18.吹き溜まり


 ダンジョンの浅い階層でプレイヤーキラーをしているという小者二人組に仕置きするべく、早速俺たちは巨大地下迷宮に向かっているわけだが……周りからの視線が痛かった。


 この迷宮界隈には元罪人たちの吹き溜まりができてるらしく、幾つかのバラック小屋周辺でたむろしているモヒカン頭やタトゥーが特徴のヤバそうな連中が目に入った。余程居心地がいいんだろうなあ。


 ただ、いくらならず者とはいえさすがに冒険者相手には絡んでこないだろう。ああいう連中は99%、モンスターとは戦わずに弱者に対する犯罪に逃げた連中だっていうし、実力的には桁違いなわけだからな。そう思って歩き始めたときだ。


「「「ぐへへ……」」」


 なんとも嫌らしい目つきをした野郎どもが俺たちの前に立ち塞がってきた。おいおい……よりによって大悪党としての道を歩き始めた大物を前にして、こいつらどんだけアホなんだ……?


「消えろ。ぶっ飛ばされんうちにな……」


 大物の悪党っぽく、不敵な笑みを浮かべながら言ってのける。


「そうっすよ! この方を誰と心得るっすか!」


「ディル様はね、大悪党なんだよ?」


「そうですわ。ディル様はあなた方など、指先一つで終わらせますのよ」


「ディル様に逆らったら終わりなのー」


 気持ちいいくらいラルフたちの援護が入る。まあこれでならず者たちも引き下がるだろう……と思ったら、顔を見合わせて何かブツブツ言い合ってる。なんとも奇妙な連中だ。まさか、俺の弟子になろうっていうのか?


「弟子になりたいっていうなら、募集してないからどっちにせよ消えろ。じゃあな――」


「「「――げへへっ……」」」


「……」


 な、なんだこいつら。スルーして歩き始めたら、またしてもドヤ顔で立ち塞がってきた。弟子になりたいって態度じゃないし、よっぽど死にたいようだな。


 しかし、こういう連中ってどうしてこうも命知らずなのか……と疑問に思うも、すぐに自己解決した。そうか。この辺だと俺についてはまだ知られてないだろうし、見た目的には警戒されるのは強面のラルフくらいで残りはやせっぽちの俺と女の子3人のパーティーだし、そりゃ舐められるか。


 ここは召喚術であっさり蹴散らしてやろうか? ただ、冷却時間が生じることを考えると今は使いたくないんだよなあ。ガチャ系なので何が飛び出すかはわからないわけで、召喚されるモノの程度によっては半日ほど次の召喚まで待たなきゃいけないケースも出てくる。


「俺たちと遊ぼうじぇえええ」


「きっと満足するからよー」


「ダンジョンなんかよりはなあ!」


「「「ぶははっ!」」」


「……」


 舐めやがって……。ここまで挑発されてしまった以上、大悪党としては無視するわけにもいかなくなった。仕方ない、召喚術を使うしかないか。ラルフたちは俺のただならぬ怒りを察したのか、一様に青い顔で目を瞑り、少し離れている。


 ……って、待てよ? そうだ、があった。


「おい、お前らちょっと来い」


「「「へ……?」」」


 俺はモヒカン三人組を連れて物陰に移動する。もうこの台詞でラルフたちは色々察してしばらく立ち止まるだろう。どれだけ残虐に殺すつもりなのかと戦々恐々なはずだし、その間に俺の話術でなんとかしてみせる。


「なあ、お前ら、なんであいつらが青い顔をしてると思う? それはな、俺の召喚術がそれだけ恐ろしいからだ」


 俺はあくどい笑みを浮かべてみせるが、やつらは訝し気に眉をひそめるだけだった。おいおい、脳みそついてんのかこいつら。


「はあぁ? よっぽどこえぇのか出鱈目こいてるじぇえぇ、こいつううぅ」


「んだんだあ、いくらビビってるからってみっともないぞー?」


「とっととあの女の子たちを寄越せ! ぶっ飛ばすぞ!」


「……」


 人外に話術は通用しないってことかよ。いや、待て。まだあきらめるな。こそが俺がいかにヤバい悪党かっていう証拠じゃないか。


「なあ、本当にわからないのか? 本当にお前たちの言うように俺がビビりだっていうなら、なんでこんなに堂々としてられるんだよ? おかしいだろ」


「「「……」」」


 お、やつらがヒソヒソと神妙な顔で何やら呟き合ってる。さすがに少ない脳みそでも理解できたのかな? とか思ってたら、一様にニヤリと笑いやがった。


「内心ビビってるじぇ、こいつうぅ」


「間違いねえなあ」


「とりあえずこいつをボコっちまおうぜ!」


「「「おおっ!」」」


「……」


 モヒカン頭どもに囲まれる。やはりに人間の言葉は通じないか。仕方ない――


「――う、うおぉっ! そこにおられるのはディル様ではありませんか!」


「あ……」


 誰か走ってきたと思ったら、俺の家に弟子にしてくれと押しかけて来たやつらの一人、眼帯の男だった。中でも山賊のような迫力のある顔立ちだったからよく覚えている。


「「「た、大将……」」」


 ん、なんか様子がおかしいぞ。眼帯の男の登場で、モヒカン野郎たちがいずれも怯んだ様子になった。


「おい、お前らあぁっ! このお方をどなたと心得る! あの【魔王の右手】として知られるディル様だぞ!」


「「「げえぇーっ!?」」」


「……」


 なんだよ、いつの間にやら物騒すぎるあだ名がついちゃってたんだな。まあ役に立ったからいいけど……。

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