第97話 【ティナ】花を探して

 アタシの身体強化のための魔道具をドノバンに作ってもらうためには、リスケッタの花ってゆーのが必要なんだって。

 どこにあるかもよく分からないから、手分けして探すことになった。ダンジョン近くはゴブリン達が、北東方面はカイン兄とミズクが、そして、北西方面にアタシとルビーが来ている。ダンジョンの南側は人間も探索に来てるし、あっても採られてるだろうってドノバンが言うから森の奥の方を中心に探すことになったの。


「(しっかし、探すゆーても、分かってるのは赤くて甘い匂いのする花ってだけやろ。探せるんかいな)」


「そんなこと言わないでよ。見つけないとアタシの魔道具できないんだから」


「(あのイケメンエルフやヒゲモジャも手伝ってくれたってえーのにな」


 アルノルトはドノバンに会えて満足したのか、森の奥に帰っていってしまった。でも、最初会ったときは、近寄ってくれるなオーラがすごかったけど、最近はちょっとだけ仲良くなれたような気がする。……深緑のダンジョンの配下になる気はなさそうだけど。

 ドノバンは素材が手に入るまではヴェールの町で待ってるって。今回は急に出てきちゃって、お店の方も不安みたい。


「そういえば、ルビーが手伝ってくれるのは嬉しいんだけど、シルフ達は放っておいてよかったの?」


 イルミア達との戦いが終わってから、シルフ達はルビーの下で訓練してた。レベルあげなきゃって。なんせ、イルミアに対抗するためだけにたくさん創造したのはいいけど、みんなレベル1だからね。鍛えないとこの先やっていけない。


「(まぁぼちぼちシルフ達もできるようになってきたからな。ワイがいない間は休みや休み)」


「……個人練習とかじゃなくて?」


「(あいつらにそんな勤勉さないわ。ワイが見とっても、気分がのらなきゃ、サボるやつがでるくらいやんか。個人練習なんてもってのほかや。どうせ無理なら、遊ばせとった方が気も晴れてええやろ)」


 あら、シルフってそんな感じなのね。可愛らしい妖精って感じだけど……まぁ妖精って気まぐれな感じするものね。


 それからもルビーと他愛もない話をしながら、リスケッタの花を探す。


 花の捜索ではあるんだけど、散歩みたい。


 カイン兄を追いかけて、初めてこの森に来たときには、なんだか鬱蒼としているような気がして、少し薄気味悪いとも思ったけど、今は全然そんなことはない。むしろ、木々の間から光が差し込んできて、通り抜ける風が心地いい。

 ……森が短時間でそんな変わるわけはないんだから、きっとこれが地脈の魔力がダンジョンコアによって抑えられてきた効果なんだと思う。


 たまにはこんな風に森を歩くのも悪くないわね。


 ◇◇◇◇◇◇


 リスケッタの花探しは一旦3泊4日間ってことになっている。

 もしかしたら、他のチームが探し当ててるかもしれないし、なにより、アタシがコアから離れて大丈夫なのがだいたい3~4日くらいなのよね。

 別に何事もなければ、全然もっと大丈夫だけど、もしかすると、高ランクの魔族との戦いになるかもしれないことを考えると、そのくらいで帰って、魔力の補給をした方が安全だ。もちろん、途中で魔力が心もとなくなれば、そうそうに帰るつもりでいた。


 で、今は探し始めて3日目の夜。


「(……ほんとにリスケッタの花なんてあるんかいな?)」


 ルビーがぼやく。

 でもその気持ちも分かる。これまで全く気配すら感じられていない。

 ……花に気配もなにもないけど。


「ちょっと、よく探してよ!この夜を逃したら、もうきっと無理よ」


 よく考えたら、リスケッタは夜に咲く花なのだから、昼間探したって分かるわけないってことに昨日気づいた。

 そりゃぁ蕾はあるんだろうけど、花が咲いててくれないと実物を見たことがないアタシ達じゃ見つけようがない。


 だから、夜に探すしかない。

 赤い花で、甘い匂いのする花。

 ついでにもしかすると低級の魔族が寄ってきてる花。


「(……そういや、ヒゲモジャがゆーとったな。低級の魔族が来るって)」


「そうよ。だから花もそうだけど、低級の魔族見つけたら、後を追いましょ。その先にもしかしたら、リスケッタの花があるかも」


「(いや、それはいーんやけど……。その低級の魔族はリスケッタの花を食べに寄ってくるわけやろ?花が咲くのは夜だけ。しかも、魔族が食べる前に採らなアカンわけや)」


「……」


「(もしかして、リスケッタの花って、めっちゃ見つけるの難しいんちゃう?)」


「……急いで探すわよ!っと」


 アタシ達は立ち止まる。


「(ん~まさに低級の魔族)」


「でもダメね。明らかにアタシ達の方へ向かってきてるもの。リスケッタの花は関係ないわ」


 近くに野良魔獣の気配がする。魔力の大きさ、匂いからして多分コボルトね。


「ガウガウガウ!!」


 アタシ目掛けて、飛びかかってきたコボルトを避け、背中に回し蹴りをお見舞いする。


「キャイン!」


「(もー野良魔獣も見飽きたわ)」


 かれこれ今日だけでもう、10体近くの野良魔獣に襲われてる。


「まぁ、こんな夜中に灯りつけて動いてるんだもの。そりゃ、襲われるわよね」


 今日は曇っていて月明かりもない。リスケッタの花を見つけようと思ったら、灯りが必要だ。

 仕方ないので、ルビーにライトの魔法を使ってもらってるけど、ものすごく目立つ。


「(あ、えぇこと思いついたわ!ティナの姉御のスキルなら、ライトもバレないんちゃう?)」


「……確かにアタシがスキル使いながら、ライト使えば、灯りは防げる気がするけど、それじゃ明るくもならないわよ」


「(あ、そか。あーもーリスケッタでてこんかーい!!)」


 ルビーがやけになったそのとき、ふんわりと風が吹いて、アタシの鼻孔を刺激した。


「ルビー!見つけたかも!」


「(なんやて!)」


「甘い香りがしたわ!こっちよ!」


 アタシとルビーは急いで風上に向かう。

 風に雲が流され、月が顔をのぞかせる。


「(ライト切るで!)」


「うん」


 もう野良魔獣を呼び寄せるライトは必要ない。

 月明かりを頼りに急ぐ。


 そして、アタシ達は川べりにやってきた。


「……川の流れで匂いがかき消されちゃってるかも」


「(姉御、あれ見てみい!)」


 ルビーが指差す方を見ると、赤い花弁を大きく開かせた美しい花が、月に照らされ、不思議な存在感を放っていた。

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