26.作り話


 あれから鐘の音を聞きつけてやってきたラルフたちとともに、俺は誘拐された被害者たちを救出するために潜入した匿名希望の老人として駐屯地に出向き、依頼主のライアン一等兵に犯人たちを突き出すとともに、その悪巧みの内容を打ち明けてやった。


 さすがに正直に話してしまうと俺が変装した【魔王の右手】であることがバレてしまうため、誘拐された人たちを助けるために被害者に扮して潜入した結果、それがバレて犯行グループが彼らに危害を加えようとしたため、やむを得ず咄嗟に召喚術を使って全員気絶させたと、いかにもありそうな作り話をでっちあげておいた。


 当然俺は感謝状とともに報酬を受け取ったわけだが、ラルフたちには俺が誘拐されたやつらごと犯人グループを叩きのめした、まさに規格外の悪党としてさらに尊敬を集める形にもなった。


 被害者もある意味共犯者、という部分だけ隠したのも大きいのかもしれない。まあ頬傷の男たちに脅されたっていうのもあるだろうしそこは大目に見てやった格好だ。


「たっぷり暴れ回って、巻き添えを食らった格好とはいえさらわれた一般人まで叩きのめしたってのに報酬までちゃっかりいただくなんて、ディルの旦那はもうこれ以上ねえ狡賢い悪党っすねえ……」


「ディル様の外道畜生っ!」


「ディル様は悪魔の中の悪魔ですわ……」


「ディル様の血は真っ黒なのー」


「ククッ……」


 以前なら罵倒されてるようにしか聞こえないラルフたちの台詞も、今の俺の前では完全な誉め言葉になってしまった。


「ディル様、リゼを抱いてっ!」


「その前にわたくしを抱いてくださいまし、ディル様……」


「ディル様、あたしを一番に抱いてなのー!」


「最初にあっしを抱いてほしいっす!」


「ハッハッハ! むしろお前らのほうから抱かれに来いっ! 俺に面倒なことをさせるな!」


「「「「はひっ……!」」」」


 これで冒険者ランクもCからBまで上がったし、俺を追放した勇者マイザーに恥をかかせることもできた。今のところ順調そのものだから怖いくらいだ……。




 ◆◆◆




「ほ、本当なんだ、さらわれた人たちやあの【魔王の右手】が誘拐グループと繋がってて、マッチポンプで――」


「――はいはい、君ねえ、勇者として潜入しといて被害者救出に失敗したことが恥ずかしいのはわかるが、だからってそんなしょうもない作り話をしたらいかんよ」


「そ、そんな……! 作り話なんかじゃないって!」


「だったら夢でも見てたんだろう。君は犯人たちに襲い掛かったものの反撃に遭って気を失い、同じく潜入していた匿名希望の勇敢な老人によって助けられた格好なんだよ。恥ずかしくないのかね。さあ、帰った帰った!」


「ちょっ! 待ってくれ!」


 都の駐屯地にて、兵士たちに門外へとつまみ出された挙句、失笑を浴びせられて無念の表情を浮かべる勇者マイザー。


「ぐぐっ……」


「マ、マイザーったら、そんなことくらいで挫けないのっ」


「そうそう、ミーヤの言う通りだって。助けようとしたのは事実なんだし、また挽回すりゃ――」


「――うーむ、我の見解としては、最早挽回するのは不可能なレベルの大失態に見えるが……」


「エルグマンさん、なんてこと言うの!」


「エルグマンッ、お前ふざけんなよ!」


「ふむ……?」


 エルグマンの一言でさらに空気が淀んでいき、マイザーが小刻みに体を震わせる。


「だから……だからこの依頼を受けるのは嫌だったんだ。嫌な予感しかしなかった。それに、【魔王の右手】……あいつの妙な召喚術は、まさか……いや、そんなはずは……でも、顔は似ていたような……」


「マイザー、どうしたの? さっきからブツブツと……」


「お、おい、どうしちまったんだよ、マイザー」


 頭を抱えるマイザーに対し、心配そうに声をかける僧侶ミーヤと戦士バイドンだったが、彼の狂ったような独り言が止む気配は微塵もなかった。


「エルグマンさんも何か言ってあげて!」


「そうだよ、お前もメンバーだろうが!」


「ふむ……では一言だけ言わせてもらおう。マイザーとやら、勇者と聞いて少しは期待していたが、普通に外れだったからがっかりしている。大いに反省してほしい」


「うぐぐっ……」


「「ちょっ……!」」


 エルグマンの冷酷な発言により、勇者マイザーを取り巻く空気はひたすら悪くなっていくばかりであった……。

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