第22話
目に映るものの彩度が違う。
心境の変化によるものだとはわかっている。
しかし、思い出してみれば今見ているものこそ当たり前の光景だった気もする。
ということは今までは色を失って見ていたのかもしれない。
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールはそんなことを考えていた。
上官から先日の任務に対してお褒めの言葉があり、きちんと評価すると言ってもらえたのだ。
思わず奮発してみんなにケーキを買ってしまった。
ニヤつく顔を抑えつつ待機室に入る。
女子たちの視線がピンキー・ポップル・マジシャン・ガールに集まった。
その視線は手元のケーキの箱に注がれる。
「やっぱりね」
ザ・パーフェクトが口角を上げる。
一体何のことを言っているのだろう、と状況がつかめずにテーブルに向かうとそこにはケーキの箱が二つのっていた。
ハート・ビート・バニーとサンシャイン・ダイナも買っていたらしい。
思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
そんなわけで、急遽お茶会が開かれた。
ハンド・メルト・マイトがいなかったので、ラック・ザ・リバースマンに留守番を命じて中庭に出る。
可哀想だけど彼にはちゃんとケーキをあげてきたし、せっかくなのだから女の子だけで集まりたかったのだ。
いつもこうだったらいいのに、という多幸感がピンキー・ポップル・マジシャン・ガールを満たしていく。
明るい雰囲気の中、普段は話さないようなプライベートな話題も飛び交う。
服の話、メイクの話、体重の話、恋愛の話に将来の話。
しゃべりすぎて口がなめらかになってくる。
気遣いも目減りしていって感情的な話題も遠慮なく飛び交う。
「バニちゃんはラクちゃんと付き合わないの?」
サンシャイン・ダイナがそう言った。
すごいところに切り込んだな、とピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは呆れながらも、陽気すぎる雰囲気のせいか答えを楽しみにしてしまう。
「どうしてです?」
ハート・ビート・バニーは照れるかと思いきや、微笑んで首を傾げる。
意外な反応だった。ラック・ザ・リバースマンのことを出すといつも挙動不審になるというのに。
「なんでなんで? だってバニちゃんてラクちゃんのこと好きでしょ?」
サンシャイン・ダイナが無遠慮にそう聞く。
「あ、あの、あの。私、あの。ああっ!」
ハート・ビート・バニーは虚を突かれたように真顔になり、やがてパチパチとものすごい高速でまばたきを繰り返した。
みるみるうちに顔が赤くなっていく。
最後は勢い良くテーブルに突っ伏した。
「なにこれ? 何の反応? ラクちゃんに親でも殺されたの?」
サンシャイン・ダイナが顔を曇らせる。
「バニたんはね、恋愛という感情を今知ったのだよ」
ケラケラ笑っていたザ・パーフェクトが苦しそうに言った。
「えー! そんなことありうる? 女でしょ? ないないない。絶対ないよ。ありえない。そんなの殺人サイボーグじゃないだよぉ」
「女と言っても色々な種族がいるんだよ」
「バニちゃんゴメンね! あーし、なんか間違ったかも。全然そういうんじゃなかったんだけど。なんかごめん」
テーブルに突っ伏したままのハート・ビート・バニーにサンシャイン・ダイナが覆いかぶさる。
それでもサンシャイン・ダイナは楽しそうに笑顔だった。
ハート・ビート・バニーは首をフルフルと振った。
ただただ微笑ましく、ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは心の底に澱のように溜まっていた言葉がスルッと出てきた。
「実はあたし、ダイナちゃんのこと、疑ってたの」
「え。なにがなにが? あーしのこと? あ、スキンケアのこと?」
ハート・ビート・バニーの肩から手を離すとサンシャイン・ダイナは瞬時に気持ちを切り替えて答えた。
スキンケアのことはまったく気にしていない。
というよりピンキー・ポップル・マジシャン・ガールとサンシャイン・ダイナではメイクの流派が違う。
「こっちが勝手に勘違いしてたの。超本営が派遣してきた監査員でこのチームを解散に導くスパイなんじゃないかって」
「そんな風に思っての。ウケるー。なんか嬉しーんだけど」
「嬉しいの?」
「だって、スパイって格好いいじゃん! ちゃんとしてる。有能ってことでしょ? 有能界の横綱ってことだもん。マジそれいいわ。あーし、スパイになりたい」
「ダイナにスパイをやらせたら敵も味方も壊滅するね」
ザ・パーフェクトがポソッと言う。
「聞いたー? 失礼すぎない? あーしすごいよ? 本当はスパイとか得意だと思う時あるもん。たまに」
自分の心の中にずっと重石になっていたことが、こんな簡単に打ち明けられて、しかもこれほど朗らかに収束してしまうことだったとは。
もちろんサンシャイン・ダイナの人柄もある。
彼女の存在は、ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールにとってもう大事な仲間の一人となっていた。
ザ・パーフェクトがいたずらっぽい笑みを浮かべてゾングルを動かす。
ハート・ビート・バニーがそれと一緒にガバッと起き上がった。
目が潤んで赤く縁取りされている。
彼女の照れた顔はとても可愛らしかった。
「新しいチーム名を決めないと。スタイル・カウント・ファイブじゃもういられない」
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールはそう提案した。
全員いる時の方がいいとハート・ビート・バニーが言い出し、待機室に戻ることにした。
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