第49話 アリアと会話
「リタとの話は終わった?」
「おそらくな」
リタと別れて自宅に戻るとアリアが室内で待っていた。
ちょうど日付が変わる深夜の時間帯なので、明日来ると思っていたがすでにいた。
私が今まで何をしていたか知っているので、彼女らで話し合ったというのは本当らしい。
「……リタの話では君も私と三日ほど個別に時間を取ると聞いているが正気か?」
「正気。王だから多少の無理は通せる」
「職権乱用……いやこの場合は王権乱用か」
アリアは手でピースサインを作る。
すでに彼女は悪王への道を歩いているのではないだろうか。
私はもう関係ないが……革命など起こされないだろうな。
「ちなみにどこか行きたいところはあるのか?」
「スグルはもうない? ならこの国を一周したい」
世界一周ならぬ国一周旅行か。この国はそんなに広くはない。
私の飛行車を使えば三日あれば主要な都市は回れるだろう。
観光などをしている時間はほとんどないだろうが。
「これなら各地を見回ると言い訳で、王としての責務も果たせる」
「確かにな。合理的でいい判断だ」
最後まで私を利用して仕事をできるならば、やはりアリアは心配ない。
私がいなくなってもこの国をそれなりに治めるだろう。
王として優秀かはわからないが少なくとも無能ではない。
「だが今日はもう遅い。明日の朝に出るぞ」
「うん。そのつもり」
互いに分かり切っていることを確認して頷きあう。
アリアがこんな時間に来ているのは、明日のことを事前に決めておくためだ。
今日は泊まれば待ち合わせなども必要なくスムーズに動ける。
やはり彼女とは考えが合う。可能であれば連れて帰りたかった。
そうしてさっさと寝て、朝日が昇ると共に飛行車に乗り込んで国一周旅行を開始した。
様々な町を巡ってあっという間に二日が過ぎ、最後の三日目となった。
「この町はあまり余裕がなさそう。逆にあの町は聞いているより裕福に見える。税をごまかしてるかも」
「無能な王が指揮っていたのだ。賄賂や偽装など多いだろうな」
助手席に座ったアリアが上空から町を見て、色々と観察している。
魔法があるとはいえ中世の文明レベルの世界だ。王都から離れた町は報告一つでかなりごまかされてしまう。
つまり担当の役人を抱き込めば偽装し放題だ。
「これは思ったよりも酷いかも……この町は去年は大凶作って報告されてる。でも住民たちはどう見ても飢えてない。民が苦しんでないのはいいことだけど……」
「税を免除したならば他の場所にしわ寄せが来る。許すわけにもいかないのだろう?」
アリアは窓から外の景色の観察を続けながら頷いた。
政治家になれば七面倒なことも多い。彼女は今後も大変な目に何度も合うだろう。
私としては知ったことではないとまでは言わない。
王に仕立て上げたのは私である。
「木偶の棒生産装置と修理用機械を複数作っておいた。修理用機械は自分自身も修理できるので、仮に故障しても問題ない。この国に置いておくので君の自由に使え」
「……ありがとう」
これでこの国の兵士不足は解消する。
無料で食費もかからないのだから、維持費も極めて安くすむので有用なはずだ。
アリアに対する置き土産としては十分……。
「後は食料を生産する機械も欲しい」
「……木偶の棒生産装置だけではダメか?」
「スグルのせいで王にされて大変。もう一声欲しい」
アリアは目を細めて私を見てくる。
どうやらまだ王にされたことに不満を持っているようだ。
無言の圧力を前にして私はため息をつく。
「しかたない、物質変換装置を置いていく。そこらの草木や土を食料にできる」
「ありがとう」
やはりアリアはしたたかである。
全く心配する必要はない。この装置は私も普段から使っているので、元の世界に戻ったら作り直さねばなるまい。
痛い出費だが元は私が撒いた種なのでしかたない。
「そうだ。ついでだからこれも渡しておこう」
私は手元に小包を転送すると、操縦桿を握っていない方の手でアリアに渡す。
彼女は受け取ってそれをしばらく観察した後、封を解いて中身を確認する。
それは少し大きな宝石のついた指輪。
「……指輪?」
「指輪型の電磁障壁発生機構だ」
「……ゆ、指輪なのはなんで?」
アリアが少し声を詰まらせながら呟く。
はて、彼女ならば当然分かると思ったが……いやたまにはそういうこともあると言っていたな。
「指輪ならば身に着けていても怪しまれないだろう。それにつけていれば諸外国の変な男避けになる、宝石部分は外せるので結婚した後はネックレスにできる」
「……そう」
アリアは何やら落ち込んだ様子で指輪を確認する。
我ながら会心の出来である。仮にも王族が変な物をつけるわけにはいかない。
だが宝石ならば普段からつけていても問題ない。
髪飾りなども考えたが行事によってはつけられない可能性を考慮した。
「それが私の君への最期の贈り物だ。似合うように作ったので問題ないだろう」
「……ありがとう」
アリアは指輪を握りながら悲しそうにほほ笑んだ。
先のリタと同じだ。二人とも涙を目にためて笑っていた。
見ていて好ましい物ではないな。もう少し人の心を勉強しておけばよかったか。
「スグル、この世界は楽しかった?」
「実に有意義だった。だが……まだ研究したい物はある。磁場など次第でもあるが、また君たちの時間軸で近いうちに来るかもしれない」
「そう。なら待ってる」
タイムマシンを使ってやってくるのだ。
仮に私の世界に戻って二十年過ごしても、この世界の五年後にやってくれば彼女らにとっては五年しか経っていない。
磁場の影響により時空間観測装置にノイズが走るので、この世界の時間軸で数年は渡れないだろう。
装置を使えないのは、暗闇の中を明かりなしで進むのと同義だ。目的地――目的の時間にたどり着くことは困難を極める。
だがそれ以降はまた来ることも可能だ。少なくとも永遠の別れなどではない。
「やれやれ。磁場などに影響を受けている時点で欠陥品だ。さっさと改修しなければな」
「私もリタもスグルが戻ってくるのを待ってる」
「別に待たなくていい。忘れたころにやってくる」
「忘れない」
アリアは私を見ながら力強く言い切った。
どうやら必ずまた来なければならないようだ。そして彼女はすごく真剣な様子だ、ならば私もしっかりと返さねばならない。
「いいだろう。ならば約束しよう、再びこの世界にやってきて君たちに会うと」
「……うん」
私は約束したからには守る。
アリアとリタと再び会うのが必須条件になったな。
だが問題はない。元からこの世界にまた来る予定はあった。
「次に会う時はもっと優れた兵器の数々をご覧に入れよう」
「物騒な物は興味ない」
「それは残念」
アリアの顔を見ると少しだけ明るさを取り戻していた。
どうやら多少はうまくやり取りできたようだ。
……難しいものだな、単純な利害関係や敵対関係でない繋がりは。
私が今まで完全に切り捨てていて、二度と手に入れることはないと思っていた。
経験値が足りない。
「スグル、めぼしい町はだいたい見れた。リタも待ってるから家に戻ろう」
思考にふけっているとアリアが私に話しかけてくる。
どうやら彼女の用事は全て終わったようだ。
操縦桿に手をかけて帰路につこうとすると、飛行車に備え付けた魔力センサーに反応が走った。
どうやらこの付近で魔法が使われたようだ。
「どうしたの?」
「付近に魔法使いがいるようだな。だが今はいいか、魔法使いのデータはある程度取れている」
本当ならばまだデータは欲しい。
だがもう時間はあまり残っていない。残念だが今回は諦めるとしよう。
改めて操縦桿を握って自宅の方向へと飛び始めた。
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