第50話(最終話) 4人の絆は永遠に

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 下部にあとがきがあります。是非そちらまで目を通していただけるととても嬉しいです。では、最終話スタートです。

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 夏美あえは、力を得た経緯を伏せていた。未来がそう示していると……。そして、彩衣に一つの答えを出すように課した。


 心を読む能力を失っても良いか。


 4人が愛情をもって協力をしていけば……例え彩衣と彩依だけになってもこれからは困らない。心を読む能力を失うということは、今まで分かった相手の気持ちが分からなくなる。

 椎弥の心も読めないし、和奏の心も読めない。今まで経験のない不安を抱え込むことになる。


 期限は11月。それまで僕たちは4人で学び、4人で遊び、4人で愛情を確かめ合った。


 夏美あえが未来を探る中で、キャンプに行く未来をよんだ。僕は思い出した。彩衣の音が離れた時に初めて彩衣が行きたいと言ったキャンプ。まだ行っていなかったことに……。


 場所は国立公園。エリアごとにアスレチックや散歩コース、植物園などが広い敷地の中にゆったりと広がっている場所。約束通り彩衣と和奏がお弁当を作ってくれた。

 紅葉こうようしたもみじを中心に様々な木々が織りなす秋の景色が美しい。しかしイチョウだけはどんなに探しても見当たらなかった。


 考えてみると、いつからかイチョウの葉を見ていない気がする。



 そして11月。決断の時が来た。


 彩衣、彩依ともに能力を捨てる。普通の女の子として生きていく道を選んだ。


 彩衣にも変化が見られ、いつもニコニコしていた表情に感情が徐々に表出するようになってきた。喜び、怒り、悲しみ、楽しみ、まだまだ薄いけど、この変化が僕にとってとても嬉しかった。


 相変わらず、「椎弥の好きにしていいんですよ」とは言うが、悲しそうな表情が見てとれるので言われるたびに抱きしめキスをした。そのうち、キスしたい時にその言葉を言っているんじゃないかと思うと素直に感情を出せない彩衣が愛おしかった。


 和奏は相変わらず。素直に甘えることはない。甘えたい時は彩衣か夏美あえを使って甘える口実を作る。そんな和奏が大好きだ。幼馴染とかなった恋。僕のことをずっと見続けてくれた和奏に感謝しかない。


 夏美あえは学校では今まで通りの振る舞いをしているが、困ったことにどこにいても心の向くまま甘えてくるようになった。おかげで学校では敵が多い。しかし、勉強を真面目にやって成績を残している分、敵が減っている。


 彩衣の夢を叶えるため大銀杏に願った未来を探る力。

 彩依への暴力を少しでも自分に向けようと大銀杏に願った心を読む力。


 お互いのことを考えた姉妹の物語。僕の一言が彩衣と夏美あえの……そして和奏の運命を変えた。みんなにとってこの結末が良かったのかは分からない。でも、ぼくにとって最高の結末となった。



「じゃあ、いくわよ」


 彩衣と彩依、ふたり手を繋いで大銀杏に手をついて念じるように目を瞑る。


「「ありがとう」」


 ふたりの声と共に地面から竜巻のようにイチョウの葉が舞い上がり辺りを包む。長い長い刹那の時間。僕と和奏は後ろからふたりに抱き着いた。


 竜巻が天に昇って行く。風と共に消える彩衣と夏美(あえ)。

 風が抜けて見上げる先には満開に茂ったイチョウの葉、地面には絨毯のように広がっている。


「すごい……」


 何年ぶりだろうか、いつからだろうか……地元にありながら全く気付かなかった立派な大銀杏(おおいちょう)


「ふふふ、この大銀杏はねずっと茂り続けてみんなの目を楽しませていたの。わたしたちが見えていなかっただけ。不思議な能力とそれにかかわる者たちにね」

 僕たちの目の前には、大銀杏から生み出されたように2人がゆっくり歩いてきた。


「そうだったのか……いつからなんて気づかないね。日常の何かがいつの間にか消えても分からないものなんだね」

 僕を手を大きく広げて雨のような大銀杏の葉を体全体で浴びた。


「椎弥、それでも私たちの絆は消えないわ」

 大きく手を広げて僕の手を掴む和奏。


「ふふふ、これからどうなるかは分からない。椎弥や和奏がどう心変わりするかも分からない、椎弥の好きにしていいのよ」

 大きく手を広げて僕の手を掴む彩衣。 


「まったくお姉ちゃんはまだそんなことを言って! 素直になりなさいよ、皆が好きだって……離れたくないって」

 3人を包むように抱き着く夏美(あえ)。


「「「「 僕 (私)たちは大丈夫。この絆はこの大銀杏と共に永遠なんだから 」」」」




「でも、なんで能力の引き換えが記憶だったのだろう」


「それはね、イチョウの葉には記憶力アップ効果があるのよ。案外そうやって植物は成分を集めてるのかもしれないわね」




──END




==========

(あとがき)

 想いの彩(おもいのいろ)、最後までお読みいただきありがとうございました。

 最後の2つのセリフは入れるか迷ったのですが、いらなかったという人は見なかったことにして下さい。


 姉妹が能力を得たキッカケの物語と共に2つのIF-ENDを用意しています。1つはバッドEND、もう1つはちょっと悲しいEND (元々考えていた一人に絞ったEND)です。それぞれ1話ずつIFストーリーとして書いてあります。

 後日公開させていただきますので、よろしければ併せてお楽しみください。


 どれだけの方がここまで読んでくれたか分かりませんが、


 秋桜@揚羽様 https://novelup.plus/user/596363613/profile

 えねるど様 https://novelup.plus/user/734124401/profile

 秋真様 https://novelup.plus/user/400625370/profile

 yuki様 https://novelup.plus/user/315932602/profile

 

 この方たちが作品を執筆するにあたり、特に心の支えになってくれました。


 そして、魚住様には記事として評価していただくことができました。


 魚住真琴様 ”一万文字まで小説読ませてください”

  https://novelup.plus/story/438360836/597361603



 執筆する中で何もコメントをいただけていなかったら途中で心が折れ、最終話までこれなかったと思います。



 雑学ですが、イチョウの葉に含まれる記憶力に関わる成分は『ギンコライド』といいます。夢をかなえる副作用として植物に成分として差し出す。植物はそれを必要な人に提供する。

 忘れているだけで、あなたの奇跡もそうやって何かと引き換えに起きているのかもしれません。その対価として払った何かを、必要とする誰かに分け与えているのかもしれませんね。



 この小説を読んでくれた全ての方、この場を作ってくれた投稿サイト様に感謝いたします。


 2020年9月(執筆時点) 彩羽 心(いろは こころ)

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