第44話 ダラデニー王の最期

「あなたはやりすぎた。ここに住む人々を守らなければならない立場にありながら、非道なことを当たり前のように続けてきた。そして俺の心さえも縛り付け……許すことなどできない」

「ガ、ガリア! 俺様に逆らうのか! また痛い目にあわすぞ!」

「痛い目にあうのは、どちらでしょうか?」


 落ちた剣を拾い、ダラデニー王へと詰め寄っていくガリア。

 周囲にいた兵士たちはダラデニー王の命令を受け、彼の盾となりガリアと対峙する。


「ガ、ガリア様……」

「俺たちがこの人に勝てるわけがない……」

「だけど、王の命令だぞ」


 ブンッと剣を空振りするガリア。

 兵士たちはビクッと跳ね、ガタガタ震える手で武器をガリアに向ける。


「この間違った町を正す時が来た。立ち上がるのだ、皆!」


 ガリアの言葉に、フローラが頷き前に出る。


「そう……いつまでもあんな奴怖がってたらダメなのよ! このままあいつの好き勝手やらせて、これからも辛い思いをしながら生きて行くの!? おじいちゃんが殺されて、皆死んで……私はもうごめんだわ! 例えどうなったとしても、もうあいつには従わない! 心の平穏を取り戻すために、私はあいつと戦う!」


 町の人たちはフローラの言葉を聞いて、困惑しざわつきを見せる。

 恐怖の対象であったガリアが自分たち側についたというのに、まだ抵抗することができない。

 もう心の芯まで、ダラデニー王の恐怖が突き刺さっているのだと察する。


「だ、だけど……王がいなかったら誰が俺たちのことを守ってくれるんだ?」

「オークから生き延びるために、お前たちを盾にしたのは誰だ?」

「……それは」


 俺の言葉に、町の人たちは意気消沈とする。


「あいつはお前たちを守ってくれるようなことはしない。いざとなれば平気で見殺し、腹が立っても平気で人を殺す。ダラデニー王に従うだけの価値はない」

「お、王がいなくなったら、俺たちはこれからどうすれば……」

「俺たちで町を作り直せばいい」


 ガリアが力強い一歩を踏み出し、町の人たちに大きな声で宣言する。


「俺は約束しよう。持てる力を余すことなく、皆を守ることに尽力することを! 王がいなくなることによって、他の町や国との関係が悪くなろうとも、必ず皆を守り切ってみせると! だから立ち上がるんだ! 我らの誇りのために! 我らの未来のために!」

「…………」

「な、なんだお前ら……どういうつもりだ!?」


 ガリアの宣言を聞いた兵士たちは踵を返し、ダラデニー王に剣を向け始める。

 そして怯えながらも勇気を宿した町の人々がダラデニー王へと詰め寄って行く。


「お前ら……お前ら! 俺様に逆らうつもりか!?」

「逆らうんじゃない! 取り戻すんだ! 俺たちの平穏の未来を!」

「ひっ!」


 ダラデニー王は兵士たちにあっさりと捕まってしまう。

 そして広場に転がっていた丸太を地面に突き刺し、丸太に彼を縄でグルグル巻きにした。


「待て……何をするつもりだ!?」

「よくもおじいちゃんを……このっ!」


 フローラは地面に落ちている石を拾い、ダラデニー王に投げつける。


「痛い! やめ、やめろ!」


 町の人たちはフローラに続くように、四方八方からダラデニー王へと投擲を開始する。


「お前が俺の家内を!」

「私の息子を返せ!」

「この悪魔め! 地獄に落ちろ!」


 目に、鼻に、腹部に、大量の石を投げつけられ、みるみるうちに王は傷だらけとなっていく。

 涙を流し、懇願するダラデニー王。

 しかし石を投げる手を誰も止めようとしない。


 怒りのまま、涙を流しながら、あるいは悲しい顔で、皆は石を投げ続ける。


「助けてくれー!!」


 ダラデニー王の絶叫は、もう誰も従わなくなった町中に鳴り響く。

 そして夕日が沈んで行くのとタイミングを合わすように、彼の声は次第に途切れていった――


 ◇◇◇◇◇◇◇


「み、皆。大丈夫だったか?」

「おお、司。どこ行ってたんだよ?」

「遠くからちまちまクロスボウで戦ってたんだよ」

「ふーん。ま、無事で何よりだな」


 夜の広間。

 血まみれで絶命しているダラデニー王を、町の人々が取り囲み見下ろしている。


「何故俺たちは、こんな男に怯え、従っていたのであろう……」

 

 町の人たちも兵士たちも、死体を見ながら後悔の言葉を吐き出している。


「外から見てたらおかしいことって多いよな。学校なんかでも、しょぼい先輩にへこへこしている奴もいるし……終わってから何だったんだろ、気づくもんなのかな?」

「当事者はどうしようも無いって考えているものなんだろ。数では町の人たちが多いのに、皆は『強者』と認めてしまったものには従わざるを得ないんだ。そこに理屈なんてなくて、皆が従っているから従うという、集団心理も働く。だから中々抜け出せないものなんだろ、こういう当たり前からは」

「なるほどなぁ」


 勇太は頷き、町の人たちに温かい視線を向けている。

 

「でも、もう皆さん大丈夫そうですね」

「ああ」


 由乃が風に揺れる長い茶髪を抑えながら俺の横二立つ。


「皆はもう、自分の意志を持つ強い目をしている」

「ええ。これからも皆さんが強い意志を維持することができれば、安心ですね」


 俺は由乃に頷き、これからの未来のことを話し合うフローラたちの背中をずっと見つめ続けていた。

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