第47話
巨大な隕石にロボットは張り付いた。
慎重にランデブーをし、やっとのことで着地したが、いざくっついてみるとすごいスピードで動いているという感じはなかった。
サンシャイン・ダイナはハンド・メルト・マイトの手当を出来るだけした。
両腕は赤く腫れ上がり、恐らくもう二度と使うことはできないだろう。
「フッ……。手の方はそれくらいでいいぜ。ヘアスタイルを頼めるか? メットで潰れちまったらかたなしだぜ」
「この面白いパーマってどうすればいいの? 火で炙るの?」
そう答えるとハンド・メルト・マイトはニヤリと笑った。
「ハンド・メルト・マイトさんの献身は無駄にしないであります。いざ、究極合体ニュー・ガメディアム! あらゆるものを穿つ、魂のドリルを受けるであります!」
コバヤの操縦でロボットは隕石を掘り進んだ。
サンシャイン・ダイナはモニターに映るザ・パーフェクトに言った。
「パフェちゃん、ありがとうね」
「ホント厄介なもんだよ。うちは怒られるようなことはしたくないのにさ」
彼女の手助けがなければロボットも完成せず、ハンド・メルト・マイトもここで休むことはできなかっただろう。
彼女だけじゃない。
今サンシャイン・ダイナがこの場にいて、地球のため、人類のために戦えるのは、多くの人の助けがあるからだ。
爆発という特殊能力のせいで、戦闘に向いていないと事務に回された。
それを拾ってくれたのがピンキー・ポップル・マジシャン・ガールたちのスタイル・カウント・ファイブだ。
ただこの場にいる。
それこそが奇跡であり、サンシャイン・ダイナにとっては言葉にならないほど幸せなことだった。
「ぐぬぅぅぅぅうう! ニュー・ガメディアムは伊達じゃないのでありますー!」
機体が大きく揺れ、コバヤが唸り声を上げる。
「どうしたの? 終わった?」
「終わってないのであります。隕石中ほどに硬質な岩盤があり、ドリルの歯が立たないのであります。目標の深さまであと僅かでありますが、もうしわけありません。
コバヤはガクガク震えながら涙を流して崩れ落ちた。
「なんだ、そんなことー。いいよ。あーしなんとかできると思うから」
サンシャイン・ダイナは宇宙服を着こんだ。
「ダイティ……うち……やだけど……」
モニターからザ・パーフェクトが話しかけてくる。
彼女は顔をクショクショにして泣いていた。
色々な顔を見てきたけど、彼女の泣き顔は初めてだった。
「なにもー。ウケるんだけど。あーしは最初からこうしようと思ってきたから全然だよ。そんなしょんぼりされると逆にやだ」
「わかってるよ。もうあんたたちってばさ。うちの手の届かないところで好き勝手して」
「えー。パフェちゃんなら届くじゃん。初めから決めてたことだから怖くないよ。でもそうだな。ま、死ぬまでに一度くらいは男の子から抱きしめられたかったなとかは思うよ」
「……うちはその発言に今までで一番ビックリしたよ。知ってる? ダイティの活躍は世界中の人が見てるんだよ。今頃、世界中の男子が虜になってるよ」
しばらくの通信ラグの後にザ・パーフェクトが答えた。
「まじで? ウケるんだけど。じゃ、あーし行ってくるから世界中の人、またね」
立ち上がってエアロックのドアに手をかける。
そこにフワフワと宙を漂ってハンド・メルト・マイトがやってきた。
「フッ……。ここに世界一いい男、つまり地球の男の代表がいるのを忘れちゃ困るぜ」
痛々しく腫れた両手を広げてそう言った。
「ウソ。ありえないんだけど。マジで言ってんの? いやいや、無理。っていうかありえないって。そんなのアレだから。ダメだって絶対。ウケるー。そんなんあーし考えられないもん。っていうか無理無理。マイちゃんも無理しないでいいよ。ありえないから」
「ありえるぜ」
このやりとりは恋愛感情とかそういうものじゃない。
人と人が出会って、触れ合って、別れて、そんな当たり前のことの中に起きる優しい物語なんだろう。
それがわかってるからこそ、サンシャイン・ダイナの胸はいっぱいだった。
初めて男子から抱きしめられるのに、こんな幸福なシチュエーションの女子はいるのだろうか。
思わず顔が赤くなってにやけてしまう。
ついでに目も潤んできた。
「でもありえないよ。まじでありえないんだけど。ちょっと……じゃ、そうしよっかな。待って待って。一回落ち着いてからね。マジ今のテンションやばいから。無理だから。一回落ち着こう。そうして……待って。待ってね、ちょっと待って」
「フッ……。それほど迷うとはな。死ぬより嫌なことか?」
ハンド・メルト・マイトはそう言って目を細めて苦悩するような表情を浮かべ、そして微笑んだ。
サンシャイン・ダイナはその胸に飛び込んだ。
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