第41話

 当たり前だと思っていた場所は、いつの間にかなくなってしまう。


 でもなくなったと思っていた場所が不意に顔を覗かせることもある。


 ローゼン・カメリア・サニーサイド・スマイリング・ブレイク・アロー・ウーマンはこの空間の温かみを胸の奥まで味わっていた。


「来るわよ。タイミングを間違えないで」


 振り返ると、ラック・ザ・リバースマン、ハート・ビート・バニーがかしこまった表情で頷いた。


 ドアが開く。


 破裂音。


 ラック・ザ・リバースマンとハート・ビート・バニーがクラッカーを連続で鳴らす。


 ローゼン・カメリア・サニーサイド・スマイリング・ブレイク・アロー・ウーマンも巨大なクラッカーの紐を引き、金銀のリボンが宙を舞った。

 天井から吊り下げられたくす玉が割れ、大きな垂れ幕が降りる。


 そこには『ハンド・メルト・マイト、サンシャイン・ダイナ、宇宙進出おめでとう!』とポップな色合いで書かれている。


 紙吹雪が大量に舞い、それをかき分け入ってきたのは緑色の頭だった。


「はい。皆さんご存知、ザ・パーフェクトちゃんですよ」

「パフェ! どうして?」


 ローゼン・カメリア・サニーサイド・スマイリング・ブレイク・アロー・ウーマンは思わず目を見開く。


「あの、私が呼んだんです。すみません……」


 ハート・ビート・バニーが申し訳なさそうに眉毛を下げる。


「なによ? 来ちゃいけないみたいな言い方」

「来てくれて嬉しいわよ。でもこれ、どうすんのよ! クラッカー残りは?」

「全弾撃ち尽くしたさ」


 ラック・ザ・リバースマンが緊張感のない表情で答えた。


 ローゼン・カメリア・サニーサイド・スマイリング・ブレイク・アロー・ウーマンは嘆くとともに、こんなこと昔もあったなと懐かしく、どこか嬉しく思った。


「久しぶりだってのに、またピン子はキーキー怒鳴ってるの?」

「怒鳴ってないわよ。しょうがないわ。それに今はピンキー・ポップル・マジシャン・ガールじゃなくてローゼン・カメリア・サニーサイド・スマイリング・ブレイク・アロー・ウーマンよ」

「長い!」

「ボクも何度か聞いたけど覚えきれてない」

「私もです……」


 気持ちを切り替えるために変えた名前だったけど、このメンバーの間ならピンキー・ポップル・マジシャン・ガールの方が馴染みがあるのは当然だった。


「いいわ、ピンキーで。でもパフェ、よく来てくれたわね」

「バニたんが泣きそうな声出して頼んでくるからさ。暇だし」

「暇なの? 超本営」

「知らないよ。忙しい人は忙しいんじゃない? うちはなんか知らない間に偉くなっちゃったから楽してんの」

「そうなの、すごいじゃない」

「みんなやめちゃったせい。寂しいもんだよ。うち一人おいてさ」

「あの、私一応誘いました。六回ほど」


 ハート・ビート・バニーが声を上げる。


「だって大変そうだから。うちはコロコロ居場所換えるのが好きじゃないんだよ」

「それより、今日はマイトとダイナさんのお祝いなの。パフェさんも一緒にやって」

「めでたいのかめでたいのかよくわからないけどね。あの二人は頭の中がめでたいからちょうどいいよ」


 ザ・パーフェクトがそうこぼすと後ろからハンド・メルト・マイトが入ってきた。

 そのすぐ後にはサンシャイン・ダイナも続いている。


「チッチッチ、俺の頭の中は小宇宙だからな。誰もたどり着けないんだぜ」

「わー。なんか部屋すごい汚い! ウケるー」


 サンシャイン・ダイナに言われてよく見れば、床には紙テープや金銀のリボン、カラフルな紙吹雪にクラッカーのカス。

 お世辞にも綺麗とは言いがたかった。


「違うのよ、これは」

「うん、大丈夫。わかるよー。ありがとう。あはは、このくす玉も最高。なんかさ、前みたいだね」


 サンシャイン・ダイナの言葉に胸が熱くなる。


 みんなそう思ってる。

 場所も境遇も変わったけど、仲間の絆は変わっていない。

 随分昔のような気もするし、昨日のような気もする。

 あの時はあの時で大変だったはずだけど、そういったマイナスの感情は時の流れとともに薄れていって、今は思い出だけが色濃く残っているのだ。


「まったくだぜ。あの時……ポップルに新しいスーツを渡そうとしてあれほどの怒りを買うとはな」

「マイちん、あんた一人だけ思い出してる時期違うよ。その時、ダイティまだいないから」

「フッ……わかってるさ。時の流れってやつは無情だぜ」


 ハンド・メルト・マイトはやっぱりいつも通りだった。

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