誇り高き者

第89話 【レオン】俺達のボス

「(遅い!)」


「(すまない。それで、ボスの様子はどうだ?)」


「(すっかり元気をなくされている。昨日もオークを3体しか召し上がっていない)」


「(……)」


 俺はさきほど、この山の麓にある縄張りへと戻ってきた。

 これからボスに今回の調査の報告をする予定だ。


 ことの発端はボスの変化だ。

 ある日、ボスが急に弱りだした。

 なぜかは分からない。

 だが、ボスはこう言った。


「(おかしい。地に溢れていた力が消えている……)」


「地に溢れていた力」というのが何なのかはボスにも分からなかったようだ。

 それからボスはみるみる衰えていった。当初は力が足りないということで、食べる量をかなり増やしていたのだが、段々と食べること自体がつらくなっていたようだ。


 以前は喜々として狩りに出かけ、他の種族との交戦となれば、先陣を切って仕掛け、我々を導いてくれていたものが、ほとんど外には出ず、1日中横になっているような状態だった。


 そんなボスを見かねて、俺達は動き出した。

 ある者は弱られたボスの看病をし、

 ある者は精のつくものをと食い物を探しに出かけ、と。


 そんな中、俺達スノーウルフはそもそもこんな事態に陥った原因を調べることにした。なんのアテもなかったが、ボスが「地に溢れていた力が消えた」といったのだ。必ずなにかあるはずだ。

 なにか異変がないかと森の中を駆け回り、ついでに獲物を見つければきっちりと狩って、ボスへと届ける。


 だが、原因は分からず、ボスはますます弱っていく。周りの者達も焦り始めた頃。


 俺達は見つけた。


 その原因を。


「(ボス……)」


「(レオンか。すまないが、もう立ち上がることも辛い。このままで失礼するぞ)」


「(とんでもない!俺達が不甲斐ないばかりに……)」


 ボスは力なく横たわったまま、俺に声をかける。


「(ボス、ボスがお力を失った原因らしきものを見つけました)」


「(何!?)」


 勢いよく反応したのは、そばに控えていたダークウルフのドーレンだ。


「(どういうことだ?)」


 それから俺はボスに話した。

 森の中で会ったデーモンとの話を。


 あのデーモン……カインと言ったか。カインは言っていた。


「この地は地脈から魔力が異常に溢れていた」


 と。ボスが以前元気だったのはこの魔力のおかげではないか?

 ボスの言う「地に溢れる力」というのはこの魔力のことなのではないか?


 だが、それは放っておいていいものではないらしい。

 とはいえ、その魔力がなければボスが元気になることはないだろう。


 カインは俺達に魔力を渡した。

 あいつならば、ボスにも魔力を与えることができるはずだ。


 俺はボスにそう話した。

 カインの協力を得ようと。


 だが……


「(なんだと!では、そのデーモンが邪魔をしたせいで、ボスはこんなことになっているのか!?)」


「(ドーレン、そうはいっても、天災を起こすわけにはいかんだろう)」


「(何を言う!そんなことは知ったことか!だいたいそいつが本当のことを言っているという保証はない。むしろ、そいつが地に溢れる力を独り占めしているだけではないのか!?)」


「(……)」


 俺はカインと会って話をした印象では、そう悪いやつではなかったように思う。だが、俺達は魔力のことを知らない。ドーレンの言うことが間違いだとも言い切れない。


 ボスは静かにこれまでの話を聞いていた。


「(ボス、そのダンジョンコアとやらを手に入れましょう。ボスがそれを手にすればきっと元通りになるはずです!)」


「(なっ!?)」


「(何を驚く、レオンよ。ボスのためを思えば、当然のことだろうが!)」


「(……)」


「(ドーレンよ、そういきり立つでない。落ち着け)」


 ボスがドーレンをなだめる。


「お邪魔するよ~」


「「「(!?)」」」


 突然、一人の人間の男が現れる。


「どうやら随分と元気がないみたいだねぇ」


「何をしに来た、ルークよ」


 どうやらボスは知っている人間のようだ。

 しかし、この場所に一人で入り込んでくるとは……見張りの連中は何をしていたのだ!


「ふふ、その元気がなくなった理由を教えてあげようかと思ってね」


「……それならば今、レオンから聞いたところだ」


「あれ?そうだったの?」


 男は大げさに驚いてみせる。


「でもさ、どうするつもり?ダンジョンコアはキミには使えないし、壊すとこの辺り一帯は大災害が起きて、とても住めなくなっちゃうだろうしね」


「(なっ!?)」


「……」


 やはり、カインの言うことは本当だったか。ドーレンが悔しそうに歯噛みしている。

 一方のボスは黙ったままだ。


「ふふふ、そんなキミにいいことを教えてあげよう」


 男はそう言うと、ボスに近寄り、何事か耳打ちする。


「ね?悪くない話だろ?」


 男は怪しげな笑みを浮かべる。

 ボスは男の話を聞いて、しばらく瞑目している。


「(ボス……)」


 ドーレンと俺はボスの反応を見守る。


「……よかろう」


 その言葉とともに、ボスが立ち上がる。


 ボスは、全長10メルトはあるであろう大狼だ。

 その毛並みはとてもさきほどまで寝込んでいたようにも見えず、月の光を浴びて輝く銀色に美しく輝く。

 牙は岩をも噛み砕き、爪は大地を切り裂く。


 フェンリル。


 俺達のボスが目に強い光を携えて吠える。


 ウォォォーーーーーーン!


「ゆくぞ。我らで深緑のダンジョンを落とす」

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