第6話 メリットとして

 私は、レティとともに中庭でお茶をしていた。

 そこに、お兄様がやってきて、私がレティの補助委員になることに決まったのだ。


「あ、お兄様も、お茶にしませんか?」

「ほう……?」

「え……?」


 話が纏まったので、私はお兄様にそう言った。

 せっかくだから、兄妹三人でお茶をしたいと思った。

 お兄様は、忙しいので断られてしまうかもしれないが、とりあえず聞いてみたのだ。


「なるほど、たまにはお前達と茶を嗜むのも悪くはないか……」

「えぇ……本気ですか?」


 お兄様の言葉に、レティが顔を歪める。

 レティとしては、この場にお兄様がいて欲しくないらしい。

 そういえば、これはレティが説教の愚痴を聞いて欲しいと言って始まったお茶だった。そのため、レティの気持ちは当然だろう。


「何か、問題があるか?」

「い、いえ……」


 しかし、お兄様の迫力に、レティは受け入れざるを得なかった。

 これは、流石にレティが可哀そうだ。私のせいで、本来の目的を曲げさせてしまった。申し訳ないので、後で色々とフォローしておこう。


 こうして、私達三人のお茶会が始まるのだった。




◇◇◇




 私達のお茶会は、滞りなく進んでいった。

 お兄様は、基本的に私達の話に耳を傾けるだけだったが、それでも楽しそうにしてくれている。


「はあ、もうすぐ学生になるんですね、私達……」

「うん、そうだね」


 そんな中、レティは嫌そうにそう口にした。

 私としては、楽しそうだと思うが、レティは、学校が嫌で仕方ないのだろう。


「まあ、でも、学校が近いのはメリットかもしれませんね」

「え?」

「ほら、フォルシアス学園はここから近いじゃないですか? それは、いいことですよ。すぐ行けますし、すぐ帰れます」


 レティに言われて、私は初めて気づいた。

 確かに、フォルシアス学園はここからかなり近い場所にある。そもそも、ここはお兄様が学園を建設するに当たって建てた別邸なので、それは当然のことだ。


「でも、確かに近いのはいいかもね。歩いて、何分くらいだろう?」

「え? 歩いて行く? 馬車でも使えばいいじゃないですか?」


 私がふと口にした言葉に、レティが反応した。

 まさか、レティは馬車で学園に通おうと思っているのだろうか。


「レティ、こんなに近いのに、馬車なんて使う必要はないよ? 歩いて行こう?」

「いや、そんな面倒くさいことしたくありませんよ。歩いて行くと疲れてしまいます」

「え? でも、距離は近いって……」

「近くても、歩くのは面倒くさいですよ。楽に生きましょうよ?」


 レティの意思は固いようで、私の説得も聞き入れてくれない。

 でも、近い距離なのに馬車を使うのは、間違っていると思う。何事も、面倒くさいなどと言って、避けるのは良くない。

 それに、歩いた方が健康にいいはずだ。レティは、ただでさえ運動不足なので、どうにか歩かせたい。


「ふむ……」


 私がそんなことを考えていると、お兄様が声をあげた。

 もしかして、レティに何か言ってくれるのだろうか。


「ルリア、お前は賢い妹だ。だが、今回の件については、レティに分があると言わざるを得ない」

「え?」


 しかし、お兄様の口から出た言葉は、真逆のものだった。

 それに、私は驚いてしまう。まさか、お兄様も面倒くさいから馬車を使うのが正しいと思っているのだろうか。

 自他共に厳しいお兄様が、そんなことを思うなど信じられない。


「お前は、自身がフォリシス家の令嬢であるということを忘れている。そんな人間が、歩いて学園に通うなど、格好がつかないだろう」

「あっ……」

「それに安全面においても、馬車は最適だ。お前達を狙う者から、守ることができる」

「た、確かにそうですね……」


 お兄様の言葉に、私は納得する。

 確かに、色々な観点から、馬車は最適だ。

 それに、お兄様はレティの考えに賛成している訳ではない。やはり、お兄様は立派な人間なのだ。


「うわあ、流石はお兄様……妹のために、ここまで早く理屈を述べられるなんて、すごいですね……でも、絶対お姉様が通学中に、声をかけられたりするのを防ぐためですよね……」

「ちなみに、運動嫌いの愚かなる妹には、きっちりとメニューを用意しておく」

「げええ!?」


 しかも、レティにはきちんと運動するように言い聞かせる。

 これで、私の心配も解消だ。


 そのような会話をしながら、私達のお茶会は進んでいくのだった。

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