獣王戴冠編

第1話 獣

 青い空。白い雲。寄せては返す波。煌びやかに光る海。


「行くわよリエン! えいっ!」


「わっ、わっ……! レアナちゃんノーコン過ぎです……!」


 それに、太陽の光りを眩しく反射する肌色パラダイス。


 レアナな赤色のビキニで、フリルのあしらわれている可愛らしい水着だ。体型と相まって幼い感じが否めないが、それが逆にエロさを際立たせている。


 リエンは、いつもの暗色系ではなく、ガラリと変わって純白のモノキニだ。布が胸の下でクロスし、でかい胸をさらに強調した水着になっている。


 うんうん、これこそが海の醍醐味だなぁ。


 けど……。


「……帰りてぇ……」


「帰りてぇ、です……」


 パラソルの下、俺とクゥは三角座りをして海を眺める。


 暑い……とにかく暑すぎる……何だこれ。意味分からんくらい暑いんだが、どういうこと?


 太陽の馬鹿野郎。少しは俺達みたいに休みを取れ、喧嘩売ってんのかぶっ飛ばすぞ……。


 太陽に向けてガンつけていると、俺達のいるパラソルにシュユとセツナが近付いてきた。


「ジオウ君。まだそんなこと言ってるの?」


「せっかく海に来たのだ、楽しもう、ジオウ殿!」


 大きめの葉っぱで、局部を隠した姿。シュユ曰く、これがエルフ族の水着だと言うが……余りにも、際どすぎる水着だ。というか本当に水着か、それ?


「俺はパラソルに引き篭ってるから、遊んでこい」


「同じく、です」


「それ引き篭ってないぞ……」


 いいんです、心は引き篭ってるから。


 ぬぼーーー……。


「あ、あのっ、お待たせしました……!」


 んぇ? ……ミミさん……?


「おおっ、ミミ殿、可愛い水着だな!」


「とても似合ってるわよ、ミミ」


「あ、ありがとうございます……」


 薄いピンクのビキニに、花柄のパレオ。頭には麦わら帽子。


 頬を染めて恥じらう姿とはギャップのある……リエンを大きく上回る胸。


 いや、デカいとは思ってたが……まさかこんなものを隠し持ってたなんて……ごくり。


「……あ、の……み、見ないで、くださいぃ……」


「あっ。す、すまん……!」


 急いで顔を逸らす。でも見ちゃうのはしょうがないじゃん、男の子だもん。


 だからシュユ、セツナ。そんな白い目で俺を見ないでくれ。


「おーい! 皆で遊びましょうよー!」


「海気持ちいいですよー!」


 レアナとリエンが手を振っていた。……こうして見ると、年の離れた姉妹みたいだな……。


「俺はここにいるから、遊んでこい」


「むぅ……ジオウ殿も、後で来るのだぞっ」


「待ってるわね、ジオウ君」


 シュユとセツナは手を繋いで、レアナ達の元に走る。肌色と笑顔が眩しいぜ……。


 なるほど、これが平和なんだなぁ……。


「皆さん元気ですねぇ……」


「ミミさんは行かないのか?」


「はい。少し、ジオウさんとお話がしたかったので」


 俺と話し?


 ミミさんは俺の横に座ると、膝を抱えて海を見る。


「……話しを聞いた時は、驚きました。まさかギルドが衰退したのが、ジオウさんがいなくなったからだったなんて……」


「ああ、その話しか。……戻らなくて、幻滅したか?」


「いいえ。ジオウさんの境遇や今まで受けて来たことを思えば、仕方のないことだと思っています」


 ミミさんは海から視線を外し、俺の方を見た。


「ジオウさん、改めてお礼を言わせてください。私を誘ってくれて、ありがとうございます」


「……いや、気にしないでくれ。ギルドメンバーも増えてきて、事務作業員を増やそうと思ってたところだったんだ」


 実際、ミミさんはよく仕事をしてくれている。


 ミミさんがうちに来て既に一ヶ月。元々の仕事をそのまま踏襲してるからか、俺とリエンとエタがやっていた仕事を、一人でこなしている。


 しかも、これでもまだ冒険者ギルドの仕事より少ないんだとか。どんだけブラックな環境だったんだ、あのギルド……。


「仕事も少なくて、お給料は前の職場の倍。ジオウさんと契約して私自身も強くなれましたし、転職して良かったです」


「……そう言って貰えて嬉しいよ。もしかしたら、恨まれてるんじゃないかって思ってたから」


「恨んでなんていません。多分、私も同じ立場なら、戻っていませんから」


 不意にミミさんと目が合うと、どちらともなく笑いだした。


「「「「「じーーーーー……」」」」」


「うおっ!?」


「キャッ!?」


 な、何だよ、こいつら、いつの間に近くにいたんだ……!


「……ジオウ、楽しそうね」


「やはり男はおっぱいか」


「ジオウ君のえっち……」


「巨乳敬語キャラもろ被りなんですが、私……しかも大きさ負けてるし」


「お兄ちゃんは狼、です。ケダモノ、です」


 こ、こいつら、好き勝手言いやがって……一言物申してや……ん?


「おい、何だあれ?」


 海の方で、何が泡立ってるというか……不自然な波が出来てるぞ……?


 んー……? ……あれは……。


「っ! ジオウ、あれ人が溺れてるわよ!?」


「マジか!?」


 てかここ、シュユとセツナのことを考えて、人のいない穴場を見つけたはずなんだけど!


「とにかく助けるぞ! リエン!」


「はい!」


 リエンがアンデッドシノビを操作すると、水上を滑るように走り、溺れていた何かを掴みあげた。


「投げますよ!」


 ブンッ! アンデッドシノビがこっちに向けて投げて来た。


「オーライ、オーライ。よっ」


 ナイスキャッチ、俺。さて、海で溺れた間抜けは誰……だ……?


「……これ……獣人か?」


 見た感じ男なんだろうが、身長はクゥより一回り大きいくらいだ。かなり小さい。


 だが目を引くのは、頭の上に付いてる異様に大きな丸い耳。それに灰色の髪と、腰から生えてる長い尻尾。


 この特徴からして……。


「ネズミ?」


「チュゥ〜〜〜……」

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