第20話 朗報が怒涛の如く押し寄せた
騎士学院の対抗試合から二週間が経ったある日……私は、理事長室に呼ばれた。
「おはようございます、イナビルさん。今日はあなたに、二点お知らせがあります」
部屋に入ると、理事長テレサさんは私にそう告げた。
「二点……ですか?」
「はい。まず一点目は……第一騎士学院から、謝礼品が届きました」
テレサさんはそう言うと、机の上に金貨の山と一枚の封筒を置いた。
金貨の山は……ざっと見た感じ、一年くらいは普通に暮らせそうな量だな。
「こんなに私に届いたんですか?」
「ええ、そうですよ。内訳は……もしあなたが第二学院の選手を治療しなかった場合第二学院に払うはずだった慰謝料、学院生徒のマナフェタミン中毒治療の謝礼、そしてマナフェタミンに関する情報提供の謝礼とのことです」
確認のため質問すると、テレサさんはそう答えてくれた。
なるほど……確かにこの時代基準だと、首を飛ばされた選手、そのまま死ぬところだったもんな。
その慰謝料相当額が入っていると思えば、この大金もある程度妥当と言えるのかもしれない。
「イナビルさん、収納魔法が使えるはずですし……小切手とかにはせず、現金のままで良いですよね?」
「ええ。その方が助かります」
私はそう言って、机の上の金貨の山を精霊収納にしまった。
「では……この封筒は?」
その後……私は、一枚残った封筒について質問してみた。
「さあ。中身は本人にしか言えないと伝えられましたので……」
だが……テレサさんは、どうやら内容は把握していないようだった。
一体どんな品だったら、謝礼品が「中身は本人にしか言えない」なんて代物になるんだ。
などと思いつつ、私は封筒を手に取る。
すると……その封筒には、一種の封印魔法がかかっていることが分かった。
この封印……正当な方法で解除しないで無理やりこじ開けたりすると、開けた瞬間内容物が燃えてしまうタイプだな。
ということは……解除方法だって当然、知らされるはずだ。
「この封筒、封印魔法がかかっているみたいなのですが……解除方法とかって、聞いていませんか?」
そう思い、私はテレサさんにそう質問した。
だが……帰ってきた答えは、あまりにも予想外なものだった。
「封印魔法がかかっているのは、私にも分かりました。なので、解除方法が別便で知らされたりするのかと思い、聞いてみたのですが……あちらの事務員曰く、そんなものはないと」
「え、じゃあどうやって開ければよろしいのでしょう?」
「事務員がこの封印を担当した魔術師から聞いた話によると……その魔術師曰く『イナビルさんなら私の全力の封印すら容易く強制解除するはずなので、いっそ解除方法は秘匿した方が安全で良い』とのことらしく。なので、頑張って解除してみてください」
……なんと、はなっから解析されることが前提だった。
全くどこのどいつなんだ、そんな馬鹿げた封印魔法の運用方法を考えた奴は。
割られること前提とか、本末転倒もいいとこだろ。
どうせなら、封印術得意な魔術師に頼めよな……。
などと思いつつも、とりあえず私は、封筒を魔法でざっくりと解析してみた。
すると……封印の解除方法が分かり、私はなんとなく魔術師の意図が分かった。
この封印……特定のリズムで電圧をかけることで解除できるタイプの奴だ。
特定のリズムといっても、「最初の一秒間に100回、次の一秒間には70回……」みたいな精度が必要だが。
恐らく……この封印を施した魔術師は、最終試合直後の私の「纏雷の極意」を見ていたんだろう。
それで「雷魔法が得意な私になら、この封印が解除可能」と考えたとしたら、まあ一応辻褄が合う気はする。
実時間にして0.1秒ほどの出来事だったはずだが、よく見逃さなかったな。
そんなことを考えながら、私はリズムパターンも割り出し、封印を解除した。
さて、中身は……。
「騎士団長の特s——」
「ちょ、も、もう解除できたんですか!? ていうかそれ、読み上げないでください!」
中身を読んでいると、テレサさんは慌てたようにそう遮った。
「わざわざ封印魔法でまで秘匿したってことは……私が知ることを望まれていない内容の可能性が高いです。できれば、自分一人で読んでもらえればと」
テレサさんが慌てたのは、そんな理由かららしかった。
……まあ、そう言うならそうするか。
わざわざ読み上げてテレサさんを困らせる理由もないし。
私はざっと手紙に目を通すと、それも精霊収納にしまった。
……ちなみに内容は、「騎士団長 特殊連絡先」というものだった。
具体的には、騎士団長に最重要級人物として対応してもらえる連絡先らしい。
一体全体どんな経緯で私にそんなものが渡されることになったのかは謎だが……まあ、貰えるものは貰っておくか。
などと思っていると、テレサさんがこう続けた。
「そして……二点目ですが。イナビルさんさえよろしければ、私はイナビルさんの卒業時期を、条件付きで更に早めようと考えています」
「……え?」
私はそれを聞いて、耳を疑った。
元々一年にまで短縮された卒業が、更に早くなる……だと?
「具体的には……我が学園用の教科書を作成して頂くこと、そして外部講師として特Aクラスの学生の相談役をすること。この二つの条件を呑んで頂ければ、卒業時期を早めようと思っています。卒業は教科書の作成が終わり次第で、外部講師としての給与はもちろん相場以上に払います。いかがでしょうか?」
そして条件はといえば、本気を出せば明日にでも卒業できるようなものだ。
しかも、そこそこ良さげな食い扶持まで確保できてしまうらしい。
ありがたいという以前に……何だ、これ?
「あの騎士学院対抗試合の時……私は強く思いました。イナビルさんほどの人材を、長く学園に留めておくのは申し訳ない、と。ただ私たちとしても、イナビルさんから可能な限り知識を吸収したいという思いもあり……。そこで、このような折衷案を考えさせていただくことにしました」
困惑していると……テレサさんは、そう経緯を説明してくれた。
「そ、そこまで言ってくださるなら……お言葉に甘えて」
それに対し……私は、即決で承諾することに決めた。
この学園は、居心地は割と良かったものの……何だかんだ言って、卒業した方が自由時間が増えるのは確かだからな。
転生した目的である「新しい精霊を育てること」に注力する上では、その方が都合がいいので……早期の卒業は、できるならさせてもらいたいというのが本音だ。
とはいえ……実際転生してみて、この時代の聖女のレベルに愕然としたのもまた事実。
現状を見てしまった今となっては、ある程度まではクラスメイトたちをサポートしたいというのもまた本心なのだ。
だから……外部講師として相談に乗るという条件は、飲めない理由が無い。
むしろ、これがベストな配分まである。
それが、私がテレサさんの提案を即決承諾した理由だ。
「分かりました。では、それで手続きします」
「ありがとうございます。……失礼します」
私はそう言って、理事長室を後にした。
なんか……今朝はちょっと、びっくりすることが立て続けに起こったな。
◇
そして……私は一日中
「回復魔法学」全350ページ、「精霊学」全100ページ、「属性知識」全60ページ×六属性、それをクラスメイト全員分だ。
紙やインクに関しては学園の倉庫から自由に持ち出し許可してもらったので、一気に仕上げたというわけだ。
……もうみんな属性の習得は終わっている以上、「属性知識」は1人一冊で良いと後になって気づいたが。
まあ、これに関しては無才印の評価がひっくり返った後で大量に必要になるはずなので、結果オーライとしよう。
気づいたら、朝になってしまっているな。
睡眠はしっかり取りたい派なので、普段は使わないのだが……「睡眠負債消滅魔法」でもかけて、今から理事長室行くか。
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