第4話(新規)

「いやあ。いい映画だったね」


「戦闘シーンが良かった」


「ね。ほんとに。手当たり次第爆発していくのがよかったね」


「ストーリーは、ううん、微妙かな」


「ええやろ。あの爆発量にしてはいい脚本だったと思うよ?」


「下ネタが多かったし、濡れ場も無駄に長かった」


「いやあ。そのための脚本ですよ。濡れないでなんとするよ。え。濡らすための脚本よ。爆発で命の危険を演出して、そのうえで抱きあうからいいんじゃよ」


「そんなもんかねえ。まだわからんな」


「わかるまで映画鑑賞は続くよ?」


「いやまあ、それでいいけど。家のテレビで映画見るだけだし。それにしてもさ」


「うん?」


「やっぱファミレスじゃないとだめなの?」


「うん。やっぱりさ、ファミレスでぐだぐだしたいな」


「家で映画見てるんだから、そのまま家でぐだぐだしたらいいんじゃないの?」


「うん。そうだね」


「いやまあ、俺はどっちでもいいんだけどさ。なんでファミレスなんだろうって」


「いやらしい気持ちになるからだよっ」


「声がでかいっ」


「家で映画見て、家でぐだぐだしたら、それはもう、いやらしい気持ちだろうがよっ」


「やめろっ。お客様のなかにはお子さまもいらっしゃるんだぞっ」


「てなるわけですよ」


「はあ」


「熱くなった心をね、アイスクリームでね、冷やすの。そのためのファミレス」


「でもお前さ、濡れ場はじまるとずっと俺の」


「声がでかいっ」


「でかくないっ」


「お客様のなかにはお子さまもいらっしゃるんですよっ」


「最近はもう戦闘シーンのときとかも触ってるじゃん。手に汗握るシーンで全力で握られると、さすがにいたいんですが」


「うふぅ」


「手の匂いを嗅ぐなっ」


「いい匂いするぅ」


「そりゃあ、お前の買ってきたいい匂いのするハンドソープ使ってるからな」


「本当はね、手だけじゃなくて、その、あなたの」


「あ、これ下ネタ言う流れだな。スマホで録音しておこうかな」


「…」


「黙るのかよ」


「なんも言えねえ。下ネタが封じられると、なんも、言えねえ」


「語彙力」


「お前も言えよっ。下ネタっ」


「なんでだよっ」


「私が濡れ場で手を繋いでるとき、何も思わないのかよっ」


「あ、身体とか手が暖かいなって、最近思うようになった」


「えっ」


「一緒に寝るじゃん。そのときも、おまえの身体暖かいなあって思いながら寝てる」


「あ、おま、おまえ。ついに。ついに。性のめざ」


「身体が暖かいって言っただけでさあ、思春期の少年みたいなそんなこと言われてもさあ」


「性のめざめ」


「泣くなよ」


「およよ」


「そんなに嬉しいのかよ。くっついて寝るだけだろ」


「くっついて寝るだけなのが逆におかしいだろ」


「どこがだよ」


「寝るなよ」


「寝るだろ。寝るために布団入るんだろ」


「んもう。これだからお子さまは」


「なんだその顔は」


「うふふ」


「好きだなあって」


「向かいに座ったら惚れるんだろ?」


「うん。惚れる」


「じゃあ、それでいいじゃねぇか」


「と思わせて横にこう」


「隣に移動して来るまでの速度が異常に速い」


「どう?」


「暖かい」


「好き?」


「好きだね。暖かいのは好きだなあ」


「帰って、寝よっか」


「真っ昼間だわ」

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