第4話 着ぐるみ士、世界最強に目覚める
俺のステータスに、自分のものだというのに俺は開いた口が塞がらなかった。
「……なんだ、これ」
「なになに、見せて見せて」
思わず素っ頓狂な声が漏れる。目と口をぽかんと開いた俺の横から、ステータスを見ようと顔を突っ込んでくるリーアをどける余裕もない。
なんだ、この化け物みたいなステータスは。いや、化け物「みたい」じゃない。化け物「そのもの」だ。装備の補正値四桁とか見たことないし、装備以外で補正値が付いたのも初めてだ。ナタリアすらも吹けば飛ぶくらいの高水準だ。
さっきまで着ていたアイシクルキティの着ぐるみだと、各ステータスの補正値は
それがどうだ、どの数値も既にケタが違う。
おまけにスキルの数がとんでもないことになっているし、見たことも聞いたこともないスキルがずらりと並んでいる。
「わー、すっごい。ここまで上がるのねー。スキルも勢揃い。すごーい」
対してリーアは俺のステータスを見て感心するばかり、ステータスの上がりようとスキルの揃いぶりに驚いてはいるが、呆気に取られた様子はない。
こいつ、こうなることを分かってたな。
俺は着ぐるみの両手でリーアの顔を両側からぎゅむっと挟んだ。
「……リーア。聞きたいことは山のようにあるが、とりあえず一つ答えてくれ」
「なーに?」
目を見開いてきょとんとするリーアに、俺は真剣な声色で問いかけた。
「俺の種族が、
炎と風、光を自在に操り、大地を駆ける獣の頂点に立ち、その爪はあらゆる魔物を引き裂き、その咆哮はあらゆる魔物をひれ伏させるとされる、伝説の神獣だ。
世界最強の魔物の一角で、魔王の配下でありながら人間に関与しない、冒険者ギルドでも「絶対に手を出すな」と厳命されるくらいの魔物だ。
そして俺の種族が、まさしくそのフェンリルになっている。
おかしい、リーアは自分を狼だと呼称していたから、着ぐるみを着た状態の種族も人間/狼になるはずなのに。
疑念と不信感をあらわにする俺に、リーアは目尻と眉を下げながら答えた。
「ええとね、あたしは確かに種族は狼なんだけど、パパがフェンリルで、おばあちゃん……パパのママが先代の魔王様なの」
「はぁっ!? そんな話、一言も聞いてないぞ!?」
あっけらかんと話すリーアに、俺は開いた口が塞がらなかった。
彼女が、フェンリルの子供だなんて。
しかも、そのフェンリルの母親が先代の魔王、生きたままに退位した今でも歴代最強の魔王としてその威光は健在で、魔物どころか人間からも優れたものと慕われている神魔王ギュードリンだという。
つまり彼女は、ギュードリンの孫。そんなの、強くないはずがない。
批判的な目を着ぐるみの中から向ける俺だが、リーアはどこ吹く風で尻尾を振った。
「だってパパとママのことは聞かれなかったもん。
で、フェンリルってオス限定の称号でね。あたしはフェンリルの資格がないけどジュリオはオスだから、その称号を名乗る資格がある。だから種族が
問われなかったから答えなかった、と何でもないことのように話すリーアに、俺は目を閉じる暇もなかった。
彼女の言葉を噛み締めて、飲み込んで、ようやく自分が、人間を超越した、それどころかそこらの魔物も超越した存在になったことが分かって。
「……つまり?」
確認するようにリーアに問えば。
「その着ぐるみを着ているジュリオは、世界最強ってこと」
打てば響くように、リーアはそれを告げた。
俺が。
世界最強。
「なんだってーーーー!?!?」
もう、叫ぶしかなかった。
まさかこんな形で、こんな流れで、世界最強の座を手にしてしまうだなんて。それも着ぐるみのおかげで。
なんてこった。
「じゃあ、その最強な着ぐるみを作り出す、元となったリーアは?」
「あたしも最強は最強だけど、その力を活かしようがない最強ってこと? あ、大丈夫よ、ジュリオに分けてあげた力は七割くらいだけど、残り三割でもあたし十分に強いから」
おずおずと問いかければ、やはり彼女は何も気にしない風で話してくる。
つまり、リーアは元々世界最強の魔物だけど種族的にそれを活かせなくて、俺が彼女の力を抜き取って着ぐるみにしたが故にその才能を解き放って、こうなったと。
なんてこった。
「なんでそんなとんでもない魔物が、こんな、町の傍のなんでもない山に暮らしてるんだよ……」
俺はまるで自分の身体のように違和感なく扱える着ぐるみ姿のままで、がくりと崩れ落ちた。
これ、冒険者ギルドにどう説明しよう。
今から悩みは尽きなかった。
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