百戦錬磨のライオン
百戦錬磨のライオン 第1話
待てない。
そう言われて、別れた。
好きなわけでもきらいなわけでもなかった。ただ、最後に言われた待てないという言葉は、妙にしっくり来てしまっている。
彼女は待った。そして私も、待った。何か具体的なものを待ったわけではない。ただ、待った側と、待たせた側。そして、待てなかったのが二人。
「いや意味わかんないんだけど」
女友達。隣。
テーブル席なんだから向かい側に座れよ。
いつものファミリーレストラン。
女友達はいつも通り、ドリンクバーの機械からしこたまソフトクリームを搾り取ってきて、それにストローをぶっ刺している。
「待てないって何を。下ネタか?」
「いや、全然」
恋人に触れたことは、なかった。
「いやおまえ、ストローで吸うかそれを。ちょっと待て飛んでる飛んでる」
女友達からソフトクリームを取り上げ、服と髪についたべとべとをハンカチで拭ってやる。
女友達には、こうやって触れる。
「わたしには触れるんだな」
「そりゃあお前、隣でわけわからん勢いでソフトクリーム撒き散らされたらこうなるわ。隣じゃなくて向かいに座れよ」
「向かいに座ったらあんた、あたしに惚れるよ」
そう。
それが問題だった。この女友達に、恋心を抱けない。
女友達は、器量が良く、自分のことを誰よりも理解してくれている。顔も身体も綺麗な部類なんだろう。
しかし、どうにも恋愛対象として見れなかった。
そもそも、恋愛対象って、なんだ。
自分にとって、女性は全員女性でしかなかった。それ以上でもそれ以下でもない。
「まぁまぁまぁ。呑めよ。失恋の傷を癒せ。な?」
「ソフトクリームって、呑むものなのか?」
「いいから。ほら。わたしはもうひとつ搾ってくるから。白いのを大量にな」
「えっ下ネタ?」
「は?」
「ごめんなさい」
女友達がドリンクバーに突撃していくのを、ソフトクリームを啜りながら見ていた。
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