢ぐらいの人間の中では収入も固く、そして多い方である。そこまで登りつめたこの男。社交性も持ち合わせ、近所での評判もよい。立派な企業に勤め、休日は家族サービス。マイホームにはマイカー専用の駐車場も。もちろんそんな男も仙人ではない。ストレスは内に抱えている。自分で気づかずとも。少しずつ溜まった大量のストレス。そんな男が最高のストレス発散方法を覚えた。今日も一人の時間、その『最高のストレス解消法』を行う。
「死ね」
「お前みたいな低学歴、底辺バカはしょせんネットでイキッてるだけ。頼むから日本語で話してくれる?」
「ちやほやされて勘違いしてない?所詮、枕でのし上がったデブスだろ?家畜が人間様と同じ空気吸うのやめてくれる?お前の存在が地球を汚してるから」
「頼むから死んだ方がいいよ」
ツイッターの捨て垢で人生の成功者や著名人、自己顕示欲が強そうな相手を見つけては言葉のナイフをどんどん投げつける。
『匿名』だから。ネット社会。IPアドレス見つけて裁判?こんなフォロワー0の卵アイコンに?時間と金をかけてするわけないじゃん。
相手が反応すればするほど男のストレスはどんどん発散された。
「はっは。お前馬鹿じゃね?はい、論破―。ニートはいいなあー。そのまま最底辺で満足したまま死んでねー」
くだらない時間。だけど最高の時間。時にはフォロワー数、数十万越えの著名人までムキになって反応してくる。この馬鹿最高。男のストレスはどんどん発散される。そしてまたいつもの、リアルな優等生の自分の生活に戻る。
ある日、男が出社したら異変が。周りの反応がいつもと違う。違和感。男を小馬鹿にするようなヒソヒソ声。仕事でミスでもしたか?鼻毛でも出ているのか?そして職場の同僚の一人が。男はそれを見て愕然とする。
フォロー数0。フォロワー数90万。公式はついてないが有名アカウント。
『脱がし屋』。
その『脱がし屋』のツイート。
「本名 山下宏。38歳。住所 東京都文京区〇〇〇〇。家族構成4人。勤務先株式会社〇〇〇商事。学歴〇〇小学校、〇〇中学校、〇〇高校、〇〇大学。アカウントは@〇〇〇〇〇〇。タヒなど数多くの誹謗中傷」
添付された四枚の画像には男の誹謗中傷ツイートのスクショとリアルの顔入りの全体写真。
男は破滅した。
『脱がし屋』。
別名『晒し屋』。
そのアカウントの中の正体は未だに不明とされている。
ただ一つだけ。この『病んでしまった』ネット社会の現代で、『脱がし屋』は国民の正義のヒーローとなった。
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