そんなはずはないのに

『俺、すきな人できたの。』


 隼人君の口からその言葉を聞いてから、三日が経った。その言葉を聞いた次の日も、そのまた次の日も............いつも通り普通に過ごすように意識した。

 いつも通り過ごそうと意識している時点で、もう普通通りではないことは誰にでも理解できるはずだったけれど...私はそれをしなかった。そう、逃げたんだ。


 別に隼人君がその【好きな人】と結ばれたところで、私は隼人君と話せる機会が無くなる訳でもない。夏期講習だってあと少しあるし、二学期になれば教室でも毎日会えるのに何故かあの言葉を聞いた時、胸がざわついた。

 胸がざわついた理由も、全部全部分かっているのに私はまた見て見ぬふりをする。


『隼人君のことが好き。』

 その一言が、喉につっかえて出てこない。

 もし、万が一、隼人君が別の人が好きで........なんて考え始めたら、急にイライラしてきた。


「あれ、恋ってこんなに苦いものだっけ......」

 私は昔から、少女漫画をたくさん読んでいたから、そのせいで錯覚を起こしていたのかもしれない。


「一か八か、かぁ.......」

 少女漫画でよく聞くセリフ......結局どう考えても、答えはそれしかないのかななんて。


「でもなぁ.......」

 自分でその結論を出したくせに、私はまた考ええる。


「きみの好きな人に好きな子が......って、私は悪魔か.....。」

 挙句の果てには、こんな事まで考えてしまって。


「あーあ、」

 考えていることが馬鹿らしく思えてきて、私は教室の机に突っ伏したままいつの間にか、寝てしまった。

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