EX.1 夏のバカンス編
1.夏です。海に行きます。
と、いうわけで。
梅雨明けの日本は、まだ蒸し暑い。
なぜか、オレたちは沖縄に来ている。
「沖縄まで来ると、南国! って感じだよな。暑いけど」
「晴れてないと海が微妙な色なんだよね。……海の色は空の色なのか」
「今日は晴れているから、絶好の海水浴日和だな」
と、すっかり夏色の空とコントラストのまぶしい白雲を眺める。
オレの感想に続く忍とダンタリオン。
「お前、海水浴とかするの?」
むしろする気満々みたいな顔のダンタリオンについ、聞き返す。
「オレは大人だからしない。海辺でお前たちがキャッキャウフフするのを見守っていてやる」
「いや、大人はともかく、メンツ的にキャッキャウフフはないと思うぞ……」
同行しているのは、司さんと忍、そして森さん。
いつものメンバーと言えばいつものメンバーなのだが、森さんが加わっているのがイレギュラーだ。
もちろん、理由はそれなりにある。
「沖縄来たかったから嬉しいです。ありがとうございます公爵!」
「秋葉、仕事扱いで沖縄でバカンスだよ? こんなチャンスないよ、乗っとけ!」
そんなわけで、全員ひっくるめてダンタリオンの「ちょっと沖縄遊びにいこーぜ」という誘いに乗ったわけである。
もちろん、司さんとオレは警戒した。
理由はそれぞれだ。
オレは、大体誘いにのるとろくなことはなさそうだ。という一点。
司さんは普通に貸しを作り兼かねなかったり、そもそもそんな理由で好き勝手していいのかという良識具合がものを言っていると思う。
だがしかし。
そこは、忍と森さんの柔らかすぎる適応力が上回ってしまった。
「お前、結構こういうの平気なのな……」
「だって、公爵からは『仕事で』って派遣依頼が来てるし、公的書類としても抜かりない」
「森さんが一緒なのは?」
「ふつうに沖縄来たかったから、便乗!」
いつもよりテンションの高い森さん。
いや、森さんだけでなく、忍のテンションも比例している。
インドア派にみえて、割と忍はアウトドアも好きだ。
「公爵が誘ってもいいって言ってくれたし」
「懐が広く、豊かなオレに感謝しろ」
その豊かっていうのは、主に金の問題だよな?
悪魔の資金源が何なのか、敢えて追及はしない。
「でも実は森ちゃんは絶対に乗りたがると思ったんだ」
そうだな、忍だったら間違いなく乗るもんな。
晴れているせいか、日陰なのに熱風のふきつける空港前で、ハイヤーを待つ。
「そして、森ちゃんが乗ったら絶対に司くんも乗るだろうな、と思って」
「確信犯か、お前は」
自覚があるのだろう。
司さんは、小さくため息をついたようだが、さりげに空を見上げて、それでも休暇モードな空気のゆるみを感じる。
さすがにここまで首都圏を離れて制服の団体は目立つので、私服。
それもあるかもしれない。
オレもちょっと渋ったが、来てしまえば開放的だ。
「ちゃんと公爵には誓約書を書いてもらったから大丈夫!」
「誓約書……?」
「ツカサと妹と、シノブには危害を加えません。純粋な善意なので、貸しにすることもありません」
「ちょっと待て。オレが入ってないのはどういう理由だ」
ダンタリオンの暗唱した内容にすごくひっかかる。
とりあえず、他意はないと思いたい。
「大体、ツカサが断りそうだから誘ってもいいか聞いてきたのシノブだし、オレはそれにOK出しただけ」
「みんな楽しく行ければいいじゃない。森ちゃん、海、楽しみだねー」
「海洋生物探そうねー」
そういう楽しみ方なの?
女子二人の会話にも疑問を抱きつつ、ここまで来たら同意ではある。
ハイヤーが滑り込んできて、ドアを開けると快適空間だった。
「あー冷房涼しい~」
「確かに涼しいけどせっかくだから窓開けて風入れたいなぁ……」
「とりあえず、ホテルまで我慢しとけ」
冷房を入れつつ、窓を開けるというある意味、贅沢行為。
しかし、忍は空気がよどむと死んでしまう類の人間なので、長距離移動まで我慢させる。
今回は三泊の予定で、一泊目はすぐ近く。
二、三泊目は本島の北西のリゾートホテルだ。
「よっし。今日は移動時間もかかったし予定通り、那覇市内の探索な」
「首里城行って、国際通り。でも時間があるから玉泉洞も」
「……こういう時、リサーチ力高い人間がいると楽ですよね」
「事前情報がないと、行って帰ってくるだけで終わることもあるから、知っておいた方がいいこともあるけどな」
……ひょっとして、今のメンバーで一番の情報弱者はオレですか。
と思ったが、行程に関しては嬉々としてダンタリオンと忍が選んでいたのを知っている。
たぶん、そこに森さんも忍経由で加わっていると思うが、行く場所はお任せだ。
その辺りは、司さんも同じだろう。
「首里城は焼失事件から再建済だから、新しい」
「新しい世界遺産って一体……」
「そもそも世界中の遺産がどうなっているのかわからないんだけどな」
「自然遺産は残ってるんじゃないの?」
これもあまりつきつめないことにして、ホテル到着。
3部屋に分かれる。
オレは安堵の息ついた。
もちろん、ダンタリオンは一人部屋だったからだ。
「良かった……オレ、あいつと一緒の部屋だったらどうしようかと……」
「……そんなに徒労を感じるのか?」
「えっ、司さん。平気なんですか!?」
国際通りにほど近い、街中のホテルだ。
ここもリゾートホテルだからエントランスからして吹き抜けで、明るくきれいな南国調だった。
海は見えないが、あちこちに配された南国感にテンションは上がる。
しかし、意外過ぎる返事にオレはものすごく意表を突かれた気分だった。
「同じ部屋だったら、寝る時以外は入らないか、そもそも部屋に帰らない」
「…………………完璧な対処法ですね」
部屋に戻らず、どこで一泊するというのか。
敢えて聞かない。
とりあえず、それくらい避けたいということは、よくわかった。
「まぁ一人にしておくというのも、何かしでかしそうで嫌な感じもするんだけどな」
「今回は、仕事という名のバカンスだし、気にしない方がいいですよ」
仕事というバカンスという時点で、すでにアレなのだが。
派遣申請が出た時点ですべての責任は、ダンタリオンにある。
「あいつ、ふつうに観光に来てる感じだし」
その場合、一番ターゲットになりそうなの、オレだけど。
そういうと、忍も似たようなことを言っていたと司さん。
「あいつのセンサーは割と当たるから、まぁ、大丈夫だろう」
思ったより深刻に捉えていなそうだ。
オレも安心してバカンスを楽しむことにする。
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