第15話 サマーフェスティバル

≪2500年 7月18日 午後6時≫


 6月18日から昨日、7月17日までにクエストがかなり進んだ。トラムポッツが1クエスト以外は分かれてクリアしようという計画が良かったらしく6階層、7階層、8階層、9階層、10層、11層、12層、13層をクリア。現在でも14階層のクエストがあと3つというかなりハイペースで攻略が進んでいる。これにも理由があり、ヒルガオと副々リーダ、『デイ』という男の活躍のおかげだ。デイは最近ギルドに入ってきたが、レベルが俺とほとんど変わらない、ヒルガオよりも上で他のRPGもかなりしていたという。

 俺たちはクエストをかなりしてきて休憩しようということで夏限定で開催される『サマーフェスティバル』に参加しようという話になり今そのフェスティバルへ来ている。フェスティバルと言っても祭りのようなものだ。


「すげ~……」


 1つの通りの横に屋台がずらりと並んでいた。ダーツがあったり祭りでよくあるたこ焼き、チョコバナナ、金魚すくいならぬキンギャすくい、おみくじと。


「サクトさん!これ見てください!巨大綿飴ですって!!食べてみましょうよ!」


 エミが指さした方向を見ると人の顔が2つ入るんじゃないのかと思うほどの大きさの綿飴があった。大きさも驚いたが下に表示されてあった値段だ。


「金貨70枚―――!?」


 この綿飴を買っている人が多いがさすがに俺は買う気にならなかった。金貨70枚は実際7000円となる。想像しただけで震えが止まらない。


「お前が払うならいいけど」


「あったりまえですよ!!」


 ドヤ顔でエミが持っている所持金を俺の目の前に表示させた。枚数は39万4671枚。現実だと3946万7100円。どんどん震えが止まらなくなっていく。


「ど……どうやってそんな大金を!!!」


「そりゃあクエストの報酬と儲けですよ~?」


 俺でも金貨4000枚程度。繁盛してんだろうな~……


「ねぇねぇ~!これちょうだいよぉ~!」


 横の屋台でオレンジ色の男の子が指をさしながらおねだりをしている姿が目に入る。


「これぇ~!」


 指をさしている方向を見るとぬいぐるみだった。クリスタルを首飾りにしているクマのぬいぐるみ。エミは「可愛い!!」とキャーキャー横でうるさく言っている。可愛いのは確かにそうだったが、おかしい点が1つあった。見た目で決めるのは良くないが、身長はヴァジスで現実と同じはずで精神に影響することだってない。このKSOを買うこと、使用は最低でも15歳以上。医療は別だけれど……


「ちょっと先行っておいてくれ。少しあの男の子の行動を見ておくからさ」


「あの~……ストーカーってことじゃ……」


「違うって!!」


 エミがからかいながらも「分かりましたよ」と言い笑顔で他の屋台へ向かって行った。


「それじゃあ私たちは奥のほうに行っておくね」


「分かった」


 アイルとユイはこちらに手を振った後、エミのところへ向かった。俺はあの男の子を見るために男の子のいるところの近くの屋台へ向かう。


「やったぁ~!」


「特別だぞ?早く親のところに戻りな!」


 屋台の男が言うと男の子は首を横に振る。


「僕、ここに親いないよぉ~?」


 思わぬ返答に俺や屋台の男は驚きの表情を浮かばせた。『ここ』という意味がこの祭りにいないのか、それとも現実世界にいるよと言っているのかが分からない。


「じゃあ僕、俺が探してやろうか?」


「いやぁ~いいのぉ~。この人に頼むぅ~」


 そう言って俺の服を掴む。屋台の男は「頑張れよ!」とだけ言い、屋台の準備をするために屋台の奥へと隠れた。


「あ~!なんで俺なんだよ!まあ、一旦ユイたちのところへ行くか……」


 服を掴んでいる男の子は何も言わずにうなずいて俺と一緒にユイのところへ歩いて行った。ユイたちはおみくじの屋台に立っていた。


「おじさん!私は30回でお願いします!」


「お~すごいチャレンジャーだね~。金貨90枚だよ!」


 エミは金貨を払った後、おみくじの紙が入っている箱に手を伸ばす。目はキラキラしていて手はボス3体に1人で立ち向かっているのかって程の震え。


「よ、よ~し……まず1つ目!」


 手に取った紙を開く。


「なんだなんだ?」


 俺が男の子と近づいて何が書いてあるかを確認する。書いてあったのは『はずれ』。はずれが出ると飴玉が1つ。はずれたことを確認した後、俺がいることに気づいた。


「あ!サクトさん!来てたんですね!今おみくじをやってまして、あと29回しますよ~?」


「29回……多すぎだろ……さすが金持ちは違うな」


 そう言うとエミはエッヘンとドヤ顔をして、また箱から紙を1つ取る。


「またはずれだ~!!また!?え、また~!?」


 このおみくじは10回に1回は何かしら当たると書いてあったが、この箱に当たりがなかったかのようにボロボロになった。全部はずれで飴玉を30個エミのストレージの中に入っている。

 エミは泣きそうになりながらも、


「もう30回、いや、100回!」


 金貨を300枚出しておじさんに言う。


 馬鹿かよ……自分が何をしているのかわかってないだろうな~。おみくじで当たりを引くためだけに30万つぎこんでることになるからな。


「大丈夫!大丈夫ですよ!」


 何かにとりつかれているかのような表情をしながら箱から紙を取る。結果は――


「――――」


 ストレージを覗くと飴玉130個。全てがはずれだったのだ。箱の中には3つしかないのにすべてがはずれ。少しおかしいなと思い俺は金貨を払う。


「よいしょ。これは……あ」


 やってしまった。紙を開くと『大当たり』という文字が書かれている。大当たりの景品は『ユークリフの骨』。料理として使えたり、武器の素材になったり、金になったりと最強アイテム。こんなものが当たったとエミに言ったらと思うと震えが止まらない。


「よ、よーし!みんな!あっちのキンギャすくいやってみようぜ!」


「いいですね!こんなぼったくりおみくじよりよっぽどいいですよ!」


「俺もやってみようかな!サクト!俺たち先行ってるぞ?」


 俺はアイルに返事をした後、紙をおじさんに見せる。


「お~兄ちゃん、当たったのか!それじゃあ、この正真正銘本物の『ユークリフの骨』をあげよう!」


「ど、どうも……では……」


 ユイたち、特にエミに聞かれたら俺は切り刻まれてしまうと思い、小声で言って男の子とキンギャすくいの屋台に向かった。


「やったぁ~!」


「―――」


 オレンジ色の髪の色をした男の子はキンギャすくいをすると言い始め、仕方なくさせてあげると最初キンギャを見つめてここだと思ったときに音速のスピードでポイを使いすくい上げる。そんな光景が今見えている。

 エミやユイ、アイルはただ唖然と眺めているだけ。


「もう、終わりにしよう!な?」


「分かったよぉ~……このキンギャ全部すくいたかったのにぃ~」


 あれこれ言いながらもポイを屋台の人に渡してすくったキンギャと水が入った袋を手に取る。


「そろそろ親を探さないと、心配するからな」


「そうよね。親が心配すると思うし」


 ユイはうなずいていると男の子は首をかしげて、


「僕、親いないよぉ?『ここにはぁ』」


『ここには』という言葉にやっぱり引っかかる、どうしても。


「ここじゃないってことはどこにいるのかな」


「えーっと……言えない!バイバイぃ」


 急に男の子が走り出し、手を振りながら視界から消えて行った。追いかけようとしたが親を探すためだった俺たちには何もすることはないだろうと思い追いかけるのをやめてフェスティバルを楽しんだ。



「暗くなってきたな……星も綺麗に見える」


 今日は晴天で星が輝いているのがよく見える日だった。流れ星もたまに流れ、願い事をしているエミやアイルの姿も見える。横にはユイの姿。


「そろそろ帰らないとね」


 こちらを向いて少し笑みを浮かばせながら言う。


「ああ。明日からはクエストを再開しないといけないし」


 明日からトラムポッツが集まりこの1週間でクリアまで行こうという無謀なチャレンジが始まる。


「この世界って仮想世界よね……」


 何か不安そうな顔で聞いてきた。


 確かにそうだ。けれど最近俺も思っていること。この世界は仮想世界であるのに、4か月たった今では料理もできるし勉強だってできる。物作りだって、戦闘だって。何もかもできるような世界。4か月たったから思うことなのかもしれないけれど、


「ここはまた違った本当の世界だと思うよ」


「―――?」


「現実世界のほうが良いよ、でもここが偽物ってわけでもないと思う。たとえ作られた世界だとしても。こうやって星をみんなで見ているのもそうだし、笑いあったりしている。ほとんど一緒だと思う」


「―――すごいね、サクト君は」


 下を向きながら話を続ける。


「私は早くこんな世界から出ようなんて思ってばかり。こんな仮想世界より現実世界、普通の世界に戻って友達や家族に会いたい」


 現実世界の自分の体は栄養を十分に取れず死に至りそうな人だっているだろう。俺だって家族に会いたい。もう顔が思い出せれていないから思い出したい。でも―――


「―――でも、この世界に今はいる。みんなと一緒に」


 俺が口を開いて言おうとした瞬間、同じことを言った。


「早くこの世界から出たいのは変わってない、ここで死んでしまったら本当に死んでしまうんだから。そんなものがないゲーム、本当の世界で楽しみたい。こうやってサクト君やアイルさん、エミと一緒に。だから今は全力で戦う」


「当たり前だろ。このゲームがクリアされたらまずみんなに会いに行くよ。新しいゲーム、VRMMOのソフトを探して買って、そしてまたこうやって笑い合って楽しんでってしよう」


 エミは、目に涙を浮かばせながら「うん」とうなずく。一筋に流れた涙をまた拭ってアイルやエミたちのところに走って行った。俺はその光景を見ながら、


「守って、俺がこのゲームをクリアしてやる……」


 と決意し、俺もみんなのところへ走って行った。

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