百戦錬磨のライオンⅡ ライオン発電所

百戦錬磨のライオンⅡ ライオン発電所-「配信者の集い」に繋がるイントロ

「で、いつものようにファミレスで、だべってるわけですが」


「はい」


「おまえは四季通じていつでもアイスなんですか?」


「はい」


「おなかこわさないんですか?」


「わたしがおなかこわしたところ、見たことあるか?」


「ないです。というか体調崩す姿を見たことがないです」


「見た目どおり、頑丈にできております」


「胸はそんなに大きくないよな」


「胸は脂肪だから。いらない」


「潔い意志を感じる」


「ってか、私以外の胸見たことないだろ」


「うん。テレビとか映画で見るのと比較して」


「テレビと映画で比較したのね」


「うん」


「あの店員を見ろ」


「はい」


「あの客を見ろ」


「はい。見ました」


「胸は?」


「あなたのほうが大きい」


「つまり、そういうことだ。分かったか」


「片方男性のかただと思われるのですが」


「胸囲は男女平等だろう?」


「うわっいちばん差がある身体的特長に平等持ち出してきたよ。こわっ」


「いいんだよ胸なんて。てか、なんで頑丈で胸が出てくるんだよ。そこが分からぬ」


「いや、この前見たじゃん。あれ」


「どれ?」


「あれよ、あれ。機械出てくる宇宙のやつ」


「胸部装甲じゃねえか」


「大事って言ってたじゃん?」


「言ったね。コクピットあるもん」


「だから、頑丈なのは胸かなって」


「間違ってないのがなんとも言えねえ」


「てかさ、おもしろかったね。あれ」


「あ、そう?」


「うん」


「じゃあ、今度別なやつも見よっか」


「なんかたくさんあるんだよな。この前やってたじゃん。ゲーム」


「うん。めちゃくちゃあるよ。ぜんぶおもしろいよ」


「へえ」


「あなた、そういう男性的な趣味とか、あんまり見てないよね。そういうのは漢の世界じゃん」


「逆に、あなたそういう男性的趣味に精通してるよね」


「むかし付き合った人間からおすすめされてるからね」


「へえ。男から?」


「いや。漢の世界系の機械と宇宙のやつをおすすめしてくるのは女のほうが多かったかも」


「女」


「そもそも、趣味は売れるとかメインタゲとか、そういう関係で男性女性の区分けがあるのであって」


「メインタゲ?」


「まあ、とにかく、趣味そのものにあんまり男女差はないんよ。おもしろかったら男女関係なく見るんよ」


「あ、それはなんとなく分かる」


「うちの動画も、老若男女みんな見てるし」


「録画実況者だもんね」


「うん」


「百戦錬磨のライオンなのに、多くの人間と付き合って培ったコミュニケーション能力使わないんだな」


「うん?」


「いや、ライブ配信とか、しないじゃん。録画して、アップロード、だっけ。そればっかり」


「うん。コミュニケーションはね。到達点があるから」


「到達点?」


「多くのかたとお付き合いするとね、見えてくるのよ。とっても分かりやすく言うと、飽きるの」


「飽きる」


「うん。飽きる。この人といても何も起こらないなっていう、そういう、コミュニケーションの、限界みたいなところ」


「そんなのあるんだ。知らなかった」


「それはおまえが断食系男子だからです。だいたいの人はなんとなく分かると思うよ?」


「そなのか」


「なんかね、めんどくせえ、って、なっちゃうの。コミュニケーションの到達点に来ちゃうと。そうなったときに相手を許容できるかどうかが、結婚するか別れるかの境目なわけですよ」


「百戦錬磨のライオンがいうと説得力あるね」


「まあ、ユメをこわすようでちょっとあれですが、たくさんのかたとお付き合いしてきたということはですね」


「あ、そか。たくさんのかたとお別れしてきたってことか」


「いえす。誰ともうまくいかなかったって、ことなんだよね。百戦錬磨というより、連戦連敗のライオン?」


「ぜったいおまえが原因じゃないだろ」


「え?」


「いや。普通に」


「ええ?」


「照れるところか?」


「照れるところだけど」


「そなのか。だっていいやつじゃん。おまえ」


「ちょっとトイレ」


「おなかこわしたか?」


「下着替えてくる」


「は?」


「というわけで新しい下着です。おまたせしました」


「意味がわからん」


「気にしないで。心拍数に合わせて、その、胸部装甲が、ですね」


「あ、あれか。胸が張るってやつ」


「声が大きいんじゃあ」


「いや普通の声じゃあ」


「胸部装甲拡張したままで固定したいわあ。こうやって心拍数とかで胸部装甲いちいちパージしてたら追いつかねえわあ」


「うん。どんまい。今度探してみようよ。胸の大きさが変わる人用の下着」


「んなもんあるかあ」


「わからない。俺の胸は変動しないし」


「そうだね。なんの話ですか?」


「連戦連敗のライオン」


「もっと前」


「ええと、なんだっけ。コミュニケーション、とか?」


「そう。それだ。コミュニケーションの到達点」


「俺はどうなの?」


「すごいよ。聞く?」


「えっこわい。聞かない」


「聞けよっ」


「聞くっ」


「あなたほどコミュニケーション能力が尖ったやつはね、いないよ。私が会ったなかでね、一番」


「いや、ライオンは多くの初な男性女性もたべてきたわけでしょ。それと変わらないんじゃないの?」


「違うのよ、これが。初なかたがたはですね、コミュニケーションの到達点を、えっちなところにおくわけです。ようするにえっちがゴール」


「なんだそのゴール」


「まあ聞けって。知らないことを知りたい、倫理的な底の部分に触れたいっていうのはね、現代社会の道徳の基本なわけ」


「ひとくいライオンが道徳語り出したぞ」


「まあ、道徳じゃなくてもなんでもいいけど。初なかたがたはわるくないのよ。そういうふうに社会とか人間関係とかができあがってるから」


「へえ。全然そう思わないけど」


「そう。そこ。あなた、人間社会と倫理観が違う」


「そういわれると、へこむな、なんか」


「うん。おおいに凹んでどうぞ。あなたの思考回路と行動はですね、一般のそれと大きく異なってます」


「え、でも他にもいるでしょ。えっちなことに興味がないひと」


「いるよ。たくさん付き合ったこともあるよ。えっちなことに興味がないかたがた」


「それと同じだろ」


「違うよ?」


「どこが」


「人間、どこかしらにエネルギー貯めてるわけですよ。だいたいの人は主に下半身に」


「ナチュラルに下ネタぶちこみすぎて突っ込む隙がないんだよなあ」


「え、好き?」


「え?」


「私も好きい」


「わかった好き好き。話を続けて」


「なんの話ですか?」


「エネルギー」


「あ、そう。エネルギー。私と付き合うかたがたはですね、私のエネルギーに惹かれるわけですよ」


「ほう」


「そういったかたがたはですね、えっちとかそういうのに関係なく、自分でもエネルギーを持ってるんですよ」


「持ってないの間違いではなく?」


「エネルギーが欲しいという欲求もまた、エネルギーなのよ。ごめんねわかりにくいね」


「うん。わかりにくい」


「とにかく、わたしに告白してきて、お付き合いしたいというかたがたは、エネルギー関連なわけよ。私は発電所なの」


「ライオン発電所」


「でもあなたは違う。エネルギーが低い。というか、無い」


「無いね。無い。無いです」


「だから、あなたはエネルギーを余らせたかたがたから需要があるわけですよ。今まで付き合ったかたの人数は?」


「5」


「別れた人数は?」


「5。全滅」


「は?」


「は?」


「わたしは?」


「あなたは特別なお付き合いなので、一般お付き合いという枠には入れてないですが」


「あ、そすか。びっくりした。胸縮んだわ。好き」


「好き。トイレですか?」


「いや、今いいところだから。別れた理由は?」


「待てないとか、あなたは私を見てないとか、そんな感じ」


「エネルギーに対するコミュニケーションがないのよ」


「下ネタですか?」


「まあ、そう取ってもらってもよろしい。相手からコミュニケーションを否定されちゃってるわけよ。ようするに受動」


「でもあなたとは長い付き合いになりますね」


「そう。そこです。あなたはコミュニケーションを受動的にこなします」


「受動って、なに?」


「気にするな」


「まじか」


「とにかく、あなたは、一言でいうと、永遠に、受け身」


「受け身」


「そのかわり、必ず反応が返ってくるの。だから好き。とっても好き」


「わかった。あなたがライオン発電所で、おれが放電する場所だっ」


「お」


「あ、違った?」


「合ってる。ってか、それだけでいいね。わたしの長い説明いらないわ」


「びりびりびり」


「くすぐったいです」


「あ、胸部装甲が」


「戻りましたねえ」


「えっちパラメータかな?」


「人の胸で遊ぶな」


「すいません」


「遊べよっ」


「どっちだよっ」


「まあ、とにかくですよ。ライブ配信するなら、あなたのほうが向いてるよ。視聴者の反応に受け答えするスキルが最強だから」


「え、でも俺、配信して喋るエネルギーがないけど」


「あ、じゃあさ、こういうのはどうよ」


「もしかして、おまえが喋って、俺が反応するの?」


「そう。わたしが喋って、おまえが反応するの」


「できなくもないけどさ、画面に出たり声が配信されるのはさ、なんか、いやだなあ」


「テキストは?」


「え?」


「文字。文字ならどうよ」


「文字か。それなら、いいかも、だけど」


「よしっ」




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