20.伝説
覚醒した仲間たちの頑張りもあって、俺たちは巨大地下牢迷宮の一階と二階を難なく突破し、三階までやってきた。
地下四階層からはガーゴイルっていう遠距離から弓で攻撃してくる厄介なモンスターが出てくる上、ここは低階層で一番雑魚モンスターの湧きがいいので冒険者も多いことから、例のプレイヤーキラーが出てくる可能性が最も高い場所だと思える。
実際、一階層、二階層よりずっと高頻度でほかの冒険者たちの姿を目撃してるしな。おそらく、やつらは普通の冒険者の振りをして、特に弱そうな冒険者がいないかどうか物色してるはずなんだ。
というわけで早速、俺たちはいかにも弱そうな初心者パーティーを演じることにした。
「み、みんな、恐れるなっ! 恐れてはダメだ!」
「わ、わっかりました、ディ、ディルの旦那ぁっ」
「ふぁ、ふぁい、ディル様っ、でもぉ、リゼ怖くてお漏らししちゃうぅ!」
「ディ、ディル様ぁ、わたくしも、気絶しそうです、わ……」
「ディル様ぁー、あたしだって足がガクガクで縺れそうなのー!」
みんなで腰を引かせ、周りをきょろきょろ見回しながら少しずつ通路を進んでいく。途中、ほかのパーティーがニヤニヤしながら通っていったし、『あいつらよくここまで来られたな』という小声も拾ったから上手くいってるはずだ。
「……」
わざとらしいくらいだが、命がかかってるダンジョンにいるんだしこれくらいでちょうどいいんだ。俺は通りがかるパーティーに笑われつつ、内心では手応えを掴んでいた。これを繰り返していけば、いずれ必ず犯人が網にかかるはずだ。
「「――おい、お前ら……」」
遂に来た。後ろから、覆面をつけた二人組がそれぞれ片手斧を手にやってきた。
「だ、誰だぁっ!? ご、強盗なら見逃してくれっ」
「こ、こええっす……」
「嫌ぁ、リゼ犯されちゃうよぉ……」
「み、見逃してくださいまし……」
「助けてなのぉー……」
「ひひっ。大人しくしろ」
「武器を捨てれば何もしねえ」
「わ、わかった。お前ら、武器を捨てるんだっ……!」
「「「「は、はひっ」」」」
味方に武器を放り投げさせると、やつらは安心しきったのか俺たちのほうにずかずかと歩み寄ってきて武器を拾い始めた。隙だらけだし、もう完全に俺の召喚術の射程内だ。
「――っておーい、お前」
「そこの弱そうな顎髭」
「ん?」
「ん、じゃねえよタコ、お前の握ってる杖も寄越せってんだ」
「そうだそうだ、頭足りてねえのか? それともチキン並みか?」
「「ギャハハッ!」」
「いや、知能が足りてないのはむしろお前らのほうじゃないのか? ドクロ並みだな」
「「……はあ?」」
「悪いがこの杖は渡せない。召喚術で使うものなんでなあ。【魔王の右手】を知らないとは愚かなやつらだ……」
「「ぬぁっ!?」」
俺が杖を振り上げながら通称をバラしたところ、悪党の間じゃかなり広まってるのかやつらは一様に殴られたような反応を見せ、逃げ出そうとしたがもう遅い。
『――ブジュルッ……』
まもなく二人組の退路を塞ぐようになんとも禍々しいモンスターが現れる。反り立つ壁のようなモンスターで、やつらを見下ろす充血した巨大な眼球と、鋭い牙が糸を引く大口がチャームポイントだ。
「「ひいぃっ……!」」
【魔王の右手】と恐ろしい姿の化け物に挟まれて戦意を喪失したらしく、二人組は震えながら抱き合いつつその場にしゃがみ込んだ。
「フッ……」
もちろん予想はしてなかったがいいモンスターが出てくれた。俺はこの瞬間を待ってましたとばかり壁の化け物に歩み寄ると、杖でコツンと叩いてやった。
『ウギャアアアアァァァッ!』
断末魔の悲鳴を残し、モンスターが崩れ落ちるとみんな呆然自失とした様子になった。実はこの化け物、見た目が恐ろしくて強そうに見えるが特徴はそれだけで途轍もなく弱いのだ。
勇者パーティーの一員として俺は色んなところに行ったが、このモンスターはたった一度しか出てこなかった。それくらい激レアなモンスターでみんな知らないのも当然だろう。その名もフェイクメイカー。最弱の化け物だが、心臓の弱いやつはこれを見てショック死することもあるんだとか。
「あー、間違って倒しちまった。このモンスターでこいつら殺そうと思ってたのに、俺が強すぎたのが悪いな……」
俺が顎鬚を掻きながらがっかりした様子を見せると、二人組は気絶しラルフたちが命乞いをするかのようにひれ伏していた。最早俺の前では敵も味方もないってことだろう。それくらい次元が違う存在だと思われてるってことだ。
いやー、また一つ伝説を作っちゃったな……。
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