チートスキルはお約束だよね

 「AIプログラム…?」




 いきなり用事された通知に、僕は戸惑ってしまった。




 そりゃそうだろう。




 どこから突っ込んでいいのかわからない。








 「もしかして、僕はAIだったのだろうか?」




 でも、だとしたらAI要素が後から付け加えられたみたいな通知の仕方はおかしい。




 釈然としないまま、通知をタップしてみる。




 すると、エクスプローラーのNo.100の中のファイルが一つ解凍されていた。








 「No.100のSupportが解凍されているのか。中身は、わけのわからない拡張子と…学習・再現ソフト?」




 機械学習用のソフトか?




 いや、でも再現ってなんだ?








 とりあえず学習・再現ソフトを開いてみる。




 起動すると同時に、不思議と使い方が理解できた。




 しかし、理解した瞬間にとてつもない悪寒が僕を襲った。








 「これ、どんなデータでも分析・予測を立てられて、あまつさえ電子情報化して、仮想空間にも再現できるっていうツールだとでもいうのか…?」




 現在知られ、実装されているソフトではこんなこと負荷がかかりすぎて、できないはずだ。




 ましてや再現なんて今もっぱら研究されようとしている技術だ。




 そこまで、機械学習に触れてこなかった自分にも、今完成したものが存在してていいはずがないことくらい分かる。




 それに…








 「このツールで本物の僕から、この僕が再現されたっていうことなのか…」




 まさしく、仮想空間としか思えないこの白い空間にいる自分は、このツールによって再現されたのだということをまざまざと見せつけられたのだ。




 倫理委員会が怒鳴り込んでくるどころか、世界中から非難されるべき所業だろう。








 「これを作ったのは一体どこの誰だっていうんだ…」




 公表もせず、時代を先取りした開発を完成させた人物が、どんな人間なのかを想像しただけで、恐怖を覚える。




 開発主は何を目的としているのだろうか。




 最悪の予想を思い浮かべずにはいられなかった。








 「軍事利用…」




 




 例のラノベでは軍事利用のために魂がコピーされていた。




 いつか自分も戦争に駆り出されてしまうのだろうか?




 偽物として生み出されて、人の命を刈り取るなんて、なんてみじめな生き方だろうか。




 そもそも恐らく自分は死なないのに、一方的に命を奪い取ることを強制されるというのか。




 そんなことになんの楽しみを見いだせというんだ。




 そうと決まったわけでもないのに、怒りの感情がとめどなく溢れてくる。








 「まあ、今考えても仕方のないことか…」




 自分をこの空間に閉じ込めた張本人からの接触は、今のところない。




 つまりは好きにしろということじゃないだろうか。




 ならば、まずは決めたとおりにVTuberになって楽しんでやる。




 軍事利用すると言われたときには全力で抗ってやるとしよう。




 どう転ぶにせよ、この学習・再現ソフトは使いこなせるようになっておいた方がいいだろう。




 そう考えつつ、まずは1万人を超えると言われるVTuberの情報を分析にかけた。




 VTuberになるからには、VTuberを深く知らないといけない。








 「おお、すごい。勝手に頭に入ってくる。」




 分析した情報が見ずにインプットされていくのを実感し、思わず鳥肌が立ってしまう。




 散々最悪の予想を思い浮かべてはいたが、自分が最新の技術を先頭で実感しているのだといざ体験してみると、中々どうして楽しくなってしまうというものだ。




 AIの視点に立つという、あと何年かかってもたどりつくことができるのだろうかと思わずにはいられない境地を味わい、僕はすっかりはしゃいでしまった。








 「これならすごいVTuberを目指せそうだ。」




 必ず人気者になって、色んな人と関わり、新しいVTuber生を謳歌してやる。




 そう胸に期待を膨らませ、僕は分析を進めていった。

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