04 Love.

「よいしょっと」


「なんで、それを。私に聞くんだ」


「あなたのものだから」


「もう、別れたのに」


「別れてない」


「でも、あのときわかったって」


「つきあって、ないから。別れてない」


 くるしい、言い訳。


「なにを」


「ごめんなさい。わたし。わたしは、あなたが思っているような、まっすぐな人間じゃ、ないの」


 感情の堰が、切れた。


「今だって。こうやって。後悔してるの。なんで、あのとき、別れるって言われたとき、何も聞かなかったんだろうって。今だってそう」


 おねがい。


「あなたの部屋に行けば、何か、変わるかもしれないって思って、飛び出してきたの。でも。こうやって顔を合わせたら。まっすぐで。まっすぐな生き方を。しないと。いけないと。思って。しまって」


 涙があふれてきて、止められなくなる。


「わたしは、曲がってるの。あなたのように生きたいのに、あなたのようになれない。でも、あなたのようになりたいの。あなたと」


 自分でも。


「わたし。わたしのせいなの。わたしがまっすぐ生きようとしてつらくなってたから、別れようって言ってくれた」


 もう。


「いつもあなたはそう。わたしには眩しいくらいに。まっすぐなの。大きな身体だからって、横断歩道も隅を歩くし」


 何を言っているか。


「小学校のときだって。わたしは忘れてるって嘘ついたけど、ほんとはずっと覚えてた。花瓶を倒した子をかばって、先生に叱られてて。我慢できなくて先生に抗議したわたしが、ばかみたいで。はずかしくて」


 わからない。とめられない。


「わたしは、だめなの。屈折してるの。いつもそう。今だって。あなたと。あなたと離れたくない。あなたと一緒にいたいのに。踏み出せないの。あなたに。これ以上」


 近付けない。


「好きだ」


「うっ」


「あ、ごめんなさい。好き、です。別れようって、自分で言ったのに。ごめん。でも、好きです」


「でも」


「私は、あなたの、まっすぐなところが、好きです。でも、違うか。屈折してるなら、屈折してるところが、好きです。一歩が踏み出せなくて、それで思い出の品を持って突撃してしまうような、どうしようもなくまっすぐで屈折してるところも。好きです」


「いやだ」


「いや、かな。精一杯、まっすぐ言ったつもりなんですけど」


「そういうところが、いや」


「あなたが今、喋るまで。私は自分を、性根が曲がったやつだと、思ってました。でも、違った。なんというか、まっすぐで、屈折してるの。おたがいに」


「なにいってるかわかんない」


「好きです」


「きらい。きらいって言って」


「きらい」


「ううう」


「好きです」


「うっうっ」


「我慢するなよっ。好きですと言えよっ」


「すきです。ずっと。ずっと。すきでした。うわあああああっ」



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