第4話困惑の決断

 正直なはなし、助かるとは思ってなかったから、どうすべきか困ってしまった。

 そもそも、どこの誰が、死を覚悟して奈落ダンジョンに飛び降りて、兄を名乗る竜に出会うなんて想像するか、するはずがないだろう。

 だから生き残ってどうするかなんて、毛ほども考えていなかったのだ。

 だが、よく考えてみれば、望みなどひとつしかない。

 復讐なんかよりも、もっと大切で、俺が心から望むことがある。


「復讐よりもやりたいことがあるんですが、いいですか?」


「やっぱりそう言うか、最初からそう言うと思っていたよ」


「俺が何を言うか分かっているのですか?」


「そりゃわかるさ、僕はエルギンの魂の兄だよ、簡単な事だよ。

 どうせ領民を助けてやってくれというのだろ、分かっているよ」


「その通りです、確かに領民を助ける事が俺の望みです。

 では、最初から俺の願い通り、領民を助けてくれる心算だったのですか?」


「ああ、その通りさ、その心算で準備していたから、何の心配もいらないよ。

 領民に悪意を持つ者は領地には入れないし、領民を害そうとした者は、僕の配下が喰い殺してくれるからね」


「喰い殺すですか、貴方の配下とは、人を喰らう魔獣という事ですか?」


「魔獣ではなく、別の世界の肉食獣だね、特別何か憎しみや意味があって人間を襲っているわけではなく、この世界の肉食獣が自分より弱い動物を食べるのと同じだよ」


「でも、貴方の言う事を聞いて人間を喰い殺すのですよね?」


「それは人間が芸を仕込める動物と同じで、特別な事ではないよ。

 それと、いいかげん貴方ではなく兄さんと呼んでくれないかな。

 いつまでも貴方呼ばわりは寂しいよ」


「分かりました、兄さん。

 では、兄さんを信じてお願いします、魔獣に領民を守ってもらいます。

 ただ心配なのは、領民が魔獣を見て怖がってしまうことなんですが。


「そうだな、正面から出会ったら、小便をちびるくらい怖がるだろうな。

 だが、何も鍛えていない領民では、魔獣の姿を眼で捉える事は難しいだろうな。

 いや、エルギンが治めていたラゼル大公国の騎士や兵士でも、魔獣を眼でとらえるのは不可能だと思うぞ」


「ラゼル大公国の騎士は、ソモンド王家の騎士に比べれば、結構強かったはずですが、それでも目に捕らえる事すら難しいのですか?

 魔獣とはそんなに強い獣なのですか?」


「ああ、強い、とても強いぞ。

 問題は一度人間の味を覚えた魔獣が、これからも毛皮のない人間を食べたくなるという事だが、それは家畜の皮を剥いで食べやすくした肉を生贄に捧げる事で防げる」


 兄を名乗る竜がとんでもない事を言いだしたぞ。

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