第28話(リクルド視点)

 ※この話は、第28話のリクルドの視点です。



 俺の名前は、リクルド・フォリシス。

 誇り高きフォリシス家の長男にして、フォルシアス学園の学園長だ。


 俺は、妹達とともに買い物に来ていた。

 本屋では、妹達に流行りの本や参考書などを勧めてやった。

 今は、もう一つの目的地である服屋に来ている。


「お前達、資金面は気にするな。好きなだけ服を選ぶがいい」

「は、はい……」

「わーい」


 俺は、二人に対して、そう声をかけた。

 すると、対照的な反応が返ってきた。


 ルリアは、少し萎縮しているようだ。

 やはり、資金面について、色々と気にしているらしい。

 賢き妹は、その性格上、豪遊をすると言う発想は全くないのである。

 それは、美点であるといえるだろう。是非、俺達も見習いたいものだ。


「さて、ざっと百着くらい買っていきましょうかね」

「ひゃ……!?」


 それに対して、もう一人の妹はそんなことを言っている。

 この愚かなる妹は、基本的に何も考えていない。

 百着も買って、どうするつもりであるというのか。その辺りを、まったく考慮していないのだ。

 これは、この妹の欠点だろう。少し、注意した方がいいかもしれない。


「レティ、そんなにいっぱい買うの……?」

「え? いっぱいですかね?」

「いっぱいだとは思っていないようだね……」


 ルリアの質問にも、レティはそう返す。

 これには、流石のルリアも驚いているようだ。

 やはり、ここは少し口を挟むとしよう。


「ルリア、そこまで気にする必要はない。そちらの愚かなる妹は、少々金の使い方が狂っているだけだ」

「く、狂っている? 資金面を気にするなと言ったのは、お兄様ではないですか?」

「気にするなとは言ったが、お前はいくらなんでも買いすぎだ。まだ家にも服はあるというのに、そんなに買ってどうするつもりだ?」

「でも、選ぶのが面倒くさいじゃないですか」

「お前は、そんなところまで怠惰なのか……」


 この妹の発言には、長らく困らされてきたが、ここまで怠惰なのは、流石に驚きだ。

 面倒くさいからといって、服を選ばない者などいるか。最早、怒りを通り過ぎて、呆れることしかできない。


「わ、わかりましたよ。数は、ちゃんと搾りますから……」

「ああ、その半分くらいに抑えておけ」

「はい……」

「え?」


 この俺の発言に、レティは頷いた。

 そして、服を選んでいく。

 だが、何故かルリアは動かない。一体、何を迷っているのだろうか。


「ルリア、お前も早く服を選んだらどうだ?」

「え、あ……」


 俺の言葉に、ルリアは少し困惑する。

 何かを考えていたのかもしれない。少し、邪魔をしてしまったか。


「その……お兄様は、どれが似合うと思いますか?」

「何……?」


 そこで、ルリアは驚くべきことを言ってきた。

 この俺に服を選んで欲しいとは、意外なことである。

 だが、それもいいだろう。他人からの客観的目線も時には必要である。

 ルリアがそれを必要としているなら、この俺の力を貸すのもやぶさかではない。


「す、すみません。私、変なことを言ってしまいましたね……」

「いや、問題ない。まさか、お前がそんなことを言ってくるとは思っておらず、驚いただけだ」


 俺が考えている内に、ルリアが勘違いをしたようだ。

 これは、少し申し訳ないことをしてしまったか。


「そ、そうでしたか。でも、お兄様に服を選んでもらうなど……」

「構わない。この俺が、お前に似合う服を見つけ出してやろう」

「え!? 本当ですか!?」


 俺の言葉に、ルリアはとても喜んだ。

 だが、少しだけ驚いているようにも見える。

 この俺が、服を選ぶことが、そんなに意外であるということか。


「そんなに驚く必要はない。この俺は、妹の頼みを断る程、心が狭い訳ではない。この俺が、お前に相応しい至高の服を選んでやる。少しだけ、待っていろ」

「は、はい。ありがとうございます、お兄様」


 それだけ言って、俺は周りの服に目を通す。

 我が美しき妹の着る服だ。完璧なものを選ばなければならないだろう。


 まず、金額が低いものを除外する。

 それが低いということは、何かしらの面で品質を落としているということだ。そんなものをルリアに渡すなど許されない。


 次に、露出度の高い服を除外する。

 フォリシス家の人間が、無闇に肌を晒すのは好ましくない。故に、スカートの丈が短いものや、肩を出すようなものを選択肢から外す。


 後は、ルリアに似合うものを考える。

 色は、何色がいいだろうか。

 フォリシス家の人間は、どんな衣装でも着こなすことはできるだろう。だが、個人の好みや似合う色はある。

 故に、最もいいものを選ばなければならない。


「ふむ。これで、いいだろう」

「あ、はい」


 俺は、ある一着をルリアに渡す。

 結論として、白色のドレスを選んだ。

 恐らく、この太陽のような妹がもっと引き立つのは、純白の衣装だろう。


「……素敵な服ですね」

「当り前だ。このリクルド・フォリシスは、服であっても、見極める目を持っている」


 この俺の選んだ衣装に、ルリアは笑顔を見せる。

 その笑顔を見られたということは、俺の選択は間違っていなかったということなのだろう。


「ありがとうございます、お兄様」

「ふっ……」


 こうして、俺はルリアに服を選んでやるのだった。

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