第27話 貴族としての装い
私は、お兄様とレティと一緒に、町に出てきていた。
今日は、お兄様が買い物に誘ってくれたのだ。
「それで、今日はどちらに向かうのですか?」
「ああ、本屋と服屋を予定している」
馬車の中で、私はお兄様に質問をした。
どうやら、今日は本屋と服屋に行くようだ。
お兄様は、読書家でもあるため、本屋にはよく行っている。服屋も、身だしなみに気を遣うお兄様にとっては、一般的な目的地だ。
「本屋では、新たに発売された本を購入する。服屋では、お前達の服を購入する予定だ」
「え? 私達の服ですか?」
「へえ、そうなんですか」
お兄様の発言に、私は少し驚いた。
まさか、私の服を買う予定だったとは思っていなかった。
それは、私にとってはあまりいいこととはいえない。
「……お兄様、私の服など買う必要はないと思います」
「ほう? それはどういうことだ?」
「家には、既に充分すぎる程、服があります。これ以上、買っても無駄ではないでしょうか……?」
「なるほど……」
私の服は、既に家にたくさんある。そこまで成長していないため、まだ着られる服ばかりだ。
そのため、これ以上は無駄だと思ってしまう。必要以上の服など、必要ないだろう。
「お前は、勘違いをしている」
「え?」
「恐らく、お前は無駄遣いをしたくないと言っているのだろう? だが、これは無駄遣いなどではない」
「それは……どういうことでしょう?」
そう思っていた私に、お兄様はそんなことを言ってきた。
どうやら、これは無駄遣いではないらしい。
しかし、まだ着られる服があるのに、新しい服を買うのは無駄ではないだろうか。
「我々は、貴族だ。故に、高貴な存在でいなければならない」
「……だから、新しく服を買うのですか?」
「例えば、お前が昨日来ていた服を着ていたとしよう。もし、それが使用人に見られたらどうなる?」
困惑する私に、お兄様はそう質問してきた。
同じ服を着ていたら、当然使用人の人は、不思議に思うことだろう。
それが、お気に入りだとか、同じ服を複数所持していると捉えられる可能性もある。だが、一番にくるのは、恐らく服を使いまわしているという発想だろう。
「それは……少し、変だと思われます。同じ服を、使いまわしているのかと思われるのではないでしょうか。」
「そうだ。そうなれば、使用人に軽んじられる可能性がある。それだけではない。その使用人が、他の所に行くことになったりすれば、その評価が他の家に伝わるかもしれない。そうなった場合、フォリシス家の威光に陰りが見えるはずだろう」
「た、確かに、そうですね……」
お兄様の言葉で、私は理解する。
服を買うのは、貴族としての格を落とさないためなのだろう。
新しい服を着て、使用人達の前に出ることは、フォリシス家が、健在であることを示す指標になるはずなのだ。
「服を買うこと一つにも、そのような意味があるのですね」
「そういうことだ。故に、無駄遣いなどと思う必要はない。これは、必要なことだと思え」
「はい……」
私は、まだまだ未熟者だった。
フォリシス家の力は、私の行動一つで、崩れかねない。私は貴族として、もっと自覚を持たなければならないのだ。
「無論、お前の無駄遣いを避けようという精神は美徳だ。故に、その精神も、忘れる必要はない」
「ありがとうございます、お兄様」
お兄様は、さらに私の考えも評価してくれた。
田舎の弱小貴族だったから、そういう考えを持っていただけだが、それすらもお兄様は美徳と言ってくれる。
やはり、お兄様はとても優しい人だ。お兄様のように、優しく気高い貴族になれるように、私ももっと努力しよう。
「とか言って、実はお兄様が私達に新しい服をプレゼントしたいだけなんじゃないですか?」
「ほう……?」
そこで、レティが口を開いた。
その推測は、とても理想的なものだ。お兄様が、私に服をプレゼントしたいと思ってくれているなら、私はとても嬉しいと思ってしまう。
しかし、お兄様にそのような思考はないはずだ。あくまで、これは貴族としての使命であるのだろう。
その証拠に、お兄様はレティに厳しい視線を向けている。
「ご、ごめんなさい。調子に乗りました。崇高なるお兄様が、そのような考えをするなどと考えるのは浅はかでした。ごめんさない」
「いや……」
レティの謝罪に対して、お兄様は少し笑った。
きっと、レティを許したのだろう。お兄様が、この程度の冗談で怒るはずはない。
「そういう感情が、まったくないとはいえないだろう」
「え?」
「は?」
「ふっ……」
しかし、お兄様は予想に反して、そのようなことを言ってきた。
少しではあるが、そういう感情もあるということだろうか。
「レティ……」
「お姉様……」
私とレティは、顔を見合わせて笑顔になる。
私達にとって、お兄様の言葉はとても嬉しいものだった。そのため、自然と笑みが零れてしまうのだ。
お兄様は、それ以降何も言わなかった。しかし、その少しだけ嬉しそうな顔が、答えを私達に与えてくれる。
こうして、私達は喜びながら、目的地に向かうのだった。
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