第33話 お兄様からの謝罪

 私とレティは、お兄様に呼び出されていた。

 今日も、私達に何か用があるようだ。今日あった変わったことは、私達が家庭科同好会に入ったことだとくらいである。そのため、その関係かもしれない。

 そんなことを考えながら、私達はお兄様の元まで来ていた。私は、ゆっくりと口を開き、お兄様に話しかける。


「お兄様、本日はどのようなご用件でしょう?」

「ああ、お前達が部活に入ったと聞いてな……」


 私の質問に、お兄様はそう答えてくれた。

 やはり、部活関連の話だったらしい。

 お兄様は、一体何を気にしているのだろう。私は、少し身構える。


「情報が早いですね? 一体、誰から聞いたんですか?」

「お前達の担任からだ」

「ああ、あの後、すぐにお兄様に伝えたんですね……」


 私が身構えていると、レティがお兄様に質問をしていた。

 どうやら、お兄様は私達の担任の先生から、このことを知ったらしい。

 私達は、トルカと話してから、すぐに入部届を出しに行った。それは、担任の先生と顧問の先生に、渡す必要があるものだ。

 そのため、お兄様にも担任の先生経由で、伝えられたのだろう。ちなみに、顧問の先生は、丁度私達の担任の先生だった。


「それで、私達が部活に入ったことに、何か問題でもあったのでしょうか?」

「問題はない。そもそも、部活に入ることはお前達の自由だ。俺が、それを制限するつもりはない」


 私の質問に、お兄様はそう答えてくれる。

 今日は、別に怒っている訳ではないようだ。その言葉に、私は少し安心する。


「本当ですか? お兄様のことだから、男子生徒と距離が近い部活とかだと、反対しそうですけど……」

「何か言ったか?」

「いえ、何も言っていません」


 レティが、少しだけ変なことを言ってしまったため、お兄様の表情が変わった。

 しかし、レティの変わり身の早さがすごかったためか、特に問題にはならなかったようだ。


「まあいい。とにかく、お前達はいい部活に入ったといえる」

「いい部活ですか?」

「ああ、家庭科同好会には、俺も注目していた」


 どうやら、家庭科同好会は、お兄様も注目するような部活だったらしい。

 それは、すごいことである。そのような部活に入れるのは、とても光栄だ。

 しかし、お兄様は、家庭科同好会の何に注目しているのだろう。そこは、少しわからない部分だ。


「その理由を話す前に、お前に一つ謝っておかなければならないことがある」

「え? 謝っておかなければならなないことですか?」

「ああ、我が学園に、お前の友であるトルカが通っていることを、言っていなかった。すまなかったな、ルリア」

「あっ……」


 お兄様の言葉に、私は思い出す。

 そういえば、トルカが学園に通っていることを、お兄様は秘密にしていたのだ。

 それは、トルカに注意する程のことだった。その意図は、一体なんなのだろう。


「一体、どうして秘密にしていたのですか?」

「俺は、元々お前を我が学園にいれないつもりだった。故に、お前の友人を通わせているという情報は、お前に知らせるべきではないと判断したのだ」

「そうだったのですね……」


 お兄様の言葉で、私は理解する。

 そもそも、お兄様は私をフォルシアス学園に通わせないつもりだったのだ。

 だから、私にトルカのことを言わなかった。私が色々と考えないように、情報を遮断したのだ。


「少々、お前に意地の悪いことをしてしまった。本当に、すまなかったな」

「い、いえ……」


 お兄様は、珍しくかなり謝罪してきていた。

 どうやら、かなり悪いと思っているようだ。

 確かに、少々意地の悪いことかもしれない。だが、私は最早怒っている訳ではなかった。


「大丈夫です。結果的に、私は学園に入れて、再会できたのですから、それでいいのです」「……そうか」


 私の言葉に、お兄様は一言そう言った。

 恐らく、私の気持ちは届いているだろう。


「あの、一ついいですか……?」

「レティ?」

「なんだ?」


 そこで、レティが遠慮がちに手をあげた。

 何か、言いたいことがあるらしい。一体、どうしたのだろう。


「お兄様は、お姉様が学園に入らないから、情報を隠していたんですよね?」

「ああ、そうだ」

「それなら、入学した後に言えばよかったんじゃないですか? それで、別に困らないと思うんですけど……」


 レティの言葉で、私も気づいた。

 そういえば、お兄様は、私が入学したにも関わらず、トルカのことを話してくれなかった。それは、確かに違和感があることだ。

 お兄様は、一体どうして隠していたのだろう。


「それについては、単に言い出すタイミングがなかっただけだ。それに、その場合にはトルカにも話を通さなければならない。それを終えていなかった故、お前達に報告が遅れた。これも、俺の落ち度だ」

「な、なるほど……」


 どうやら、お兄様はトルカに話を通す時間がなかったため、私達にも言い出せなかったようだ。

 日頃から忙しいお兄様だからこそ、起こった弊害である。


 こうして、私はお兄様から謝罪されたのだった。

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