第8話『チイニイ孝史の怪しい仕事』
ポナの季節・8
『チイニイ孝史の怪しい仕事』
ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名)
寺沢家の次男孝史の前職は警察官であるが、表沙汰にはできない事情で退職。今は怪しい商社に勤めている。
そして、今も怪しくコーヒーショップで時間を潰している。
危ない取引先と会うはずだったが、ついさっき、公安につけられていることに気付き、あたかも営業が休憩のために入ったかのように、慣れた感じで、この店に入った。
相手か会社にメールを入れたかったが、公安のベテランともなると、指の動きだけで打ったメールの八割の内容は把握されてしまう。かといって、読まれないように打てば、余計に怪しまれる。その公安が、最後部の席で孝史を監視している。
万一の時のサインに読買新聞を広げて窓際に座っている。これは「監視されている」のサイン。相手もベテランなら気づくはずだ。
待つこと十分。店の外をプリウスが走った。
プリウスは、法定速度で店の前を通過すると、そのまま他の車の流れに混ざって消えていった。どうやら読買新聞に気づいてくれたようだ。工作員の常識で、待ち合わせ場所は、一度通り過ぎて様子を見る。危ないと思えば二度と戻ってこない。
直ぐに店を出たかったが、今出れば、自分だけではなくて、何気なく通ったプリウスまで疑われる。
日本の公安は優秀だ。だが、かなり確証の高い情報を掴んでも、めったに活かされることはない。情報を掴んだ政治家がボンクラなのだ。それを利用して大胆な行動に出ることもあったが、たびたびやっては、その後の仕事ができない。孝史は本気で競馬の予想に熱中した。
ふと気づくと、斜め前の席で聞き覚えのある声がした。
なんという偶然、妹の優奈と新子が明るく笑い声をあげている。
「あ、チイニイ!」
下の方の新子が気づいて声を掛けてきた。
「なんだ、珍しい。優奈、学校は休みか?」
「休講が重なったんで、帰ってきちゃった。へへ、三連休」
「家に居れば生活費かからないものな。お、なつかしい優奈の乃木坂時代の制服じゃないか。ブルセラにでも売るのか?」
「ちがうわよ、友だちのみなみが、サイズ違いの制服が来たんで、しばらく貸してたのよ」
「え、あの悪友のみなみか、もう高校生なんだな」
「ハハ、あたりまえじゃん。新子も高校生なんだから、みなみちゃんも高校生に決まってんじゃん」
「みなみはいっしょじゃないのか?」
「うん、バイトの面接に行ってる」
「へえ、乃木坂でバイトができるんだ」
「時代ね。あたしたちの頃は禁止だったけどね」
「しかし、偉いな。新子も見習えよ」
「あたし、まだ十五だから、バイトできないし」
「ハハ、ミソッカスだからな」
「チイニイこそ、ちゃんと働きなよ。せっかくエリート桜田門(警視庁の隠語)だったのに、チンケな商社にかわって、こんなとこで油売ってるんだもん」
「チンケじゃねえぞ、その証拠に、お前たちの勘定はもってやる!」
「やりー!」
姉妹は喜び、孝史は、ごく自然に公安の監視の目から逃れることができた。
※ ポナの家族構成と主な知り合い
父 寺沢達孝(59歳) 定年間近の高校教師
母 寺沢豊子(49歳) 父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男 寺沢達幸(30歳) 海上自衛隊 一等海尉
次男 寺沢孝史(28歳) 元警察官、今は胡散臭い商社員
長女 寺沢優奈(26歳) 横浜中央署の女性警官
次女 寺沢優里(19歳) 城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女 寺沢新子(15歳) 世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ 寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。
高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜 ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます