第17話 気持ち
「サクト……さん?」
エミは驚いた表情で俺を見つめ本物だと確認した後、こちらに向かって走ってきた。
「おいおい急にどうした!」
「心配したんですよ!?ユイさんは副団長のことがあって見れないしアイルさんも攻略の手伝いがあって来れなかったですし……」
「って言っても2日だろ?疲れがたまって寝ていたって言う感じだったし。それよりさ、なんで抱き着いてるのかな?」
俺はこちらに走ってきた後にエミが抱き着いて話していたのだ。無意識に抱き着いていたのか、顔を赤くして後ろに下がる。
「ご、ごめんなさい!!なぜか勝手に……」
「いや、勝手にってどういうことだよ……ま、いいとして、今ユイやアイルはどこにいるんだ?」
「ユイさんはトラムポッツの会議、アイルさんは経験値稼ぎだ~と叫んでクエスト攻略に向かいました」
ユイは分かるがアイルは死をやっぱり恐れてないな~。頭のねじが吹き飛んだのかよ、あいつは。
「じゃあ、俺はまた」
デイは俺たちに聞こえないくらいの声で言い、どこかへ行ってしまった。そのせいで俺たちが話している途中に後ろを見て問おうとして後ろを向くと誰もいないという状況になった。
「え、えーっと。俺たちは2人で言い合ってデイはそれを見飽きて帰った……」
「まあいいですよ。お礼をと思っていましたけど後と言うことにして」
急にエミはメインメニューを開き、アイテムストレージを選択し何かを探し始める。俺がアイテムストレージを覗こうとすると反対方向に向けて見せないようにさせた。
「――――」
「――――」
風の音がよく聞こえる。周りに人の姿はなく、足音も店にいる人もいない。今日はみんな休んでいるかトラムポッツの会議に出ている人が多いのだろう。
「――――」
久しぶりに耳を澄ましてみた。目を閉じ、周りの音に耳を傾ける。近くにある木の葉が揺れる音。少し遠くだが鳥の鳴き声が聞こえ――――足音が近づいて、
バチンと音が響き渡った。
「痛ぁぁぁぁあ!!!」
「サクト君、2日寝たきりっで起きたと思えばデート?」
俺の頬に真っ赤な手形が付き、ユイの顔も真っ赤で怒っている表情。
「違うって!さっき起きて、で、これは……この状況はデートじゃなくてユイたちのところへ行こうとしていたところってわけだ」
「じゃあエミさんを抱いていたのは?」
一瞬心臓が飛び出しそうなほどはねた。一応俺がしたことではなくエミがしたことだ。けれどまさか見ていたとは、と思ってしまい恥ずかしさが出てくる。
「あ~あれはエミが急に……だろ?」
問いかけるようにエミのほうに向くとエミは下を向きながら何も言わず素振りもしない。またユイを見ると―――
「――――」
「―――?」
無言なのに何を言っているのかがわかる表情。これは嘘ついているだろって顔。さすがに沈黙の戦いに耐え切れず口を開く。
「……よ、よーし!クエスト攻略頑張ろっと!」
そう言って案内所へ向かおうとするとエミの足が俺の背中に、ユイの拳が俺の腹に直撃して叫び声が響き渡った。
≪2501年 8月10日 48階層≫
とうとう俺たちは48階層まで来ることができた。俺とアイル、ユイにエミはトラムポッツの最上位の地位的なものになったが、『他の者』がクエストを進めておくとヒルガオに指示され休みとなった。残り僅かなクエストならこちらも協力しようと思ったが金を払うまで言われエミが反応しこういった状況。
「家を建てました~!」
両手を広げ笑顔で叫ぶ。俺たちはエミに呼ばれて半信半疑で来たが本当に建てていて木造建築。キャンプでよく借りるような家。
「KSOで家を建てれるのか?」
「そうなんです!大工のスキルを持っている人に頼んだらこんな感じに!」
大工のスキルか……ん?待てよ、大工のスキルなんてものはないはず。だとしたら。
「それって人工知能か何かじゃないのか?」
「設定とかもしましたし………あ。確かにAIかNPCかもしれません!でもいいですよ!はいはい、もう中で料理は作っているのでどうぞどうぞ」
言われるがままに家に入るとソファーやテーブルにキッチンといろいろ揃っていていい部屋だった。テーブルの上には焼き魚や肉、サラダが置いてある。
「いっただきまーす!」
「ちょ、俺も!」
アイルがもう料理に手を伸ばしていた。それに瞬時に気づき負けじと料理に手を伸ばす。すると視界に鋼が降りてきた。剣だ。
「ちょっと待とうね?お2人さん?」
声がする方向を見ると怒りに満ち溢れている表情が。ソードスキル直線斬りをされて俺とアイルは何も言えない。
「「申し訳ございませんでした~!!!」」
2人揃って正座をして頭を下げる。するとユイは「よろしい」と言って剣を鞘に入れた。
「でもなんで止めたんだ?食うのは別にいいだろ」
ユイは俺に近づき耳元で、
「ちょっと来て」
そう言ってドアを開けて外に出た。俺も同じように外に向かった。
外に出ると向こうにある1本の杉の木を見つめている。何か考えているかのような、決意を新たにするかのように。
「で、どうしたんだ」
「――――もうちょっと、待って」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ始める。
「えーっと……」
急に下を向き、顔を赤くさせた。
「――きなの」
「な、なに……?ごめん、聞こえなかった」
「―――サクト君のことが……」
何かを言おうとした瞬間、バタンとドアが開く。
「2人はずるいですよ!3人で……?」
ユイの目が殺意に変わる。エミもさすがにマズいと思ったのか、鞘に手をかけていつでもかかってこいという姿勢を見せた。ユイは悩みに悩んでいたが、
「もうどうなってもしらない」
と下を向きながら言う。するとこちらに向き。
「好き」
2文字の言葉だけで頭の中が埋め尽くされていく。エミも俺も動揺が隠しきれない。
え、俺の聞き間違いか?ススキ、なんて言わないだろうし他のことの話に入ろうとしたときに間違えて言ったとか……
「返事はまだ…かな……」
「――――」
ユイは頬を赤くさせ、エミは下を向いている。やっぱりユイが言ったことは『好き』って言葉だ。どうする……うーん。
「返事はまだってことで、な?今の状況は厳しい状況なんだ。こうやっていつまでもこんな感じで過ごせるわけじゃない。このことが全部終わってから返事をするよ」
ユイは悩んだが小さくうなずいて家に入って行った。エミはまだ帰ろうとしない。
「……サクトさん」
「どうした?」
「私にも返事を返してくれませんか?」
下を向きながら表情を見せないように言う。俺は何を言っているのか最初分からなかったがすぐに理解した。まさか……こんなことになるとは、と思いながらも「分かった」と言い、エミと一緒に部屋に入って行った。
「おいおい、遅いって!俺もうかなり食ったぞ?」
「悪い悪い。さあ食おう!」
俺たちはいろいろな料理を食べていったがユイとエミの顔は暗いままだった。
「うまかった……おやすみ~」
「俺も寝るわ。ここで。何かあったら起こしてくれよ」
ユイたちにそう言って俺とアイルはソファーで眠った。
*
さっきのことがあった後に話すのは気まずい……
「お茶とか飲みます?」
気まずさを紛らわせようとユイさんに問うと暗い表情のままうなずく。私はキッチンに行ってお茶をコップに入れ、ソファーに座りながらテーブルにコップを置いた。
「どうするんですか?ユイさん」
「え?」
思わぬ質問だったのかユイさんはかなり驚いた表情をする。
私だってサクトさんのことが……でもユイさんの気持ちも確か。だから。
「サクトさんに言って返事は後でって言われましたよね。どう思っているんですか?諦めかけているわけではないですよね」
「―――!なんでわかったのか分からないけど、怖い。もし返事が断られたらって思うと本当に怖くて、諦めかけているかも。でも、エミに言われて諦めるのは嫌だって思った。頑張ってみようかな」
私も……私だって、好きなのは一緒。ユイさんに負けないくらい。それ以上だって思ってる。
「じゃあ、私も負けません、諦めません。ユイさんに負けずに」
「―――!」
ユイさんはこちらを見て何かを察したのか殺意ではなく敵意に似た目をしながらこちらを見つめる。でも続けた。
「私はサクトさんが好きです。負けませんよ?このゲーム、KSOが終わった後、私はサクトさんのところにどうにかして向かいます。それほど好きなんです」
「エミに負けてられないって思ったかな。負けないよ」
拳をこちらに突き出す。私も拳のほうにこぶしを突き出し当てて、
「負けないです。私も」
そう小さな声で呟いて手を下ろした。
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