公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗

第1話 学園に通いたくて

 私の名前は、ルリア・フォリシス。アルミシア王国のとある公爵家の娘である。


 私の暮らしているアルミシア王国では、十六歳になる年に、魔法学園に入学するのが、一種の決まりになっている。


 そのため、私も魔法学園に入学するのだが、そこで困った問題が起こってしまった。

 私が行きたいと思っている学園を、お兄様が認めてくれないのだ。


 という訳で、私は今日もお兄様と話し合う。


「お兄様、私をお兄様の学園に入れてください」

「……また、その話か。前も断ったはずだぞ?」


 私が通いたいと思っているのは、私の義兄であるリクルドお兄様が運営している学園だ。

 しかし、お兄様は何度頼んでも、それを認めてくれない。 


「お兄様、どうして認めてくれないのですか?」

「ふん……もし仮に、俺が理由を言ったとして、お前がそれに納得するとは思えん。故に、理由を話す意味などないということだ」


 お兄様はそう言うが、理由を話してもらわなければ、反論のしようがない。

 最も、それがお兄様の狙いなのだと思う。私が反論できなければ、お兄様は自身の意見を通すことができる。


「お兄様、理由を話してもらわないと、私は納得できません。何故駄目なのか、話してもらうことだけでもできないでしょうか?」

「……ならば、言ってやろう。俺の学園は、お前のようなレベルの生徒を求めていないということだ」

「え……?」


 お兄様の言葉に、私は言葉を失ってしまう。

 それは、納得できるできない以前の問題だ。お兄様からそのようなことを言われるのは、とても辛い。

 反論するより、私は辛さに参ってしまった。

 そんな私に、お兄様が立ち上がる。


「……というのは、冗談に過ぎん。だが、冗談にしては少々言い過ぎだった。謝罪しよう」

「え? そうだったのですか?」

「ああ、悪かったな」


 どうやら、お兄様の言葉は、冗談だったらしい。

 私は安心する。お兄様から、レベルが低いなどと言われてしまえば、私はどうすることもできなくなってしまう。


 だけど、それなら一体、本当の理由はなんなのだろうか。教えてくれるかわからないが、聞いてみるしかない。


「それは、いいです。ですが、それなら本当の理由はなんなのでしょうか?」

「……お前を俺の学園に入れたくないのは、単純な理由だ。身内を学園に入れてしまえば、俺とて贔屓しないとは言えないだろう。学園長として、俺はそれを許容することはできない」

「お兄様……」


 お兄様が考えていたことは、私を贔屓してしまうかもしれないという疑念だったようだ。

 自身にも他人にも厳しいお兄様が、そのようなことをするとは思えない。だが、確かに家族であるがために、意識させてしまう可能性はある。


 その理由は、とても納得できるものだった。最初からそう言ってくれれば、よかったとも思うが、そこは私の普段の行いのせいなのだろう。


「お兄様、そうだったのですね。それなら、私はお兄様の言葉に従います。確かに、身内が学園にいると、意識せざるを得ません」

「ほう? お前も成長したようだな。それならば、俺も先程までの態度も謝罪しなければならないだろう。納得しないなどと言って、すまなかったな」

「い、いえ……」


 お兄様が、私のことを少し認めてくれた。

 そのことが、私は嬉しかった。お兄様に認められることは、私にとって至上の喜びだ。


「それでは、私は違う学園に通うことにします」

「ああ、そのことなら丁度いい所がある。セント女学院という学園だ。ここなら、問題ないだろう」

「そうなのですか」


 私に対して、お兄様は資料を見せてくれる。

 確かに、素敵な学園であるようだ。


 お兄様は、きちんと後のことも考えてくれていたのだ。

 この学園でも、きっと良い学園生活が送れるだろう。


「――待ってください」

「え?」

「む?」


 そんな時、部屋にいた義妹のレティが声をあげた。

 私の付き添いとして来てもらっていたのだが、ここで声をあげたのは、どうしてだろうか。


 レティは、私とお兄様の議論をずっと聞いていた。

 もしかして、そのことで何に気づいたのかもしれない。レティは、とても賢い子なので、私のわからないことに気づいていてもおかしくはないだろう。


「……妹よ。何の用だ?」

「お姉様、お兄様が学園に通わせたくない理由は一つです」

「え? それって、一体……?」


 疑問に思っている私に対して、妹は笑っていた。

 まさか、お兄様が先程述べた理由以外に、何かあるとは思わなかった。

 一体、どんな理由なのか、私は次の言葉を期待する。


「それは、お兄様の運営するフォルシアス学園は、共学だからです!」

「え?」

「お兄様は、お姉様が男子生徒に声をかけられることを懸念しているんです!」


 レティの言葉に、私は驚いてしまう。

 お兄様は、それに対して、怒りのような表情になるのだった。

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