第114話 逃避行その2
電車をいくつか乗り継いでそこからしばらく歩いた。
そうしてやっと着いたのは何の変哲もない田舎町だった。
俺たちの町がタウンだとしたらここはカントリーサイドって感じだ。
「結構かかったな」
「片道二時間くらい……かな。県外に出てないのに……こんなにかかるんだね……」
「ああうん」
俺が言いたかったのは電車賃が結構かかったねということなんだが、訂正するのも申し訳ないし勘違いされたままでいいや。
「ずっと気になってたんだけど、ここがそうなのか?」
「うん……ミカにとって……色々な思い出がある町……いい思い出も……嫌な思い出も……」
「それってどんな思い出なんだよ。聞かせてくれるって約束だろ?」
「もうちょっと……」
「まだ歩くのかよ~」
「我慢……して。ほんとうにあとちょっとだけだから……」
それ電車乗り換えの一回目でも聞いたぞ。
子供をあやす母親みたいなことしてんじゃないよ、全く。
今更引き返そうにも帰り道わからないし着いていくしか無いけどさ。
「ほら見えてきたよ……あそこ」
「ん……?」
ミカの指差す先を見ると少し古い感じの家が一軒。
見るからに人んちだけど、ユカの知り合いでも住んでいるんだろうか。
「ちょっと待ってて……」
ミカは鞄から鍵を取り出して玄関のドアを開けた。
「え、なんで鍵なんて持ってんだ? もしかして親戚の家?」
「おばあちゃんのね……家だったんだ……。ミカが小さい時に……亡くなったんだけど……。たまにここに来てるんだよ……別荘みたいに使ってるの……」
「そうなのか。ってことは康介さんかミユさんの実家ってわけか」
「お母さんの家だね……。昔はよく遊びに来てたの……」
家の中に入ると、想像より片付いていた。
人が住んでいない家はすぐ駄目になると聞くけど、ちゃんと手入れされているようだ。
ミユさんが定期的に来ているということだろう。
「居間で休んでて……。ミカ、飲み物用意するね」
「賞味期限切れてないだろうな……」
「大丈夫……この前お母さんが来たはずだもん……お茶っ葉は新しいはず……」
そう言ってからミカはキッチンに向かった。
俺はミカの言葉に甘えて居間に腰を下ろす。ミユさんの暮らしていた家だけあって、古いけど立派な造りの家だ。
ここでミユさんはどのような学生生活を送っていたんだろう。康介さんを見るに中々ロックな学生生活だったんだろうな。
俺はなんとなく窓を開けて窓際に座る。
するとミカが湯呑を持ってきてくれた。
「はい……お茶」
「ありがと。ズズ……うん、美味しい」
「えへへ……お茶入れるの……上手になった……。前はろくに入れられなかったから……」
「そっか。ずっと頑張ってるんだな、料理」
「うん……お弁当も結構……上手になったと思う……」
「また食べてみたいな、なんて。図々しかったな……はは」
お茶を飲み終えると外は日が暮れ始めていた。
秋になると日が落ちるのが早いわ。先月のこの時間帯はまだ明るかったのに。
なんというか季節が変わっていくのを見てると時間の早さを感じて哀愁を感じてしまうなぁ。
「…………」
ミカは飲み終わった湯呑を持ったままじっとしていた。
何かを話し出そうとしてるのは俺でもわかる。ただ言い出す覚悟がまだ足りないようだ。
俺も授業で宿題を回収している時に、先生に宿題忘れたって言い出すのに躊躇してしまうからわかる。
特に夏休みの宿題を忘れた時とか絶望感すごいよな。
小4の時、俺だけ知らない宿題を周りが出した時はマジ泣きそうになった。あれトラウマです。
俺はじっと待つ。ミカが話したくなるまで待つだけだ。
だってそうしないとここに来た意味ないもの。学校サボって電車賃払っただけじゃん。
「小さい頃……ミカは今より……明るかったんだって」
それひゃ以前ユカから聞いたような。小さい頃はミカとユカの違いはそんなになくて、成長するにつれて変わっていったって。
「あの日もミカはユカちゃんを引っ張って……遊びに行ったの……」
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