7.ボロ市と正義の悪魔(1)
日本でも、スリ注意。という物騒な場所と時間がある。
どこが、というより人込みでごった返すイベントがそれにあたるらしい。
『盗難が多発しています。財布などの貴重品の保管にご注意ください』
「……日本にこんなアナウンスされるところがあったなんて……」
「私も、初めて来たときそう思った」
大きな花火大会よろしく、肩がぶつかるような混雑の中、歩く。
何度も何度も、アナウンスは繰り返されていた。
「警官もあちこちでパトロールしてるね。……ある意味、異世界感」
先に言ったのが忍、あとが森さんだ。
今日は、ある区のボロ市に来ていた。
わけのわからない骨董や、アクセサリー、布の端切れなどが並ぶ。
ここも元は闇市発祥らしいが、開かれるのは年に一回。
そのせいかアメ横のような市場感すらなく、その日限りの出店は殊更混沌としている。
「忍と森さんは、一回来てるんだろ?」
「一回でいいと思ったけど、来てみればまぁ面白いかな」
そんな話を聞いて、そんなものがあるのかと興味を示したら、一緒に行くかという話になった。
来てみたら……森さんも一緒だったから驚いたわけだが。
「森さん、司さんは今日仕事なんでしたっけ?」
「うん」
「司さんに、オレが今日一緒だって、話しました?」
「なんで?」
警戒ボックスに行きたくないので、お兄さんに連絡してください。
ないとは思うが、ここしばらく司さんがダンタリオンやら一木やらダンタリオンやら宮古さんに、それぞれな形で絡まれているせいで余波が来るのがちょっと不安だ。
「いや……仕事じゃなかったら、一緒に来てくれたかなって」
「神魔多いから、ここら辺に来てるんじゃない? 動員相当多いらしいよ」
「マジで!?」
適当にぼかしたつもりが、忍から聞いてなぜか動揺するオレ。
この、女性二人と一緒のオレ、というのは一体どう見えているのか。
あ、二人だと逆に誤解を招きそうだから、森さんに声かけたのか。
…………………………うん、それはない。
「これって誰が買うんだろうね」
「炉端とかで鉄瓶置くやつだよね」
「錆びさびなんですけど」
二人は謎物体を見つけては足を止めている。
一種の祭りなので、これ目当てに地方からのツアーも組まれているらしい。
神魔と人間がひしめく中で、足を止めるのも割と大変だ。
「……秋葉、雰囲気は堪能できた?」
「うん、雰囲気を楽しむものであって、全然買いたいものがあるわけじゃないことはわかった」
「着物の端切れとか、多分ハンドメイドする人は欲しがるんだろうけどね」
もう、とにかく、ボロ市、という名にふさわしい訳の分からないものであふれていることはわかった。
足元にある店先のコンテナの中には、ジャンク品というにも古すぎる色々がつっこまれている。
皿とか皿とか急須とかも。
まぁこんなもんか。
「この人ゴミと警察官……森ちゃん、司くんを探せ、でもしてみるか」
「そうだね。難易度高そうで楽しそうだ」
「いや、司さん仕事中だろ? ここ、そういう遊びをするところじゃないだろ」
さすがに一度来て、もういいやと思った人たちだ。
オレより早く飽きて全然関係ない遊び方をしようとしている。
「じゃあ、秋葉くん、追いかけっこでもしてみる?」
「迷子になります。誰も捕まりません」
「かくれんぼの方が難易度高いんだから文句言うほどでは」
「その前に、やろうとするな」
この人ゴミでかくれんぼとか、そのまま置いて行かれるフラグの方が高いだろ。
この二人のことだから、置いていくと見せかけて、観察されそうなのが逆に怖い。
「司くんが来ているとすれば、会うこと自体は難しくない」
「電話かけるの迷惑だからな。もう一回いうけど、仕事中だから」
「私は仕事中の人に、プライベートな電話など掛けない」
じゃあどうするんだ。
聞くまでもなく、答えはあった。
「神魔の方々が、何か問題を起こしてくれればいい」
まさかの神魔、囮作戦……!
「そうだね、すぐに特殊部隊の誰かが駆けつけるね」
「それ以前に、神魔のヒトたちが何かするっていう前提がおかしいだろ!?」
「この辺りにいたらすぐに見つかるという方法が分かった時点で、ゲームとして成り立たないしねー」
……脳内で、攻略法が出たので、やるつもりはないらしい。
すごいシミュレーション力だな。ふたりとも。
「じゃ、堪能したとこで、神社の方に出てる鉢植え見ていきたいんだけど」
「帰る前にケーキ屋さんに寄っていい?」
…………そんなのどこにあった?
この人ゴミでチェック済なの?
すごい視野の広さだな。
思わず声に出すと二人は振り返って言う。
「この通りのケーキ屋、チーズムースが有名なんだよ。前に買って帰ったらおいしかった」
「へぇ~じゃ、オレも買っていってみるかな」
「神社の入り口近くだからすぐ行けるよ」
そして、そのまま境内を抜けて帰ろうということになりケーキ屋へ。
道すがら見た神社の境内はずっと奥まっていて、植木市のゾーンになっているようだった。
その時だった。
「あっ! 財布がない!!」
誰かが人込みの中で声を上げた。
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