第45話 三者面談で双子の母とうちの母さんが出会ってしまった

 期末テストの返却も終わり、順位も判明した。

 俺の順位は真ん中より上だったとだけ言っておこう。ユカは学年10位だったらしく、廊下の張り紙に名前が載っていた。

 才色兼備、文武両道を体現したかのような人間だな本当。ちなみにミカは俺より10位ほど上だった。


 三人の中では俺が一番下という結果に若干の悔しさを感じつつも、勉強した結果が実ったことに対する満足感も得られて悪くない気分だった。


 そんな中、恐るべきイベントが迫っていた。


「というわけで、来週から三者面談を始めます。配ったプリントにそれぞれの日時を書いてあるので、保護者に確認しておくように」


 担任の言葉を聞きながら俺は一抹の不安を抱えていた。


「保護者……って、父さんいないんだけど……」


 この場合、三者面談ってどうなるのだろう。





 ◆◆◆◆◆





「亮ちゃん! 健次郎さんに聞いたわよ! 三者面談、ママが出てあげるわ!」


「んなこったろうと思ったよちくしょう!」


 父さんに三者面談のことを電話したら『任せておけ』って言われて嫌な予感がしたけど、母さんが来るとか最悪だよ!

 今まで保護者っぽいことしてこなかった癖に、最近やけにLIMEしてくるなと思ってたけど、急にどうしたんだこの人。

 昨日の配信でも独身男性相手に萌え萌えな声で配信してたのにさぁ!


「母さん今日も夜から生配信あるだろ? 別に無理して来なくても良かったんだけど」


「まぁ、ママのこと心配してくれるの? 大丈夫よ、午前中に打ち合わせとか準備は済ませてきたから♡」


 別に心配したわけじゃなくて、本心で言ったんだが……。

 恥ずかしいから学校に来ないで欲しい。いやマジで。


 他の生徒に自分の母親を見られるってかなり恥ずかしいんだな。

 今まであまり経験が無かったから分からなかったけど、これはきつい。

 さっきから廊下を横切る生徒が母さんのことチラチラ見てて、横にいる俺の心労がやばい。


「大体学校に来て息子バレとかしたら大変じゃないの。炎上したって知らないからな」


「いつもとメイク変えてるから大丈夫! ほら、配信の時よりオトナな感じでしょ?」


 そうは言われても俺にはどう違うのか分からん。親の顔なんていちいち見ないからな。

 たとえ美人と言われてようが、俺からしたらオカン以外の何者でも無いし。


「ひょっとしてママと一緒にいるのが恥ずかしいの? 亮ちゃんも思春期なのねぇ」


「うるさい。察してるならもうちょっと静かにしてくれよ。他のクラスでも廊下で待ってる親子いるけど、はしゃいでるのうちだけだぞ!」


「それだけ私と亮ちゃんの仲がいいってことね! ほら、写真撮っとく? 三者面談記念、イエーイ☆」


「自撮り棒取り出すなや!」


 こんな時でもユーチューバー気取りか!

 しかも息子と一緒の写真とかネットに上げられねえだろ、撮る意味ないじゃん!


「もう、あんまりカリカリしちゃだめよ? ちゃんとカルシウム取ってる?」


「誰のせいだ誰の……」


 そんな風に母さんと口論をしていると、教室から生徒と親が出てきた。

 どうやら俺の順番が来たようだ。俺が教室に入ろうとすると母さんが先導して教室に入っていった。


「どうも~! 進藤亮の母の進藤萌絵ですぅ~☆」


 ポーズを決めるな! 誰に向けたアピールなんだよ!

 この人はユーチューバーバレしたいのかしたくないのかどっちなの!?

 担任も面食らっちゃってるよ、どうすんのこの空気。


「は、はぁ。どうも私一年一組の担任をしています岡本です」


「いつも亮ちゃんがお世話になってます~。それでどうなんですか先生。亮ちゃん何か問題あります?」


「おい母よ、何故俺がやらかしてる前提で話してるんだい?」


「だって亮ちゃんが普通の学園生活送れるわけ無いじゃない! ママと健次郎さんの子なのよ?」


「反論の余地もないこと言うのやめろォ!」


 母さんは言わずもがな、父さんはまともな社会人に思えて母さんの配信の度にスパチャ送るような人だからな。

 その息子である俺が一般の高校生になるかと言われればノーだ。

 うん、俺の陰キャオタクという性質は両親の変態性が合体事故した結果だったんだな。


 だが担任は俺と母さんのやり取りを笑いながら見ていた。


「なんだ進藤、そんな風に喋れるんだな。教室だといつも静かだったから先生心配だったよ」


「もう亮ちゃん! お友達と仲良くしなきゃダメよ?」


 なにこの地獄。しれっと教室でボッチなのをバラされ、母親にダメ出しされる。

 こんなことがあっていいのか。恥ずかしくて今すぐ逃げ出したい気分だぜ。

 ここ最近朝倉姉妹といい雰囲気だった反動がここでやって来たのか?


「まぁ息子さんの成績は安定しています。中間と期末も頑張っています。ただ授業態度はたまに注意を受けているみたいですから、そこは気をつけて欲しいです」


「はい、すみません」


 それはミカやユカ絡みでやむを得ず余所見をした時のことだな。

 あれは仕方がない。だって学校一の美少女とそれに並ぶ姉を窓際から眺められるんだぜ?

 授業なんて聞いてる場合じゃないだろう。


「まぁ今のまま頑張れば成績は問題ないでしょう。これからも頑張れよ進藤」


「ありがとうございました」


 俺は急いで教室を出て額の汗を拭く。

 ああ恥ずかしかった。親の前で普段の陰キャぶりをバラされるなんて公開処刑だわ。

 まぁ母さんは俺が陰キャオタクってことなんてとっくの昔に知ってるだろうけど。




「いやぁ楽しかったわ~! 亮ちゃんの学校でのお話を聞けてよかった~!」


「俺は最悪の気分だよ……早く帰りたい……」


「どうする? お腹減ってるよね、帰りにどこか寄ってく?」


「いやいいよ。今日は家に帰って寝たい……心のダメージを癒やしたい」


「ええ~そんなこと言わずにママとご飯食べようよ~」


 やめろくっつくな腕に絡みついてくるな! 周りの生徒が見てんだよ!


「とにかく俺はもう帰るから! 母さんもそのまま帰っていいよ!」


 俺が早足で廊下を歩いて行くと、六組の廊下を通り過ぎた時に教室の扉が開いた。

 振り向くとユカが出てくるところだった。俺は思わず足を止めてしまう。


「あれリョウ君? もしかして三者面談終わったのー?」


「おう、恥ずかしくて死にそうだったよ……」


「なに言われたの!? そういえばさっきミカちゃんも顔真っ赤にしてたっけ」


 ミカ……お前も陰キャ特有の経験を味わったのか。その心中お察しする。


 ……あれ? ということはミカとユカは同じ日の同じ時間帯に三者面談をしたのか。

 それもそうか。双子なわけだし親の負担も考えて日程調整されてるよな。



「あら、ユカ。その子はお友達?」


 ユカの後ろからとても優しそうな女性の声がした。

 そこにはミカとユカを足して二で割って、更に大人の色気を加えたような美女が佇んでいた。


「あのねママ、この人がユカの友達のリョウ君だよー!」


「あらぁ、あなたが最近ミカとユカがよく話題に出してる亮君? 娘たちがいつもお世話になってますぅ」


「あ、いえ、えっとこちらこそ……その、ユカさんたちにはお世話になってて……」


 うわ、凄い美人な人だ……。うちの母親以外にもこんな母親っていたんだな。

 目の前にいるだけで飲み込まれてしまいそうな、とんでもないオーラを感じる。

 さすが二人の母親なだけはある。俺の陰キャオーラじゃ太刀打ちできそうにない。


「亮ちゃ~ん! ママを置いていかないで~! ってあら? ユカちゃんじゃない」


「あー萌絵さんだー! どうしたんですかこんなところでー?」


 ユカ、いつの間に母さんのことを名前で呼ぶような仲に……。

 LIMEやってるとは聞いたけど、そこまで親密になっていたのか。

 何か外堀を埋められているみたいで恐怖を感じる。母さん、俺の個人情報を流してないだろうな……。


「あら? 亮君のお母さんですか? どうも、朝倉ユカとミカの母ですぅ」


「うわぁ~素敵な人! 私、進藤萌絵って言います。いつも亮ちゃんがお世話に~」


 うわ最悪だ! うちの母親とユカの母親がエンカウントしてしまった!

 逃げ出したいけど逃げれるような状況じゃないし、RPGのボス戦のような気分だ。

 つまり俺にとってかなり緊迫した状況というわけだ。


「あの、よかったらこの後お茶でもいかがでしょうか。ユカとミカが仲良くさせていただいてるみたいですし、一度お話してみたくて」


「いいですね~! 私も是非じっくりねっとりお話したいです! というわけでユカちゃん、ミカちゃんにも招集掛けて喫茶店にゴーよ!」


「了解です萌絵さん! ミカちゃんたぶん図書館で待ってるはずだから、すぐ呼んできます!」


「あらあら、明るくて楽しい人ですねぇ。なんだかとっても気が合いそうですぅ」


 おいおいおい、まさかの家族ぐるみで飯食いに行くことになっちゃったよ。

 しかも寄りによってうちの母親が一緒って。この後一体どうなるんだ……?

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