5.閑話の後に来たるもの(1)ー杏仁豆腐とプリン

「で」


ふいに忍が声を上げた。


「プリンにしますか、杏仁豆腐にしますか」

「え、いきなり何の話?」

「コンビニで買ってきたデザートが……」


いつの話だよ。


「忍ちゃん、私、杏仁豆腐」

「杏仁プリンもあるけど」

「じゃあそれで」


なんでかたくなにそこは杏仁豆腐とプリンなんだよ。

オレはテーブルに並べ始められたコンビニスイーツを見る。色々アレンジはあるが、大雑把にまとめるとその二種類だ。


チョイスを謎に思いつつ、だがしかし、ここに来る前合流して、コンビニに寄った時にそういえば冷蔵の棚はそういうものばかりだったことを思い出す。


……店長のチョイスか。


「清明さん……いや、キミカズ? どっち?」

「杏仁豆腐」

「いやそうじゃなくて、どっちで呼んだらいいかっていう話」


素でボケないでください清明さん。

というか、もうこの人、清明さんだって分かった時点でオレ、いままでの罵倒とか同じことできないんだけど。

どうしたらいいの。


対応に苦慮する予感。


「じゃあ、ここにいる間はキミカズがいいかな」

「しゃべり方が清明さんですが」

「何か一回バレちゃうと、ソファ占拠してごろ寝とかしづらいよね」


そうですね。キミカズなら許されるけど清明さんだと違和感満載ですね。


「すれば?」

「……」


すっげぇ! 容赦ない!!!

今のはキミカズだと認識して対応したのか。忍の切り替え力が凄まじい件について。


「じゃああれだ。髪を結んだときはキミカズで、ほどいた時は清明さんってことにしたら?」

「森ちゃん、それはいい。人格切り替えスイッチみたいで」


いや、それ切り替えるの髪止めじゃなくて、清明さんだから。

止めてください司さん。


「エシェル、ミルクプリンしか残らないぞ」

「構わないよ。あぁ、さっきのチョコリキュールかけてみたら?」

「! 杏仁系には合わなそう……!!」

「こっちやるから」


華麗に諦めて日常会話に戻ってるよ。

聞きつけた森さんが、速攻プリンで試したがってるよ!


「チョコプリンとか普通にあるもんね」

「……キミカズ、どっち?」

「プリンで」


さっきと選択違いますよ。清明さん。

プリンと杏仁豆腐の選択でここまで日常引っ張れるってすごくないか?


さっきまでの重要そうな話どこ行ったんだよ。

いや、お持ち帰りして考えるって言ったからそっちの方こそいつまでも引きずってたら空気重くなりそうだけども。


「そういえば」


と、再び忍。


「エシェル、司くんに何か話したいことあるって言ってなかった?」

「え、そうなの?」

「あと清明さんにも」


あぁ、と、ふつうにコンビニスイーツの蓋をはがしながらエシェル。

汁飛ぶから、気を付けたいところだよな。


「忘れてた」


……天才ってふれこみどこ行った。


「いや、清明が……キミカズの話がなかなか興味深かったら、つい傾倒して……」


それって陰陽師のうんちくか?それとも幼少の頃のちょっとかわいそうな話か?

聞くに聞けない。


しかし、司さんと清明さんは手を止め、エシェルの方を見る。


「……この空気、すごく話しづらいんだが」

「エシェルでもそういう空気の読み方することあるんだな」

「秋葉、どういう意味だ。君たち次に天使が来たら死ぬかもしれないんだぞ」


…………………………。



いや、本当に、そんな話なの?

っていうかこれ、プリン片手にする話なの?


オレの手は、プリンを持ったまま止まっている。


「それは……どういう意味だい?」


とりあえず、全員プリンと杏仁豆腐、下ろしませんか。オレも含めて。

さすがに、エシェルが率先して下ろした。

……そのつもりはないんだろうが。


「次に結界が破られた時、『ミカエル』が来るかもしれない」

「……ミカエルって……」

「ミカエルは聖地の守護者であり戦士である。すべての天使の軍勢を率いる、天使長だ」


確かにそれは、屋上で聞いた覚えがあった。

あの時の天使たちは「たまたま」巡回をしていた組で、結界からこちらを狙っていたわけではない。

だが、エシェルと話していた天使は、確かにその名前を出していた。


「……エシェル一つ聞いていい?」

「なんだ」

「その天使って強いの? あと、それ、エシェルが言っちゃっていい話?」

「一つ聞くと言いながらふたつ聞くのは感心しない」


そこじゃねーよ。

もうそういうのいいから、話進めて。

変なところで真面目なんだから、っていうか真面目だからこそこういう事態になるんだろうけども……!


「一つ目の質問に関しては、なんとなくわかる。僕が調べなおすし、聞く必要はないよ、秋葉」


清明さんのオレたちの呼び方が、さりげなく変わっていたがあまり気にはならなかった。

もうキミカズと足して3で割った3分の2くらいを清明さんが持っていてくれればいいとオレは思う。


「では、ふたつ目の質問に答える。……よくないんだが、聞いていたはずの君がいつまでも説明をしないから、こうなった」


……オレのせいだった。


「確かに聞いたよ? そういえば」

「君が知っているのだから、結局、君が話すことになる。僕から情報提供しているわけではない」


頭いいのは難儀だな。

回転が良すぎて、やっぱり気付くとこっちがいつまでも話さないことに内心やきもきするんだろう。

そして、本来は自分からは言えない情報だから、そこに予防線を張るのも忘れない。


……でもさっき、忘れてたって言ったよね。


「でも忍には司さんに話したいって言ったんだろ?」

「司は守りの要でもある。警告くらいはしておきたいと思った」

「……」

「なんだ?」

「何でも」


結局、自分から警告してくれてるんじゃないか……

天使だと知らない時にも思ったが、若干ひねくれているが、なんだかんだで不親切ではない。


というか、上位天使ってこういう感じなの?

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