第13話 神殿ダンジョン
俺とユイはトラムポッツの本部に戻り、リーダー室へと向かった。扉を開けるとヒルガオと白い騎士服の女の姿が。扉が開いたことに気づき、2人はこちらを向く。
「帰ってきたか」
ヒルガオはすぐにコニアの姿がないことに気づき、聞いてきたが俺は首を横に振りいないことを伝える。
「状況はよく理解できない。だが君たちがやったことではないと思っている。それよりも地下ダンジョン、黒いフードの男の件はどうだった」
「ダンジョンの中にある隠し部屋にその黒いフードの男と同一人物と考えられる男はいた。VANだ。グロースプログラムのAIを連れて何かを計画している様子だった。分かったのはそれくらいだ」
「そうか、ご苦労だった。ゆっくり休むといい、と言いたいところなんだが。サクト君。君だけは残っていてもらいないかな」
ユイは必死にやめさせようとしたが俺はヒルガオの話を聞くため残ることにした。
「残ってもらって済まない。今回、君だけで調査してもらいたい場所がある」
俺だけ。ギルドメンバーがまだ他にもいる中、俺か……何かを企んでいるとは考えてないけどそれにしてもな……
少し考えて仕方なく「分かった」とうなずく。それを見たヒルガオはすぐに説明をし始める。
「5階層にある森ダンジョン。その中に神殿ダンジョンが存在しているらしい。噂ではあるがいまだ見つけられていないという。案内所でクエストを設定した後は普通だと転移される。しかしOKボタンを押しても神殿ダンジョンへ向かえというメッセージが表示されるだけ。難易度はそこまで高くない」
難易度が高くないにしても……森ダンジョン、神殿ダンジョンへまでの道のりが大変だと思うんだけど……
俺は報酬次第だと判断し、質問をする。彼が言うには金貨はかなり用意しているらしい。
「分かった。クリアできるとは限らないけど」
「そう言ってくれると思っていたよ」
転移クリスタルを渡され、すぐに5層の森ダンジョン『ルーリ』に向かって転移していった。
転移して見えたのは木々。草の間から太陽の光が入り込んでくる。風でたなびく草や葉。奥にはイノシシのようなモンスターも視界に入っていた。
「こんなところに神殿ダンジョンがあるのか?不安だな……あのクギくらいは倒しておこうかな」
クギはイノシシと見た目がほとんど一緒。鼻息から赤い炎を出す。強くなっていくと出てくる炎の色は黄色へ変化する。
俺は右足を後ろに下げ、右手にあるアルメリアの剣先をクギに向けながら後ろに引く。すると赤色のエフェクト光が輝き、クギめがけてシステムモーションが入った。これは二刀流ソードスキルにつなげるための技。直線斬り『クイック』。クギに刺さりそうになった時に左手にあるヒペリカムがオレンジ色のエフェクトが発し、上から振り下ろしていく。2つの剣はクギに刺さり白い光となって消えて行った。目の前に経験値等が表示される。
ソードスキルで違う種類を同士で使うことで二刀流別剣技(にとうりゅうべつソードスキル)が完成する。アルメリアが使うソードスキルとヒペリカムが使うソードスキルが別の時に自動で発生するソードスキルのことを言う。片方がオレンジ色でも片方が赤色のエフェクト光を発していれば優先的に赤色と同じ命中率へと変わる。
「よし。二刀流ソードスキルには慣れてきたかな」
前までなかった二刀流ソードスキル。俺はかなり練習を積み重ねて大体のソードスキルは使えるようになった。他のプレイヤーはソードスキルと二刀流ソードスキルの使い分けが難しいと言ったり覚えることができないと言い二刀流をやめるプレイヤーが続出した。今二刀流なのは10人いないだろう。
とりあえず歩いて行けば神殿ダンジョンに着くと思う。できる限りモンスターには会わないようにしたいけど経験値稼ぎでするのもいいかもしれないな~。
俺はモンスターを倒しながら森ダンジョンを歩き回った。神殿ダンジョンの「し」の字も見つからないまま周りは木が少なくなっていた。森ダンジョンからそろそろ出そうなのだ。
「もう無理か……見つからないまま帰っても報酬はもらえないし。うーん……」
その場に立ち止まって考える。もう一度森ダンジョンに入り神殿ダンジョンを探すか、一旦帰って報酬なしで終わるか。俺が決めたのは。
「探すか」
探すことにした。報酬なしで終わるのは嫌で嫌でたまらない。
鞘から剣を取り出し、神殿ダンジョンを探しに行こうと後ろを向く。
「え――――?」
見えた光景。石材で造られた建物。1言で言うと遺跡。最初神殿と疑ったがあまりにもそう言えない見た目。神殿ダンジョンと言われて想像したのは噴水が手前にあり、奥には太陽の光で照らされた大理石の建物で綺麗。人の彫刻があるなどと想像していた。
建物の周りをぐるっと1周した後、入り口のような場所の前に立つ。
「……ここが神殿ダンジョンなのか?もっと綺麗な場所ならよかったんだけど」
想像以下の見た目でがっかりしてため息をつきながら神殿ダンジョンらしきところへ入って行った。
中は明かりがなく奥が見えない。歩き進めていくとほんの少しだけオレンジ色の光が見えた。俺はその光に向かって走る。
「はぁはぁ……これは?」
光が浮いていた、というべきか。どういえばいいのかが分からない。近づいてみるとHPバーが表示された。HPバーはプレイヤー、モンスター、AI、NPC、特定のオブジェクトくらいしかない。このオレンジ色の光はアイテムのようにストレージに入れれず、モンスターのように斬ってHPバーのゲージを減らすことができない。
「なんだこれ……クエストがこれのHPバーを0にするとかだったら絶対無理だぞ!?」
とりあえずこの光のことを後にして、他の場所を見ることにした。
横には絵が描かれていたがピカソの絵みたいでよく分からない。地面に本が落ちていたが何が書いてあるか分からなかった。諦め半分で奥へ進む。
「なんだこの音」
奥でコンコンと音が鳴っている。ドアをノックしているかのような。否、足音だ。
「誰だ!!」
俺の質問に答えず足音がこちらに近づいてくる。
「ガルルル……」
足音の正体はモンスターだった。姿はリザード。1体のみ。青い炎のような目、右肩にナイフのようなものが刺さっていた。助けを求めているのではない、俺を殺しにかかってきている。リザードは鞘から剣を抜く。
「戦う気かよ……前々から戦ってきたリザードが戦えるのか?」
リザードが答えるわけもなく地面を蹴りこちらに近づいてきた。回転技ソードスキル、『イリンガル』。すかさず俺は2つの剣でブロックしなんとか耐える。
「これがクエスト、かもな。まさかあんなに一発が重いなんて」
ブロックしたとき岩が乗っているのかと思うほどの重さを感じた。
「ガラ~ル……」
弱弱しく鳴くリザード。それでも戦おうと剣を振る。2度目は軽かった。一気に力を抜いたかのように重くなく、俺は軽々と剣をはじき返してリザードの肩に剣を入れる。HPバーは0になり、白い光となって消えていく。目の前にクエストクリアの表示がされた。
「――――?クリア……?」
確かに剣に込められた重さが重かった……けれど一発だけだ。クエスト報酬、経験値はかなり入ったし、どうなってるんだよ……
不思議に思いながらも鞘に剣を収めて神殿ダンジョンから出て、ヒルガオのもとへ帰ることにした。
俺は扉を開け、中に入る。相変わらず椅子に堂々と座っているヒルガオ。
「お前はすることないのか?」
「ある。しっかりと指示を出している」
「それしてないと同じだぞ……それはいいとして、クエストはクリアした」
ヒルガオは驚いた表情をした後少し笑みを浮かべた。
「それはよくやった。神殿ダンジョンを見つけてモンスターまで倒すとは」
「そこなんだよ」
モンスター。リザードで強かったけれど……でも、簡単だった。
「神殿ダンジョンの中にいたのはリザード1体」
どういうことだと言いながら立ち上がる。俺もそれは一緒の気持ちだ。まさかこれほどまで簡単なクエストなのかよと疑ってしまう。
「強いは強かった。でもクエストで出すようなレベルじゃない」
「分かった。調査はこちらでしておく。君はもうかなり疲れていると思う。しっかり休むんだ」
言われなくても、と思いつつうなずいて扉を開けて出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます