第2話 美術部での出会い、幼馴染との再会
下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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美術室は職員室がある棟の3階。階段を上って一番奥の部屋。
男女ふたりが荷物を持って校内を歩く姿に少し憧れがあった。ドラマやアニメの1シーンを再現しているようで少し嬉しかった。
「椎弥くんはなんで美術部に入ろうと思ったの?」
本を抱えながらこちらを覗き込む。身体を動かすたびに長いポニーテールがなびく。
「ちょっとね、野球やってたんだけど退部して美術部に入ったんだ。そこで一人で黙々と絵を描いていたらなんかね……」
少し声が小さくなってしまう。裏切られた事、一人で絵を描いていた記憶が頭の中に蘇る。
「そうなんだ。なんかゴメンね。あんまり聞かれたくなかったことなんだね。わたしはね、絵を描くのが好きなんだ。昔ねぇ、気持ちが落ち込んだ時にテレビに映った絵を見て元気になったの。それからかなぁ。ああ、絵は人の心を元気にしてくれるんだぁってね」
笑顔になる茜、心の底から絵が好きな気持ちが伝わってくる。僕も昔を思い出した。野球に本気になって打ち込んでいた日々を……。
「椎弥くん、あったわ。あそこよ」
いくつかの教室を抜けた先に美術室と書かれた教室があった。
美術室の中は工作台が並び、後ろには美術机やイーゼルが所狭しと置かれている。窓の方を向いて一人の女性が絵を描いていた。お団子ヘアーの小さな女性。
「失礼します。涼島先生に頼まれて荷物を持ってきました」
女性は立ち上がりビックリした表情を浮かべる。
「あらぁ、ごめんね。先生が持ってくるものだと思ってたから……涼島先生は人使いが荒いから気を付けてね」
「いえ、美術室も覗きたかったので良かったです」
「そう。じゃあとりあえず荷物を運んじゃいましょうか。あっちの準備室に運んでもらっていいかな」
美術室から奥の部屋へと案内される。デッサン用の備品が箱ごとに整理されている。
「じゃあそこにおいてもらえるかな」
準備室のテーブルに荷物を置いた。テーブルから見える先、デッサン用の箱の中に30センチほどの裸体像がチラリと見えた。茜も気づいたのか顔を赤くしている。
「し、椎弥くん……行きましょう」
恥ずかしかったのかいそいそと準備室を出ていった。あとに続いて部屋を出る。
「えっと……ありがとうね、わたしは『
「よろしくお願いします。花咲椎弥です」
「わたしは中村茜、先輩よろしくお願いします」
小鳥遊の視線。優しい眼の中にさすような何かを感じた。
「花咲くん、あなた本当に絵が好きなの?」
にこやかな笑顔で小鳥遊が聞いてきた。
「え? どういうことですか……」
「私はね人の心がなんとなく分かるの。あなたの心には迷いが渦巻いているわ」
ドキリとした。僕のことを見透かされたようで心臓の鼓動が早くなる。無意識に右手が左胸を抑える。
「ふふふ、花咲くん冗談よ。茜ちゃん、あなたは本当に絵が好きそうね。絵を見ている時のあなたは素敵だわ」
一瞬怪訝な表情を見せる茜。それに
「じゃ、じゃあこれで今日は失礼します。行きましょう椎弥くん」
手を引かれ美術室を出る。
「小鳥遊先輩、それじゃあ失礼します」
「ふたりとも、体育館の2階で展示会やっているから良かったら見て行ってね」
お辞儀をして美術室を出て1階に向かう。
階段の踊り場で茜が声をあげた。
「ちょっと美術部が怖くなったわ。なんかあの先輩に心を見透かされそうで怖い。わたし、展示会と他の部活も見てからどこに入るか決めるわ。椎弥くんはどうする?」
「僕は今日の所は帰るよ」
「そう、じゃあまた明日学校でね。バイバーイ」
茜は階段を駆け下りる。長いポニーテールの髪が激しく揺られる。僅かに香る女の子の残り香を感じた。
思い立ったように階段を駆け降りて家路につく。学校から駅までは歩いて30分ほどだが、既にコミュニティーが形成されたグループがワイワイと駅に向かっている。
学校がある駅から最寄り駅まで15分程度。電車に乗り込み座席に座ると目をつぶって腕組みして今日の出来事を思い返していた。中村茜、小鳥遊先輩、そして涼島先生。それ以外の人とは交流を持てなかったが、楽しい気持ちはあった。
お尻に揺れを感じる。隣に誰かが座ったようだ……。あれ、座席はガラガラなのになぜ隣に。
「椎弥」
隣に座った人から声をかけられた。振り返ると見知った女性。
「和奏……」
中学校の元クラスメート。同級生と距離を置いていた僕を気にかけてくれた女性だった。
「ちょっと椎弥、なんでいきなり雲隠れするのよ。スマホは解約されてるしドコネはつながらないし!」
「ゴメン、ちょっと高校に入ってから心機一転しようと思って……全部変えちゃったんだ」
「気持ちは分かるわ。あんなことがあったんだもんね……。でも私のことまで無かったことにすることはないでしょ! ほら、スマホを貸しなさい」
奪うようにスマホを取り上げられた。僕の腕をつかみ指紋認証を解除してQRコードでドコネの連絡先を交換する。満足したのか放って返された。
「…………」
「でもまさかあんたが、
「ああ、普通にこなしてきたよ。今の所、悪そうなやつもいないしな」
「もう。あんなやつらばかりじゃないって。少しづつでも人を信用しなさい。いやなことがあったらいつでも私に連絡しなさいね」
「ああ、ありがとな」
「ほら、駅に着いたわよ」
腕を引っ張られ立ち上がる。両脇のおさげが揺れほのかに香る匂いに心が安堵する……「懐かしいな」
「じゃあ私はバスだからここでお別れね。いい! 何かあったら必ず連絡するのよ」
元気な和奏。改札を抜けると笑顔でバスに乗り込んでいった。僕はコンビニで夜食を買って自転車置き場に向かった。
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前作までの登場人物:
1B:
1B:
担任:
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