9.祝杯


「「「「「乾杯っ!」」」」」


 いやー、酒が本当に旨い。Fランクには見合わない破格の報酬を手にした俺たちは、その足で冒険者ギルドへ向かい、祝杯をあげていた。


「これもディルの旦那のおかげっす!」


「ほんとぉ。ディル様大好きっ」


「わたくしもですわ……」


「ちょっとー! 私が一番好きだもんー」


「あっしっすよ!」


「「「「むー!」」」」


「は、はは……」


 ラルフを含めて俺の争奪戦が始まってしまった。ほろ酔いなのも手伝ってか気分は悪くない。


「まあ俺自身、お前たちに助けてもらったところもある。ありがとう――」


「「「「――えっ……」」」」


「あ……」


 ま、まずい。ついつい流れでお礼を言ってしまった。これじゃただのいいやつじゃないか。しかもありがとうと完全に言いきってしまってるという事実。もう蟻がどうのでごまかすこともできない。一体どうすれば……って、そうだ、今の状況を利用してやればいい。


「ひっく……俺が礼を言うなんてな。早くも酔っ払っちまったみたいだ……」


「あー、それが原因だったっすか。ディルの旦那は酔うと優しくなるタイプなんっすね」


「ディル様は大悪人なのにぃ、お礼を言うなんてやさしー」


「ふふっ。意外性がありますわねえ」


「でも、酔うと暴れるより全然いいよー」


 よし、上手くごまかせたみたいだな。しかもおおむね好評な様子。


「うぇっぷ……失敬。正直、ディルの旦那はただの悪党じゃねえっていうか……」


「な、なんだ、ラルフ?」


 まさか、俺が悪人を演じてるとラルフにバレてしまったのか……?


「もっとこう大きな悪みたいな感じっすね。なんというか、みてえな……」


「リゼもそれ思った!」


「確かに、どっしりしてますしねえ」


「なんだか憧れちゃう!」


「よさないか、ははは……」


 俺は余裕の笑みを浮かべつつも、冷や汗をかきつつバレなくてよかったと安堵していた。魔王、か。ちと大袈裟な気もするが、それくらいスケールがでかくなれば俺の脱力系召喚術もしばらくは舐められずに済みそうだな……。




 ◆◆◆




『ウオオオオオォォッ……!』


「「「はぁ、はぁ……」」」


 疲れ果てた表情の勇者マイザー、僧侶ミーヤ、戦士バイドン。


 それもそのはずで、都近くの洞窟奥でAランクモンスター、ダイヤモンドゴーレムを倒したわけだが、最後の決め手がなく延々と交戦することになり、ようやく倒した頃には疲れ果ててしまっていたのだ。


「んー、ちょっと火力が足りないんじゃないかい……? ミーヤ、僕にバフがかかったのはわかったけど、バイドンにかけるの忘れてない?」


「あ、あたしはちゃんと支援したわよ! スピードとパワー、両方!」


「お、おいマイザーもミーヤもなんで俺のほうを見るんだよ! 物理に強いモンスターだししょうがねえだろ!」


「た、確かにそうか」


「そうだけど、ディルがいたらすぐ終わってそう――あ……」


「「「……」」」


 ミーヤの発言で場が静まり返る。


「ご、ごめん、ついあいつなんかの名前出しちゃって……」


「ま、まあミーヤはあいつの幼馴染だからね。ふとした弾みで名前が出ちゃうのは仕方ないよ」


「そうそう、気にすんな! 召喚術師が必要なのはわかったけどよ、ディルは必要ねえ! あいつの召喚術は結果的に上手くいってるだけで、脱力系だから気も抜けるし士気にかかわる!」


 バイドンの発言で全員が力強くうなずいた。


「そうと決まったら、ギルドに戻って召喚術師を募集しようか」


「うんうん。なるべく火力が強くて派手で、イケメン様がいいかなーなんてっ」


「ミーヤ、召喚術師はともかくも、イケメン枠は俺じゃダメかよ!?」


「うーん……ごめん、パスでっ」


「ちょっ……! ミーヤって自意識過剰すぎね? お前、自分が美人だとでも?」


 バイドンが顔を真っ赤にしてミーヤに詰め寄る。


「はあ!? あたしが美人かどうかの話じゃないでしょ! 喧嘩売ってんの!?」


「まあまあ、バイドン、ミーヤ、仲違いはここまで。ディルがいないだけでも精神的に大分違ったし、これで召喚術師さえ味方につければ何もかも上手くいくって」


「ま、それもそうか」


「そうね。さ、帰りましょう」


 勇者マイザーの提案により、戦士バイドンと僧侶ミーヤが納得顔でうなずき、パーティーは一旦帰路につくのだった。

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