第7話 向日葵編 1日目の終わりと意外な姿

「おーい、やってるかー。」


閉店間際、結さんのお父さんが来店した。


「寛くん、初日お疲れ様。結もお疲れ様。患者さんもとっても喜んでたよ。うちの従業員もお邪魔したみたいだね。一気に病院内が華やかになったよ。ありがとね。お母さんの絵も相まってオシャレになったよ。女性陣に大ウケでね。今まであたりが強かった女性陣が僕に対して優しくなったよ。」


「そうなんですか。結さんのおかげですね。」


太鼓持ちのつもりで言ったのだがお父さんは、


「そうなんだよ!!ありがとう結。」


簡単に真に受けてくれた。心なしか結さんの顔が赤かった。褒められることに慣れていないのだろうか。ここまではっきりと褒められると照れるのも無理はないか。しかも、自分がいる時に目の前でとなるとなおさら。


「花の請求は振込でお願い。この金額現金だと面倒だから。」


「わかったわかった。それより、寛くん結の働きぶりはどうだったかな?」


こう言ったことは本人がいないところでするのではないのかと疑問に思ったが、お父さんの目がキラキラしているので答えるしかないか。


「ええっと、、、、」


「お父さん!!やめて!!」


結さんに止められ、お父さんがシュンとしてしまった。明らかにこの家のパワーバランスは圧倒的に娘に傾いているようだ。お父さんは結さんのことを溺愛しすぎているように思える。ここまで綺麗な娘だと分からなくもないが。恥ずかしがる結衣さんも新鮮だ。いつもはかなりそっけない態度しかとらない人の意外な一面を見た。


「まあ、とにかくお疲れ様。今日はもう終わっていいよ。あとはお父さんに余計なこと言わないこと。面倒だから。」


「そんなこと言わんでくれよ結。寂しいじゃないか。」


「まあまあ。こう言った話は結さんの前ではやめましょう。当の本人は恥ずかしいらしいですし。」


ニヤニヤしていると、寒気を感じた。すごい目で結さんが見てくる。殺されるんじゃないか。


「はい。さっさと帰る帰る。明日もあるんだから、初日の疲れを残さない。くだらない話するくらいならさっさと寝ろ。」


「りょっ了解しました。お疲れ様です!!」


ここは早急に逃げた方が良さそうだ。すみませんお父さん。ここは任せます。すぐに帰る準備をして店を出た。このあとのお父さんがどうなったのかは知らない。


帰り道母さんから連絡があり、おつかいを頼まれた。というより、作るのは自分なので、これが食べたいという要求だけの連絡だったため足りないものの買い出しに行かなければいけない。うちの家は朝母さんが作り、夜は自分が作ることになっている。母さんの料理は単にパンを焼いて、目玉焼きを作るくらいだ。ご飯の場合は自分が前日に下処理をしておく必要がある。母さんの仕事柄、夜遅くまでかかったり、集中していたりすると時間を忘れて絵を描いてることがある。仕方ないかもしれないことだが、もう少し手伝ってくれてもいいのに。他にも家族はいるが、今は家にはいない。いたとしても他は包丁を握らせるのが怖いくらいなので結果的に自分が作ることになる。母さんからの要求は豚バラのせいろ蒸しだった。豚バラももやしもない。味のバリエーションがないといけないのでポン酢の他にゴマだれ、あとは味噌ダレなんかどうだろうか。我ながらなかなかのメニューだと思う。


買い物を終え、家に帰る。正直疲れてはいるが作らなければ何も食べるものがない。豚バラには疲労回復の効果もあるので今の自分には最適なメニューでもあった。


「ただいま。母さん、今から作るから。30分後に降りてきて。」


遠くの方ではーいという声が聞こえた。この様子だと絵は描いていないようだ。描いているときは返事すらしない。本人曰く集中していると何も聞こえないらしい。自室でテレビでも見ているのだろう。

食事も終わり、母さんからの評価は上々、満足してもらえたようだ。そして、母さんから今日のことを聞かれる。


「今日はどうだった?今日オープンだったんでしょ?」


「まあ、初日にしてはかなり忙しかったよ。2人ではかなりきつかった。あと、結さんのお父さんに挨拶に行ったよ。母さん俺のこと色々と相談してたみたいだったからかなり話が弾んじゃって開店時に店に行けなかったのよ。」


「そうなの?結ちゃんに迷惑かけなかった?」


「開店したばっかりだったから、あまりお客さん来てなかったみたい。」


「そうそれなら良かった。」


「なんか俺に頼みたいことがあるらしいんだけど、なんか聞いてない?」


「別に聞いてないけど。まああんた色々と使い勝手は良さそうだからね。器用に何でもこなすし。」


「人を便利な機械みたいに、、、」


「まあまあ、あそこの家の人たちはあなたを悪いようにはしないよ?楽しみにして待ってれば?」


「そうなのかな?お姉さんはかなり感じ悪かったけど。」


「そうなの?結ちゃんにしかあったことないから。お父さん曰く、めちゃくちゃ真面目な子ってきてたけど。気のせいじゃない?」


「なんか挨拶に来たんだけど、俺のこと見てない感じで不気味だったんだけど。」


「あんたのこういったやつは結構当たるから嫌なんだよねぇ。」


こんなことを話していると、自分のスマホがなる。


『明日も通常通りにお願い。ゆっくりお休み。』


『わかりました。結さんもゆっくり休んでください。』


特にたわいも無い連絡だった。すると母が、


「あんたわかっているだろうけど、あんまり親しくなりすぎると、大変なことになるからね。女の嫉妬は怖いのよ。」


「わかってるって。節度は守るよ。俺の中で一番大事なのは何なのかわかっているから。」


「なら安心した。そろそろ、帰ってくるから掃除しておかなきゃね。」


「掃除なら少しは手伝ってよ。結構大変なんだから。」


「うーん、考えておく。」


これは絶対に手伝わないパターンのやつだ。即答してくれなければ確実に手伝ってはくれない。


「はぁ、わかったよ。掃除しとく。明日も早いからもう寝るわ。」


「はいはーい。お休みー。」


ゆっくりと風呂に入りながら自分も今日1日を振り返る。濃かった。いろんな人と関わることができたし、こもってた時よりも1日が長い。疲れた。お風呂の中で寝そうになった。もう上がって寝よう。風呂から上がり、11時には寝床に着いた。


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