こうかん
太陽の日差しが、照りつける。
サユリの意識が戻る。
<頭が痛い、体もだるい、寝過ぎちゃったかな……>
ふと、体の感覚の異変に気づき目を開ける。
<えええ? うそ、まさか……>
女性用の競泳水着に身を包んだ、自分の体が目に入る。
華奢な体、小麦色の肌、胸にはふくらみがあり、ウエストは細く、大きなヒップをしていた。
股間に異物はなく、水着がぴったりと張り付いていた。
さっき見たサユリの水着と体だ。
<まさか、本当に入れ替わったのか……>
サユリは起き上がり周囲を見回す。
キョウヤの姿はなかった。
仕方なく立ち上がり、日陰のベンチに腰をおろす。
一挙手一投足が、自分が女性であることを思い知らせる様に、体つきを意識させた。上半身まで包み込む水着の感覚も新鮮だった。
声を出してみる。
「あー、あー、あー」
女の子の声が喉から出た。
<サワフジは、どこへいったのだろう?>
サユリは、もう一度辺りを見回す。
急に尿意を感じた。
<まじかよ……勘弁してくれよ>
サユリは仕方なく、立ち上がり、トイレへ向かう。
危うく男子トイレに入りそうになったが、どうにか女子トイレに到着した。
恐る恐る中に入る。ピンク色の部屋、全部個室。
そして、入り口近くに設置されていた鏡に映る自分の姿に目を奪われた。
そこには、水着姿のサユリが写っていた。
健康的な美しさで溢れる、隣の席のクラスメートだ。
サユリは、尿意を思い出し、個室に入った。
和式トイレだった。
<これ、全部脱ぐしかないのか……>
限界が近かったので、急いで水着を脱ぎ始める。
小麦色の肌と対照的な、真っ白な肌があらわになる。
<脱ぎづらい、もれちゃうよ、早くしないと>
どうにか水着をぬいで、扉のフックに引っ掛ける。
当然の様に、サユリの股間には何もない。
仕方なく、便器に跨がり、しゃがむサユリ。
日焼けしていない胸が妙に
やがて、尿が股間から流れだした。
男性の時とはまるで違うダイレクト感。
体勢が悪かったのか、お尻にまで尿が伝わってしまう。
<あー、もう、最悪、なにこれ>
うまく制御できず、途中で止められず、我慢するしかなかった。
ようやく落ち着くと、サユリはトイレットペーパーで股下を拭う。
隆起した胸の存在感が気になり、終始落ち着かなかった。
水着を着ようとしたが、ヒップが大きいせいかなかなか入らない。
なんとか下半身を収めると、上半身に取り掛かる。
乳首が何かに触れる度に、甘い感覚を覚えた。
どうにか、上半身も収められた。
トイレを流し、個室をでて手を洗い、鏡の前で姿を確認する。
日焼けのない部分に水着がくる様に調整し、何もはみ出ていないか確認する。
サユリがトイレから出ると、入り口の前でキョウヤが嬉しそうな顔をして待っていた。
サユリがキョウヤに駆け寄る。
「サワフジ、ちょっと、これどう言うこと? 本当に入れ替わってるじゃないか」
「サワフジは君だろ。約束したじゃん。もう戻せないから諦めてね。
よかったね、憧れのサワフジ=サユリになれてさ。
ボクも嬉しいよ。憧れのヒラタ=キョウヤになれたからね。
お互いの人生を楽しもうね」
「……」
サユリは絶句した。
「外でこれからお茶しよう。情報交換しないとだから。
ロッカーにメモを入れておいたから、身支度とかわからない時はそれ参考にして。スマホのパスワードも書いておいた。困ったことがあったらボクのスマホに連絡して。番号わかるでしょ?
そうだ、ボクのスマホのパスワード教えてよ」
「え?」
「え、じゃないよ。
ボクのなんだから知らないと困るんだよ」
「そうだけど……」
「君はもうサワフジなんだから。
ほら、パスワードおしえてよ」
サユリは、パスワードを教えた。
「ありがと、その他諸々は場所を移して情報交換しよう。
外で待ってるね。
早く準備しておいで、女子は時間がかかるからさ。
男子っていろいろ楽でいいね。早速気に入っちゃった」
キョウヤはそう言うと、男性用ロッカーに向かった。
サユリは仕方なく、女性用ロッカーへ向かった。
サユリは自分のロッカーを探し当てると、ロッカーを開いて、メモを探す。
自分のものとはいえ、女の子の衣類が収められたロッカーを物色するのは妙な背徳感があった。しかも周囲は裸の女性だらけだ。
ようやくメモ見つけ、確認する。
びっしりと事細かに書かれていた。
かなりの時間をかけて準備していたのだろう。
女子としての作法やパスワードだけではなく、女子の交友関係や、名前の呼び方、ちょっとしたルールなど多岐にわたっていた。
サユリは、メモにしたがって、身支度を始めた。
サユリの下着や私服は、スポーツ女子のイメージとは違い、やけにフェミニンなものばかりだった。ヒールの高いサンダルはとても歩き辛そうだった。
……
サユリがプールのロビーにつくと、キョウヤが待っていた。
サユリが言う。
「おまたせ。慣れないことばかりで時間かかっちゃった」
「ああ、いいよ。気にしないで。女の子はしかたないよね。
それじゃいこっか」
キョウヤは歩みを進める。
サユリが言う。
「あ、ちょっと待って。
ヒールの高いサンダルに慣れてないからうまく歩けなくて」
「あーごめんごめん。ついうっかり。
じゃ、はい」
キョウヤは、サユリの手を取る。
大きくて凛々しいキョウヤの手の感触に驚く。
「どーしたの? サワフジ。
恥ずかしがらなくていいよ。
慣れるまで握ってあげるから」
「……え? うん、ありがとう」
二人はゆっくりと歩き始める。
キョウヤが言う。
「あのさ、サワフジ。ボクのことは『ヒラタ』て呼んで欲しいんだけど」
「え?」
「いいから呼んでみて」
「……ヒラタ」
「いいねぇ。
そういえば、シノブのことは心配しなくていいからね。
シノブだけはボクらの事情しってるからさ。
困ったことあったらシノブに頼るといいよ」
「ウエダはしってたの? 僕たちこと」
「ウエダじゃなくてシノブ、僕じゃなくて私。いい?
じゃ、もう一回」
「……シノブはしってたの? ……私たちこと」
「いい感じじゃん。早く慣れなよ。困るのは自分だからね」
キョウヤはそう言うとスマホアプリでだれかに連絡を入れた。
……
近所のファミレスにつくと、ドリンクバーを注文してから、お互いの情報交換をした。
キョウヤが言う。
「やっぱり、今のサワフジには可愛い系のファッションが似合ってるね。
思い切ってイメチェンしてよかったよ」
サユリが返す。
「それどういうこと? やけに女の子っぽいなとおもったけど、今まではこう言うの着てなかったってこと?」
「うん。中性的なのしかなかったよ。スカートなんて制服以外では履かなかったし。
でも、先週全部処分して親におねがして全部フェミニンなのを買い揃えてもらったばかりだから、しばらくは何も買ってもらえないよ。
部屋の内装とか部屋着とか小物類もそんな感じ。
あと、髪を伸ばす宣言したから、そのつもりでね。
日焼けも止めて美白宣言しといたから、スキンケアも頑張ってね」
「なんてことを……」
「いいじゃんべつに、もう女子なんだからさ。目一杯、女子を楽しみなよ。
ママが、ノリノリで準備してくれたからもう後戻りできないからね。
そうだ、これから毎朝、一緒に朝練しない?」
「朝練?」
「プレイスタイルが違いすぎるから、早めに補わないと。
ボクは大丈夫だけど、サワフジは背が低いから致命的だろ?
下手したらレギュラー外されちゃうかも?」
「女子のシュートか、一から練習し直しだな……」
「夏季休暇が終わるまで日にちがあるから、それまでにマスターすれば十分だよ。
あと、女子の身支度にも慣れなきゃだしね。
いつもよりかなり早く起きないと間に合わないよ」
「……わかった」
「朝は、シノブが迎えにきてくれるから一緒にきて」
「え? ウエダじゃなかった、シノブも一緒なの?」
「二人きりがよかった?」
「そう言う意味じゃないけど、あまり面識なから緊張するなって……」
「何言ってるの、いまやシノブの彼女なんだよ?
それに、人間関係が大きく変わるから早く慣れるようにしなよ」
「彼女って……。てか、そっちは大丈夫なの?」
「ボク? うん、問題ない。基本、ボッチだし。
でも、今はサワフジとシノブがいるからぼっちじゃないか」
「……。シノブとどう接したらいいかよくわからないのだけど」
「大丈夫、リードしてくれるからそれに従うだけでいいよ。
シノブのことは彼氏だと思えばいいんじゃない?」
「彼氏? そういう関係だったの?」
「どちらかと言えば逆だね。
でも、いまのサワフジじゃ、シノブの彼氏にはなれないと思う。
女子のことまるでわかってないしね。
シノブにいろいろと教えてもらいなよ女子のこと。
でもよかったね、シノブと恋仲なれるは、憧れの女子になれるはでさ」
「女子になりたかったわけじゃないよ」
「大丈夫、そのうちわかるって。
サワフジは女子向きだから。
ボクが保証する」
突然、キョウヤが入り口に向かって手を振った。
サユリが、入り口を見ると、そこにはシノブがいた。
シノブはキョウヤの隣に座ると、キョウヤとハグしあった。
シノブが言う。
「よかったねー、キョウヤ君。
ついに男の子になれたんだね」
キョウヤが返す。
「ありがと。シノブが支えてくれたおかげだよ。
ようやく自由に生きられる」
シノブがサユリに向かって言う。
「本当にありがとね、サユリ。キョウヤ君と入れ替わってくれて。
女子としての生活のことは私に任せてね。全力でサポートするから」
サユリの目の前で、キョウヤとシノブが仲睦まじそうにしていた。
スマホでツーショットの写真も撮っていた。
不思議な光景だった。
デジャブのような感覚を覚えた。
昔、サユリとシノブが仲良さげに話をしているの眺めていた時の感覚だ。
昔は女友達に見えたけど今はどこからどうみても、普通のカップルだ。
サユリが入り込む隙は、1ピコメートルすらなかった。
キョウヤが言う。
「サワフジが妬いてる。ボクはいいから、サワフジの方に行ってあげなよ」
シノブはサユリの隣に移動して、サユリをハグした。
「ごめんね、これからよろしくね。サユリ」
しばらく3人で話をした後、キョウヤが言う。
「じゃぁ、ボクは帰るね。シノブ、サワフジのことは任せたね。
また明日、ばいばいサワフジ」
そういって、店を後にした。
シノブが言う。
「キョウヤ君はすっかり男の子だね。
サユリも見習いなよ」
「……うん」
「そうだ、スマホ開いて。いろいろ教えてあげる」
シノブは、スマホの通信アプリのグループの交友関係などを細かく説明し始めた。
サユリのスマホはピンクでいかにも女子っぽい感じの新品だった。
壁紙やテーマも完全に女子仕様だ。
きっとイメチェンの一貫なのだろう。
スマホの通信アプリのとあるグループでは、サユリのイメチェンが話題になっていた。好きな男ができたとか失恋したとか口々に勝手な噂が流れていた。
シノブは、サユリのスマホを奪い取り、サユリの写真を写して、
<シノブに先越された。私もイメチェンして頑張ることにした>
とメッセージを写真付きで送信した。
「ちょ。何するの?」
グループチャットは、一気に盛り上がり始めた。
「シノブに何があったの?」とか、「サユリいけてる、マジ可愛くなってる」とか「ようやくサユリも女子になったか」とかそんな感じだ。
「みてて」
そう言うと、シノブは、自分のスマホを操作して、シノブとキョウヤのツーショット写真をグループチャットに流す。
<実は、サユリの紹介で付き合うことになった>
とメッセージを流した。
グループチャットは一気にお祝いのログが流れる。
サユリが尋ねる
「これ、どういうこと?」
シノブは答える。
「カモフラージュ。
これで3人が一緒にいても不自然じゃないでしょ?
あと、あたしに彼氏がいるってことにすれば、もう告られることもないし。
キョウヤ君だって、彼を狙ってる女子を牽制できるからね」
シノブがサユリに身を寄せて手を絡めてくる。
サユリはドキドキした。
「近すぎない?」
「女の子同士だから普通だよ。可愛いねサユリは」
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