第22.5話(レティ視点)

 ※この話は、レティ視点の話です。



 私の名前は、レティ・フォリシス。

 誇り高きフォリシス家の次女にして、神童と呼ばれている才能溢れる美しい天才です。


 私は、お姉様とお母様とお茶をしていましたが、少しだけ席を外していました。

 そんな訳で、廊下を歩いていると、ある声が聞こえてきます。それは、お兄様とお父様の声です。


「それで、レティについてですが……」

「うむ……」


 どうやら、私のことを話しているようです。

 これは、少し気になりますね。


「む……」


 そう思い立ち止まった私の耳に、ある音が聞こえてきました。

 それは、誰かが立ち上がる音と、足音です。これは、まずいかもしれません。


「何をしている……?」

「げ……」


 その直後、戸が開け放たれて、お兄様が現れました。

 私が逃げる前に、お兄様は私の肩に手を置いてきます。

 これは、逃げられないかもしれません。いや、ばれた時点で、もう終わりなのですが。


「盗み聞きとは、卑劣なことだな」

「い、いえ、盗み聞くつもりなんて、あるはずがありませんよ」

「本当か?」

「すみません。嘘をつきました。盗み聞きしようとしていました。すみません」


 一瞬だけ、誤魔化そうかと思いましたが、お兄様の迫力にやめざるを得ませんでした。

 こんな視線に、勝てる訳がありません。


「なるほど、お前のその卑劣な精神は……」

「リクルド、まあいいじゃないか」


 お兄様が説教をしようとすると、お父様がそれを止めます。

 これには、流石のお兄様でも表情を変えてしまいます。


「父上、どういうつもりですか?」

「大方、私達がレティの話をしようとしていたから、足を止めたのだろう。それを責めることもないだろう?」


 お父様は、私のフォローをしてくれました。

 本当に、お父様は優しい人になりましたね。昔なら、絶対にお兄様より先に説教を始めたはずです。昔のお父様は、お兄様よりもさらに厳しいという意味の分からない存在でしたから。


「……甘い」

「む……」


 そんなお父様に対して、お兄様は一言そう呟きました。

 お兄様にとっては、お父様の判断は甘いとしか言えないようです。

 それも、そのはずでしょう。お兄様は、昔のお父様に徹底的に教育されているのです。自身が許されなかったはずのことを、お父様が許す。それは、かなり嫌なことでしょう。


 お兄様は、お姉様のおかげで丸くなったとはいえ、根本は変わっていません。つまり、昔のお父様的な考えを持っている人です。最も、お姉様と出会う前から、昔のお父様よりは遥かに優しい人でしたが。


「父上、あなたが考え方を変えたというのは理解しています。しかし、あなたは根本的なことを勘違いしている」

「ほう……?」

「人に優しくするとは、全てを許すということでありません。その者が間違えれば、正すのが真なる優しさというものでしょう」

「ふむ……」


 お兄様の言葉に、お父様は頷きます。

 つまり、納得したということでしょうか。それは、まずいのでは。


「確かに、お前の言う通りだな、リクルド。この私としたことが、物事の本質を理解していなかったようだ」

「父上……」

「ここは、私が久し振りに説教するとしようか。錆びついた刃だが、今一度研ぎ直さなくてはな……」

「え?」


 お父様は、ゆっくりと私に近づいてきます。

 何故か、お父様が説教する流れになっているじゃないですか。そんなの信じられません。まだ、お兄様の方がましです。


「父上、お待ちください」

「む……?」


 その時、お兄様がお父様を制止した。

 もしかして、助けてくれるのかもしれません。お父様の恐ろしさは、お兄様もよくわかっています。そんなお父様に、可愛い妹を説教させるのは駄目だと、判断してくれたのでしょうか。

 もしそうなら、お兄様に感謝しなければなりませんね。


「中で話すことにしましょう。廊下で色々と言うのは、体裁的によくありません」

「ああ、確かにそうだな。レティ、中に入りなさい」

「はい……」


 そう思った私でしたが、お兄様は助けてくれません。それどころか、逃げ場のない場所に追い込んできました。

 こんな兄に、一瞬でも期待した私が馬鹿でした。


「さて、それでは……」

「始めるとしようか」


 私がソファに座ると、その正面に二人が座りました。

 いつの間にか、一対ニになってします。か弱い妹に対して、こんなのはひどすぎるでしょう。


 こうして、私はお父様とお兄様という悪魔のようなコンビから説教されるのでした。

 唯一、救いがあったのは、お父様は昔のようではなかったことでしょうか。どの道、辛いことは変わりませんが。

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